虐殺命令
本日1回目の更新です。
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──虐殺命令
アロイスによる敵対するもの全ての殺害命令が下された。
組織的に攻撃を実行する能力があるのか、ないのかを別にして殺すのだ。
文字通りの皆殺し命令だ。
まず襲われたのは『ジョーカー』の残党だった。
動員された『ツェット』の部隊が酒場などでたむろしている『ジョーカー』の残党を強襲し、蜂の巣にした。マーヴェリックが攻撃に参加したときは、『ジョーカー』の残党たちは炎に包まれて、のたうち回った。
「燃えろ。燃えろ。燃えちまえ」
アロイスもマーヴェリックの殺し方には納得していた。いや、満足していた。
自分たちも花嫁を焼かれたのだから、こちらも焼き殺す。
焼き殺す。焼き殺す。ミディアムレアに焼き殺す。
だが、当然のことながら『ジョーカー』も反撃に転じる。かつてほどの規模も組織力もないものの、アロイスの縄張りで暴れ、テクニカルで商店に銃弾を叩き込み、火炎瓶を投げ込み、魔導式短機関銃を乱射する。
抗争は再び勃発した。
そして『ジョーカー』の参戦と同時に『オセロメー』も参戦した。
新興のギャングである『オセロメー』は少数民族で構成され、不法越境とドラッグの密輸・密売で稼いだ資金で得た武器を使って、今度はヴォルフ・カルテルと同盟関係にあるキュステ・カルテルに対する攻撃を始めた。
戦火は瞬く間に拡大する。
ヴォルフ・カルテル、キュステ・カルテルが『ジョーカー』と『オセロメー』に対する攻撃を行い、さらに旧シュヴァルツ・カルテルの残党が新生シュヴァルツ・カルテルを攻撃する。“連邦”の全てのドラッグカルテルが抗争に加わった。
劣勢なのは『ジョーカー』、『オセロメー』、旧シュヴァルツ・カルテルの方だが、彼らは正面からヴォルフ・カルテル、キュステ・カルテル、新生シュヴァルツ・カルテルと戦うのを避け、彼らの縄張りを荒らしまわる選択肢を取っていた。
それに対してヴォルフ・カルテルを始めとする部隊はそれを迎撃しつつ、敵対組織の幹部たちを狙う。ヘリが上空を飛び交って、幹部の家を強襲し、『ツェット』の部隊が一斉に幹部に銃弾を浴びせかける。
街は大混乱だった。
終わったはずの抗争が再び始まり、一般市民も虐殺に巻き込まれる。
いや、ヴォルフ・カルテルは民間人も狙っていた。
前々からドラッグカルテルに否定的だったジャーナリストや教師、学生運動家、そして聖職者が次々に焼き殺される。マーヴェリックの炎は戦闘員と非戦闘員を区別せず、とにかく相手を焼き上げていた。
ミディアムレアに焼き上げられた死体は見せしめのために吊るされ、街のあちこちで人の焼ける臭いを放った死体が吊るされ始めていた。
それはまるで地獄のようであった。
だが、本当の地獄はまだ始まったばかりだ。
「殺せ。徹底的に殺せ。殺して、殺して、殺して。ヴォルフ・カルテルの恐怖を連中に教育してやれ。それこそが統治というものだ」
街中は戦場と化した。
ヴォルフ・カルテル側は『ツェット』のみならず、汚職警官も動員して戦争を続ける。『ジョーカー』の件で規律が見直された軍警察と違って、一般警察は未だに汚職が蔓延っていた。警察は捜査と称して『ジョーカー』や『オセロメー』の拠点を強襲し、魔導式自動小銃や魔導式短機関銃で構成員たちを皆殺しにしていく。
民間人がギャングやカルテルと間違われて殺されることなど日常茶飯事だった。一度などは大学生たちがパーティーを開いていた場所に警察が押し入って銃火器を乱射し、間違って何の関係もない大学生たちを皆殺しにしたことすらあった。
何もかもが撃ち殺され、何もかもが燃やされる。
ひとりの『オセロメー』の構成員を殺すのに2発の手榴弾が使われ、10名が死亡する。何の関係もない民間人が大量に死亡する。
それは『ツェット』においても同じことだ。
高度な軍事訓練を受けた彼らでさえ、民間人の犠牲なしに獲物は仕留められなかった。彼らも時と場所を選ばずに攻撃を仕掛け、民間人の犠牲者を出していた。人が死に、人が死に、人が死ぬ。
特にマーヴェリックが参戦しているときは苛烈だった。
彼女は炎を振りまく。民間人がいようといまいとお構いなしに炎を振りまく。ミディアムレアに焼き上げる。炎は恐怖の証だった。ヴォルフ・カルテルは自分たちに塗られた泥を同じ泥によって恐怖として利用した。
「焼けろ。焼けろー。全て焼けちまえー。何もかも焼けちまえー」
マーヴェリックは捕虜になった『ジョーカー』、『オセロメー』、旧シュヴァルツ・カルテルの構成員を焼き殺した。生きたまま焼く。ドラム缶に詰めてローストにする。同じようにドラム缶で茹で上げる。
炎はとにかく恐怖のために利用した。
炎。真っ赤な炎。それは恐怖の象徴。
炎は双方が利用する。『ジョーカー』たちも火炎瓶としてヴォルフ・カルテルなどのドラッグカルテルの構成員が使用する店舗に投げ込む。ヴォルフ・カルテルたちも、炎で『ジョーカー』などの構成員を焼く。
報復合戦は苛烈を極め、あちこちで安全な場所に人々が逃げようとする。
その多くは“国民連合”であったが、“国民連合”は『オセロメー』が人間ドラッグ袋を利用し始めてから入国管理を厳密にしており、なかなか“連邦”の国民を入国させようとはしない。
その間も“連邦”では安全地帯のない戦争が繰り広げられる。
弱小である『ジョーカー』や『オセロメー』、旧シュヴァルツ・カルテルはゲリラ戦に出て、相手の縄張りに少人数の武装集団を送り込んでテロ染みた攻撃を行う。そのため後方というものがこの戦争には存在しない。『ジョーカー』全盛期の抗争でもヴォルフ・カルテルの縄張りは安全だったが、この戦争ではそんなことはない。
「連中に恐怖を示すんだ。恐怖を。臓腑に、脳髄に染みこみ二度と取れない恐怖を」
アロイスは結婚式の件でチャラになった恐怖を再び“連邦”の市民に教育しようとしていた。“連邦”の市民と、ドラッグカルテルに、ヴォルフ・カルテルの恐怖を思い出させようとしていた。
アロイスの命じるがままにヴォルフ・カルテルは動く。
未だに抵抗を続ける『ジョーカー』と『オセロメー』からドラッグカルテルを批判する野党の政治家に至るまでアロイスのターゲットになった。
野党の政治家が殺害されたというニュースがテレビで報道されている。自宅にいたところを焼き殺されたというニュースだった。やったのはマーヴェリックだ。アロイスの命令でマーヴェリックが実行した。
「俺たちも随分と殺したものだ」
アロイスはテレビで報道されるドラッグカルテル関係の事件を見ながらそう呟く。
マスコミも学習している。ヴォルフ・カルテルなどを批判する報道は許されないが、『ジョーカー』や『オセロメー』、旧シュヴァルツ・カルテルを批判する報道はある程度許されているということを。
「もっと殺さないとね」
マーヴェリックが人の焼けた臭いを漂わせながらそう言う。
「ああ。もっと殺さないといけない」
連中に拭い難い恐怖を徹底するまで殺し続けないといけない。
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