極秘偵察任務
本日1回目の更新です。
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──極秘偵察任務
マインラート司教が言っていたことが、フェリクスが推測したことが事実かを確かめるために、メーリア防衛軍に対する偵察活動が立案された。
実行するのは、フェリクスとエッカルト、そして第800海兵コマンドだ。
「これがメーリア防衛軍基地の地図だ」
フェリクスがテーブルに地図を広げる。
「表向きはこの構造になっている。もし、違う点などがあったら、そこが精製所の可能性が高い。事前に航空偵察を実施し、それから侵入して調査する」
「空軍の伝手で上空からの偵察は可能だ。ただし、1度きりだ。1度の撮影で見つけ出せなければ、もはや諦めるしかない」
流石に高射機関砲や対空ミサイルまで備えているメーリア防衛軍の基地をヘリで偵察するわけにはいかなかった。
ここはヴィルヘルムの伝手で“連邦”空軍に頼み、航空偵察を実行してもらうしかない。それもチャンスは1度切りだ。1度の撮影に失敗したら、それでこの偵察計画は頓挫する。かなりの賭けになるだろう。
「では、空軍機の準備ができるまで待ちましょう。決して撃墜などされないように注意をお願いします。メーリア防衛軍はドラッグカルテルと関わり合いがある可能性が大です。相手が国軍であったとしても、問答無用で撃ってきかねません」
「重々警戒するように促しておこう」
それから8時間後。
ヴィルヘルムの伝手で空軍の基地司令官に繋がり、基地司令官は偵察機の出動を命じた。訓練という名目で偵察機はハンガーから出される。“国民連合”が使ったようなジェット偵察機ではなく、ターボプロップ機だ。
カメラは機首にひとつ。1秒間に2枚の写真が撮影できる。
偵察機は滑走路から離陸し、ゆっくりとメーリア防衛軍の基地に近づく。
「まもなく撮影ポイント」
「了解」
これを訓練だと思っている空軍のパイロットたちは緊張感を適度に維持した状態で、メーリア防衛軍の基地上空に達した。
それから撮影が始まる。
偵察機はメーリア防衛軍の基地をぐるりと旋回しながら撮影を行い、基地の細部を明らかにする。兵舎や野戦飛行場、高射機関砲などを撮影していく。この時点で空軍のパイロットたちは自分たちが何を撮影するために派遣させられているのかを理解していない。
ぐるりと基地を2周した時点で地上が騒がしくなり始め、高射機関砲が偵察機をめがけて射撃を開始した。
偵察機のパイロットたちは面食らって、一目散にメーリア防衛軍の基地上空から飛び去った。幸いにして機体に損害もなく、パイロットたちも負傷していない。
撮影された写真はただちにヴィルヘルムたちに送られる。
「これが偵察写真だ」
ヴィルヘルムは便箋から写真を取り出して、フェリクスたちに見せる。
「この施設は図面にはないな」
「どうにも怪しい。それにこの建物の構造はスノーホワイトの精製施設によく似ている。他の薬品の精製施設かもしれないが、ここまで揃っていれば、偵察に向かう価値があるというものです」
「よろしい。では、偵察を許可しよう」
偵察はあくまで隠密で行われる。気づかれてもいけないし、殺してもいけない。
フェリクスとエッカルト、そして第800海兵コマンドの隊員たちは、ヘリで基地の近くまで接近し、ヘリを降りてメーリア防衛軍の施設に向かう。
顔にはドーランを塗って闇夜の中でも目立たないようにし、タイガーストライプの迷彩服を身に纏い、ボディアーマーとタクティカルベストを装備している。武器はサプレッサーのついた魔導式自動小銃と魔導式拳銃、そしてコンバットナイフ。
フェリクスたちは事前の航空偵察で見つかった基地の抜け穴から侵入し。音も立てずにメーリア防衛軍の施設内に侵入した。
「ここが図面にはない場所だ。捜索しよう」
フェリクスたちは暗視装置を装備している。それを使って光もなく、図面にない施設の中を捜索する。第800海兵コマンドから派遣された2名の兵士は見張りと脱出ルートの確保を行っている。
