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目標に変更なし

本日1回目の更新です。

……………………


 ──目標に変更なし



 フェリクスはそろそろ正直に局長であるハワードに報告しておくべきだと思った。


 取り調べる組織はキュステ・カルテルではなく、ヴォルフ・カルテルであると。


 具体的な証拠はまだ乏しい。


 だが、この状況を主導しているのはキュステ・カルテルでも新生シュヴァルツ・カルテルでもない。彼らは弱小すぎる。メーリア防衛軍を支援したり、共産主義者相手の戦争を繰り広げたりする資金力も体力も残っていない。


 今の状況でヴォルフ・カルテルが何を得するのかは分からない。


 だが、ひとつだけ引っかかることがある。


 以前、スヴェンは『“国民連合”の中に内通者がいる』と言っていた。


 今の吹き荒れるアカ狩りの嵐で得をしているのはドラッグカルテルではなく、“国民連合”なのではないか。ドラッグカルテルは政府の意志決定の段階にまで口出しできるか、あるいはそういう立場の人間から口を出される立場にあるのではないだろうか?


「いずれにせよ、キュステ・カルテルを追っても無駄だ。連中に追うべき価値はない、キュステ・カルテルを倒したところで、すぐにその穴は埋められる。部下か血の繋がった人間によって。迅速かつ、スムーズに」


「そのスムーズな戴冠を手助けするのがヴォルフ・カルテルだと?」


「そうだ。新生シュヴァルツ・カルテルでは力不足、『ジョーカー』や『オセロメー』では論外。旧シュヴァルツ・カルテルはお話にならない。となると、自然に残るのはヴォルフ・カルテルだ。そうだろう?」


「確かにそうだが……」


 エッカルトが唸る。


「しかし、物的証拠がない。状況証拠だけだ。それではヴォルフ・カルテルを検挙することは不可能だ。本局も納得させられない」


「分かっている。だから、俺がハワード局長を説得する」


「凄い自信だが、見込みはあるのか?」


「キュステ・カルテルを追うついでにヴォルフ・カルテルも追えたら御の字ってところだ。そこまで期待はしないでくれ」


「まあ、そうなるだろうな」


 フェリクスはホテルの部屋から麻薬取締局本局に電話をかける。


「もしもし、こちらはフェリクス・ファウスト特別捜査官。ハワード・ハードキャッスル局長に繋いでくれ」


『暫くお待ちください』


 電話の交換手がまずはハワードの秘書室に繋ぐ。


『こちらハワード・ハードキャッスル局長のオフィスです。ご用でしょうか?』


「ハワード局長に捜査の進展を報告したい」


『畏まりました。暫くお待ちください』


 それからハワードに繋がる。


『フェリクス。捜査の進展というのは?』


「我々が追うべきはキュステ・カルテルではありません。ヴォルフ・カルテルです。“連邦”最大のドラッグカルテルはヴォルフ・カルテルなんです。今、連邦を人道危機に陥れているのもヴォルフ・カルテルです」


『何か証拠があるのか?』


「奴らはメーリア防衛軍と取引していました。“連邦”の反共民兵組織です」


『フェリクス、フェリクス。口から出まかせを言うんじゃない。私の持っている情報と君の情報は異なりすぎている。メーリア防衛軍がドラッグ取引? ありえない。彼らにメリットがない。分かったら、キュステ・カルテルを追うんだ。キュステ・カルテルこそが“連邦”最大のドラッグカルテルであり、我々が倒すべき相手だ』


 畜生。分析結果が出たらその言葉をひっくり返させてやる。


「お言葉ですが、局長。あなたは現実を見ていない。誰かにとって都合のいいシナリオを読まされているだけだ。キュステ・カルテルが“連邦”最大のカルテルなら、どうして抗争のときにヴォルフ・カルテルの援助を受けたのですか? それに自分たちの縄張りの復興計画にヴォルフ・カルテルの金を使っているのはどういうわけです?」


『いいか。本局の分析官たちが分析した結果だ。君は政治学や社会学の博士号を持っているというのかね? 彼らは大学で、ドラッグカルテルについて深く学んできたものたちだ。彼らが今の情報を調べて、こうだと判断したんだ』


「しかし、彼らは現場で何が起きているかについては知らないでしょう」


『知る必要はない。我々は頭脳だ。手足のように物事に直接触れて、動かすことは仕事ではない。それは君たち現場捜査官の仕事だ。分かったら、脳の指示に従って動きたまえ。いいな?』


「ええ。分かりました」


 フェリクスはがちゃんと音を立てて電話を切る。


「ダメだったろ?」


「ああ、ダメだ、こっちで独自に動くしかない」


「ヴォルフ・カルテルについて追うのか?」


「ああ。キュステ・カルテルを追うのと同時にな」


 表向きは命令に従う。だが、心の中ではそれに反する行為を行う。


「で、どこから追う?」


「ひとつ、考えていた。ブルーピルだ」


 フェリクスが言う。


「ブルーピル?」


「そう、ブルーピルだ。これの製造方法はヴォルフ・カルテルが独占していると見ている。だが、市場の動きはヴォルフ・カルテルの独占を示唆していない。それぞれのカルテルと競合した価格になっている。つまり、ヴォルフ・カルテルからブルーピルを買っている人間がいるということだ」


「その現場を押さえる、と。だが、どうやって取引の現場を?」


「これがある」


 フェリクスはそう言って、手帳を見せた。


「この名前は?」


「旧シュヴァルツ・カルテルと付き合いのあったキュステ・カルテルの幹部の名前だ。シャルロッテに感謝するべきだぞ。彼女のおかげで、俺たちはこの名簿を手に入れられたんだからな」


「あの子、ここまで深入りしていたのか?」


「ああ。流石は地元の記者なだけはある。旧シュヴァルツ・カルテルから情報を搾り取っている。使用していた電話番号まで記されてるものもある。これを使えば……」


「キュステ・カルテルの誰が取引に応じているのかが分かり、取引現場も押さえられるってわけか。希望が見えてきたな」


「ああ。後はドラッグの成分分析についてだが」


「あれならサンプルを大使館経由で送ったぞ」


「実は少しサンプルを残してある。これをこっちの捜査機関で分析したい」


「何故だ?」


 エッカルトが理解できないという表情でフェリクスを見る。


「信じられないかもしれないが、証拠が消される可能性がある。今の“国民連合”本国は信用できない。紛失したとか、なんとか理由をつけてサンプルを無駄にしかねない」


「そこまで疑っているのか?」


「今までの動きが今までの動きだ。無駄にグライフ・カルテルを追いかけさせたと思ったら、今度はキュステ・カルテルだ。ヴォルフ・カルテルが一番金を持っているのは、お前も分かっているだろう、エッカルト」


「それは、そうだが……」


 エッカルトも薄々感じ始めていた。


 追うべきはキュステ・カルテルではなく、ヴォルフ・カルテルではないかと。


 そして、ヴォルフ・カルテルのかかわった事件を見るたびに、それは確信へと変わっていっている。彼を思いとどまらせているのは本局からの情報という不変の事実だと思われているものだけだ。


 だが、その不変の事実だとするものが間違っていたら?


「分かった。乗るよ、フェリクス」


「悪い連中をぶっ飛ばしに行こう」


……………………

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