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アカ狩りの時間

本日2回目の更新です。

……………………


 ──アカ狩りの時間



 アロイスの下に興味深い情報が入り込んだのは、抗争が始まってから2週間目のことだった。それはノルベルトとエーディットを殺し、アロイスの顔に泥を塗った真犯人についての情報であった。


「改革革命推進機構軍? 本当に?」


 アロイスは信じられないという顔をしてマーヴェリックから渡された資料を見た。


「当たりだと思うよ。攻撃の準備には『ジョーカー』のような連中も関わっていたけれど、実行したのは改革革命推進機構軍。共産ゲリラが犯人だ」


 アロイスは愕然とした。


 共産ゲリラ? そんな“ちゃち”な連中がヴォルフ・カルテルに喧嘩を売ったのか?


 確かにこれまで連中はノーマークだった。せいぜい、連中がリクルートする少数民族が『ジョーカー』の兵力の供給源になっているから、連中を追い詰め、殺していただけである。それ以上のことは何もしていない。


 いや、むしろ向こうの利益になることをしていた。連中が生産するスノーホワイトを買い取って、メーリア防衛軍にスノーパールやホワイトフレークなどに加工させていた。


 それで向こうもかなりの利益を得たはずである。


「共産主義者は信用できないって言ったろ? 連中は裏切った。思い知らせてやるべきだ。本当の“連邦”の支配者が誰なのか。それはアカどもじゃないってことを」


「その通りだ。アカどもも皆殺しだ。徹底的に排除してやる。この国からアカを根絶してやる。舐め腐ったことをしてくれやがって」


 だが、そこでアロイスは思いとどまる。


「いや。待て。共産ゲリラの相手はこれまで通りメーリア防衛軍に任せた方がいい。下手に共産ゲリラを攻撃して、東大陸へのパイプラインが破断するのは不味い」


「“大共和国”を経由しているから?」


「そうだ。“大共和国”の機嫌を損ねたくない。彼らは理性ある共産主義者だ」


「共産主義者に理性的もクソもないね。共産主義者は頭に膿が湧いてるのさ」


 マーヴェリックは徹底的な反共主義者だ。


 だが、彼女の言わんとするところも分かる。


 共産主義者は共産主義者だ。そこに区別などない。連中はイデオロギーを重んじ、ビジネスを軽視する。例外はサイード将軍ぐらいのものだが、奴にしたところで、イデオロギーを完全には無視していない。無視できない。国家がイデオロギーを強制し、それに従わなければならないからこそ、奴は隠れ潜むように反共的取引を行ってるのである。自分が悪いことをしていると理解しているからこそ、隠れ忍んでいるのである。


 共産主義者は共産主義者、連中は自由を抑圧し、平等という名の格差を広げる。共産圏で裕福なのは党幹部と軍人だけ。軍人も党幹部に近い人間だけが裕福だ。サイード将軍も党幹部に近い立場ではないから、取引を望んだのだ。


 共産主義が平等な社会を、素晴らしい社会を作ってくれるなど幻想だ。ヤク中の戯言だ。共産主義は共産主義の理論で貧富の差を作る。自由は抑圧され、秘密警察に監視され、国家の言いなりになるしかなくなるのだ。


 それが共産主義。


 アロイスは資本主義の醜い面を見てきた。資本主義は金が全てだ。金を持った人間はなんだろうとできる。政治を動かすことも、法律を変えることも、自分の罪を逃れることもできる。だが、社会的弱者は何もできない。


 共産主義も資本主義も醜い豚の争いだ。


 だが、敵に回ったのであれば、叩かなければならない。


「改革革命推進機構軍は引き続き、メーリア防衛軍に叩かせる。こっちは連中の支持母体を叩く。それからやはり攻撃に加担していた『ジョーカー』を始めとするカルテルたちも叩かなければならない」


 攻撃範囲を拡大。殺し、殺し、殺し、自分たちを舐めたものを殺しつくす。


 殺戮の嵐が再び吹き荒れた。


 まずは『ジョーカー』が襲われる。『ジョーカー』はじわじわと追い詰められつつも、抵抗を続けている。『オセロメー』との同盟関係も維持され、金と暴力を有し、権力を構築していた。


 その『ジョーカー』との戦いを続けながら、アロイスたちは別の目標も射程に捉え、撃ち抜いていく。


 つまりは左派の活動家たちや、共産主義者、容共的な人間たちである。


 つまりはアカ狩りの季節が訪れたのだ。


 学生のパーティーにまたしても汚職警官が乱入する。だが、今度は事故ではない。意図的なものだ。左派の学生運動家のパーティーを警察が強襲し、参加者を皆殺しにした。死体は両膝を撃ち抜かれ、頭に一発の弾丸を受けていた。


 カルテル式の処刑方法だ。


 ドラッグカルテルも動いていた。


 ヴォルフ・カルテルの『ツェット』は左派の思想を宣伝する教師を拉致し、マリーが拷問に拷問を重ねてから、最後はマーヴェリックが燃料を詰めたゴムタイヤを被せ、そもまま火を放った。“連邦”式ネックレス。


 活動家も教師も死ぬまで相当の苦しみを与えられ、惨たらしい死体に変えられてから、市街地に吊るされた。街路樹は死体を下げる場所に成り果て、降ろそうとしたものは、同じように死体にされた。


 もはや、中世さながらの状況へと“連邦”は陥った。


 ドラッグカルテルによるアカ狩りは何もかも区別せずに実行され、ジャーナリストも共産主義の思想を持っていると思われれば、容赦なく処刑された。ドラッグカルテルはジャーナリストを殺したときにはわざわざ他の出版社を通じて声明を発表する。


 こうだ。『この国に毒をまき散らすものは、ひとり残らず殺しつくす』と。


 だが、活動家たちもやられてばかりではない。


 彼らは平和的な方法で今の状況の改善を政府に訴えた。


 彼らは叫ぶ。『ドラッグカルテルに法の裁きを』『我々に言論の自由を』『暴力による抑圧を取り除け』と。


「共産主義者が言論の自由とは笑わせる。殺せ。見せしめにしろ」


 アロイスの命令はただちに実行された。


 まずはピックアップトラックに乗った男たちがデモが行われている広場に乱入し、魔導式短機関銃を乱射した。これによって多数の犠牲者が生じる。だが、病院は彼らを受け入れようとはせず、見殺しにする。


 それでもなおデモを続けようとするものが現れたために警官が投入された。汚職警官だ。汚職警官たちはデモ鎮圧用の装備を纏い、魔導式自動小銃を手に、広場に姿を見せ、手あたり次第に銃を乱射した。


 生き残りがいればトドメを刺し、広場にいた運動家たちを全滅させた。


 政府は政府の許可なく行われるデモにはそれ相応の武力を以てして対峙するとし、街頭で行われたパレード式のデモには手榴弾が投げ込まれた。


 もはや、一連の抗争でどれだけの人間が犠牲になったのか、カウントすることすらもできない。人は死に続け、ドラッグカルテルは恐怖を示す。


 やがて、強固な活動家を除いて、ほとんどの活動家が自分の命が惜しくなって活動から手を引いた。所詮は反共主義を押し付ける親への反抗心や新しい社会への不確かな希望によるものだったのだ。それに圧倒的な武力と恐怖が叩きつけられれば、彼らの意志が砕け散るのは当然のことだと言えた。


 ひとり、またひとりと活動家は減っていく。


 それでもドラッグカルテルは追撃の手を緩めなかった。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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[一言] 某幼女が喜びそうだなあ
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