「フェリクス。こいつは怪しいぜ」
「錠剤か。市場に出回っているホワイトフレークと同形状のものだ」
フェリクスは錠剤を乗せたテーブルを写真に収める。
「ビンゴ。スノーホワイトだ。これでもう確定だな」
「ああ。ここはスノーホワイトの精製施設だ」
やはり、改革革命推進機構軍の取引相手というのは、メーリア防衛軍だったのだろう。それが何かが起きて、決裂となった。
フェリクスは施設内全てを撮影し、それからサンプルとしてスノーホワイトとホワイトフレークの錠剤を採取すると、密かな撤収を図った。
だが、そう簡単には行かなかった。
「侵入者だ!」
「警報を鳴らせ! 侵入者だぞ!」
施設をパトロールしていたメーリア防衛軍の兵士たちがフェリクスたちを見つけ、基地内に警報が鳴り響く。それと同時にテクニカルが2台、フェリクスたちの方に向かって突っ込んできたのだった。
「応戦するぞ、フェリクス!」
「仕方ない。撃ち方始め!」
できればメーリア防衛軍の兵士に気づかれないようにしてことを運びたかったフェリクスだが、そうはいかなくなった。
フェリクスたちは応戦を始め、まずはテクニカルの射手を狙い撃ちにする。
テクニカルの射手を潰すと脱出ルートを応戦しながら目指す。対戦車ロケット弾などが飛び交い、その上迫撃砲まで砲撃を始めるとフェリクスたちは防戦一方に押し込まれ、近づく敵を銃撃しながら、ヘリの待っている地点を目指す、
基地を出て、ジャングル内に入ると迫撃砲の砲撃は止まった。
だが、それでも敵の追撃の手が緩んだわけではない。新手のテクニカルは未だ追撃していくるし、基地からヘリが飛び立ち始める。COIN機にまで登場されたら、軽武装の汎用ヘリなどあっさりと撃墜されてしまうだろう。
フェリクスたちはジャングルの中を走り、撤収地点に向かう。
敵は軍用犬を使っている。軍用犬がいかに厄介なのかは前の戦争でフェリクスは思う存分知らされている。
「ヘリだ!」
「急いで乗り込め!」
まずはフェリクスとエッカルトが、それから護衛の海兵隊員2名が乗り込み、ヘリは一気にエンジンをかけ、ローターを回転させて、離陸を始める。
敵のテクニカルが追いつき、魔導式重機関銃の射撃を浴びせかけてくるが、その前にヘリは上空へと飛び上がり、一気にこの空域からの離脱を目指した。
敵のヘリが追いかけてくる様子はない。夜間飛行の経験が少ないのだろう。敵のヘリは基地周辺をぐるりと回っただけで、去っていった。
敵の対空砲火もなく、“連邦”海兵隊のヘリはオメガ作戦基地に帰投し、着陸した。
「エッカルト。すぐにこれを本局に回して成分分析を。これがホワイトフレークだとして、どこで出回っている品なのかを特定したい」
コーヒー豆が場所によって品種が違うように、スノーホワイトも場所によって成分が僅かながら異なっている。今、“国民連合”に出回っているドラッグの成分分析を行えば、このドラッグがどこで出回り、どのカルテルが関与しているかまで分かるかもしれない。それだけの望みはあるにはあった。
だが、最大の収穫はメーリア防衛軍もまたドラッグカルテルであるということが判明したことだ。そして、恐らくは改革革命推進機構軍と取引していた。
これが事実ならば、反共主義の民兵も共産主義のゲリラも両方が揃ってドラッグビジネスに顔を突っ込んでいることになる。
ドラッグはもはやイデオロギーすらも越えて、違法な資金調達のために使用されているのだ。麻薬取締局として今後はメーリア防衛軍もマークする必要性があることと、メーリア防衛軍に対する正式な捜査の必要性をハワードに説かなければならない。
「とりあえずは俺たちの勝利だよな?」
「ああ。勝利だ」
フェリクスとエッカルトは瓶ビールで乾杯した。
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