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弱点をなくす

本日2回目の更新です。

…………………


 ──弱点をなくす



 フェリクスは決断していた。


 あのフェリクスたちを拉致した男たち──恐らくはドラッグカルテルの構成員は、フェリクスたちの家族を狙うと脅してきた。


 家族は弱点だ。麻薬取締局の捜査官にとってもそうだった。


「今回のことで確信した。本当の脅威はヴォルフ・カルテルだ」


「だが、俺たちが手出しすれば、報復がある。もっとバックアップがあればいいが、俺とお前だけでは無理だ」


「そうだろうな」


 だが、それでもフェリクスはやるつもりだった。


「家族と電話してくる」


「俺はそんな気にはなれないよ」


「ああ。好きにしてくれていい」


 フェリクスはセトル王国にいる家族に電話をかける。


 セトル王国までドラッグカルテルの手が伸びているとは思いたくなかったが、あの男たちはフェリクスの家族がセトル王国にいることを知っていた。間違いなくドラッグカルテルはセトル王国に影響力を持っている。


『もしもし』


「俺だ。元気にしているか?」


『何のつもり? 娘の誕生日をまた無視したでしょう。そんなに仕事が大事なの?』


「ああ。仕事が大事だ。俺は生涯をドラッグ犯罪の阻止に捧げるつもりだ。家族を顧みることなく。俺にとっては家族より仕事の方が大事なんだ」


『あなた、最低よ! 家族が大事でしょう!? プロポーズのときの言葉は嘘だったの!? 私はあなたが東部に行っている間も待っていたし、“連邦”にずっと出張に行っているのにも待っていたわ! それなのにっ!』


「すまないとは言わない。俺は責任を負っているんだ。“国民連合”の市民に。彼らをドラッグ犯罪から守らなくてはいけない。それが気に入らないのならば、別れよう。子供の養育費は払う。慰謝料も」


『そんなものいらないわ。これからは弁護士を通じて話して。それからもう二度と娘の前に現れないで。あなたは最低よ』


「ああ。俺は最低だ」


 電話は切られた。


 妻には慰謝料を払うことになるだろう。子供の養育費も必要だ。妻は作家として生計を立てているが、これから子供の面倒をひとりで見なければならないとなったら、暮らしていくのも難しくなるだろう。


 フェリクスは金持ちというわけではない。だが、麻薬取締局の捜査官の給与はそこまで低くもない。フェリクスはそれでも自分の家族──かつてはそうだった人間のために努力するつもりだった。


 そして、これでドラッグカルテルがフェリクスが家族を捨てたと分かれば、報復の可能性は低くなる。低くなる、だ。皆無ではない。ドラッグカルテルは狂犬だ。フェリクスと関係のあったもの全てを殺しに来てもおかしくはない。


 それでもやらなければ。ここで引くわけにはいかないのだ。


「随分と酷い会話だったみたいだな。嫁さんの叫び声がここまで聞こえてきたぞ」


「そうだな。妻に別れを告げてきた。妻と離婚する。最悪の形で離婚する。これでドラッグカルテルは俺の家族を使って、俺を脅迫することはできなくなるはずだ。ヴォルフ・カルテルについて追うことができる」


「そこまでしてヴォルフ・カルテルを追うのか?」


「エッカルト。あんたは家族がいる。俺と一緒に来なくてもいい。バックアップに回ってくれるだけでいい。あんたの家族まで危険にさらすのは間違っている。あんたは安全な位置から支援してくれ」


「悔しいが、そうするしかなさそうだ。俺は流石に家族は捨てられない。家族はずっと“連邦”に出張している俺に嫌気が差しているようだが、別れるとまでは言わない。子供が生まれたばかりなんだ」


「ああ。そうするべきだ」


 だが、俺はそうできないとフェリクスは思う。


 フェリクスには責任がある。


 ギルバートの死に、スヴェンの死に、カサンドラたちの死に、多くの死に責任がある。今さらその責任を投げ出して逃げるわけにはいかない。責任を取らなければならないのだ。家族を捨てることになろうとも、彼らが命を懸けて追い続けたドラッグカルテルを倒さなければならない。


 そこで電話のベルが鳴る。


「俺が出る。あんたの家族だったら代わるよ」


「ああ」


 エッカルトが電話に出る。


「はい。エッカルトです。『ジョーカー』を? 了解。支援に当たります」


 エッカルトはそう言って電話を切った。


「『ジョーカー』に対する大規模な捜査が行われるそうだ。俺たちも捜査の支援に当たれと言われている。大使館に資料が送られたから、それに従って行動しろ、だそうだ」


「『ジョーカー』を相手に? どこかで捜査に進展があったのか?」


「あったらしい。潜入捜査官からの情報だと。俺たちがあっちこっち行っている間に着実に捜査を進めている連中もいるみたいだな」


「ふうむ。しかし、どのカルテルの潜入捜査官が『ジョーカー』の情報を?」


「キュステ・カルテルだそうだ。連中がやる前に、俺たちの手で逮捕しよう」


「了解」


 それからフェリクスたちは『ジョーカー』の幹部拘束を支援した。


 フェリクスたちは主役ではない。支援だ。幹部を拘束し、取り調べ、運ぶべき場所に運ぶ。“国民連合”の刑務所か。あるいは“連邦”の刑務所か。


 この大規模な捜査によって『ジョーカー』は壊滅的打撃を受けた。


 もはや『ジョーカー』は脅威ではない。


 だが、フェリクスはこの捜査に穴があることに気づいていた。


「『オセロメー』はどうなっているんだ?」


「そういえば、『オセロメー』の構成員はひとりも逮捕できていないな。連中は『ジョーカー』と同盟関係にあったはずだが……」


 今回の『ジョーカー』の逮捕劇で逮捕されたのは、『ジョーカー』の構成員だけだった。『オセロメー』については全く逮捕されていない。


「この情報を売ったのは『オセロメー』じゃないのか?」


「連中が同盟相手を売った、と?」


「『ジョーカー』と『オセロメー』の関係は対等じゃなかった。ボスと子分だ。そして、子分はボスを見限った。『ジョーカー』に将来性はなかった。抗争でどんどん疲弊していき、衰退するばかりだった。だから、『オセロメー』は『ジョーカー』を売った」


「ふむ。可能性としてはあり得るな。となると、誰が『オセロメー』の新しいボスになったんだ?」


「分からないが、情報がキュステ・カルテルから流れてきたなら疑うべきはキュステ・カルテルだろう。だが、ついこの間まで本気で殺し合っていた連中とそうあっさりと講和できるのかどうかは分からないが」


 キュステ・カルテルは『ジョーカー』との抗争で先頭に立ち、『ジョーカー』の同盟者であった『オセロメー』とも殺し合っていた。だが、何かがあって『オセロメー』は降伏し、『ジョーカー』の情報を売り、潜入捜査官がその情報を手に入れた。


 だが、本当に降伏した相手はキュステ・カルテルか?


 フェリクスは何度もドラッグカルテルに騙されてきた。連中は麻薬取締局を手先のように使っている。今回も自分たちが血を流して、抗争によって『ジョーカー』を排除するのではなく、麻薬取締局を使って『ジョーカー』を排除した。


 やはり、謎に満ちたヴォルフ・カルテルというブラックボックスを開けないことには全容は見えてこない。フェリクスはそう思った。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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