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密林での取材

本日1回目の更新です。

……………………


 ──密林での取材



「ここら辺には来たことがあるのか?」


「いいえ。初めてです。何せ、地元紙ですから」


 “連邦”東南のジャングル地帯。


 フェリクスは以前、ここに来たことがあった。


 ここで『ジョーカー』が少数民族を兵士としてリクルートしているという話があり、それを阻止するために他のドラッグカルテルがここを攻撃したからだ。ジャングルがナパーム弾で焼き払われ、悲惨な様相をなしていたのを覚えている。


 あれから『ジョーカー』とキュステ・カルテルの戦争も終わり、果たしてジャングルはどうなったのだろうかという思いがフェリクスにはあった。


 フェリクスたちを乗せた小型機は地方の辛うじて飛行場と呼べる場所に着陸し、10人乗りの小型機からフェリクスたちを含めて6名の男女が降りていく。


 マスコミ関係者が多いように感じられた。後はアウトドアルックの民間人。カメラも何も持たずに、荷物を受け取るとそれを空港に待っていたトラックに積み込んでいる。


「さて、これからは?」


「レンタカーを借りてあります。それを使って」


 シャルロッテはそう言って、空港──というには滑走路と小さな管制塔しかないが──の中の倉庫に向かい、そこで空港の作業員たちに声をかけた。


「すみませーん! レンタカーを手配しておいてもらったものですがー!」


「ああ。報道の人ね。こいつだ。四輪駆動車。爆撃には注意してな」


 男たちはおんぼろの四輪駆動車を倉庫から出してきた。ご丁寧に車両の天井には“PRESS”とダクトテープで記されている。つまり、自分たちが報道関係者であることを示さなければ、爆撃を受ける場所にこれから向かうのだ。


「俺が運転しよう。四駆の運転は慣れている」


「じゃあ、お願いします」


 フェリクスとシャルロッテが四輪駆動車に乗り込む。


「目的地は?」


「ナビしますから、その通りに」


「了解」


 フェリクスはシャルロッテのナビに合わせて道を進む。時々道を間違って引き返すこともあったが無理もない。ジャングルの道は完全に整備されているわけでもないし、爆撃や装甲車の移動で道が破壊されていることもある。


 道なき道と言わずとも、かなり険しい道を進むこと5時間弱。


「見えてきました! あそこです!」


 シャルロッテが声を上げる。


 彼女の指さす先には、簡易テントの立ち並ぶキャンプ地があった。


「難民キャンプか?」


「ええ。ここを運営している方にインタビューするんです」


 シャルロッテはそう言うと、フェリクスが車を停めた時点で飛び出していった。フェリクスも四輪駆動車にカギをかけて、シャルロッテの後を追う。


 シャルロッテはきょろきょろと辺りを見渡しつつ、目的の人物を探す。


 そして、彼女はその人物を発見すると真っすぐ向かっていった。


「マインラート・ミュンツァー司教ですね? お話をお聞かせ願えますか?」


「おやおや。お嬢さん。そういう時は自分から名乗らなくては」


「あ。申し訳ありません。私、こういうものです」


 シャルロッテが名刺を差し出す。


「ふむ。地方新聞の記者さんか。どうぞ、聞きたいことがあれば聞いてくれ」


 そういう男はサウスエルフとノースエルフの混血で、髪の毛は剃ってスキンヘッドにしており、背丈はフェリクスより5センチほど低い。擦り切れた祭服を纏い、登山靴を履いている姿は奇妙ですらある。


 フェリクスは何も言わずに、シャルロッテの背後に付く。


 難民キャンプは決して安全な場所ではないのだ。


「後ろの君は記者ではないね?」


 マインラートが鋭く指摘するのにフェリクスが一瞬たじろぐ。


「ええ。そうです。元海兵隊員です」


「そうか。私が見るに君は戦争に従軍してきただろう。“国民連合”の海兵隊かな?」


「どうしてそれが?」


「軍人と民間人は動きが違うし、戦争を経験したものはなお違う。それだけだよ」


 マインラートはそう言って小さく笑った。


「しかし、君は元海兵隊員と言ったね。今は何を?」


 フェリクスはこの問いに素直に答えていいのか迷った。


「麻薬取締局の捜査官です」


「麻薬取締局か。確かにこの国のドラッグ問題は根深い」


 マインラートが頷く。


「では、麻薬取締局の捜査官を連れた記者さん。話を聞こうか?」


 そう言ってマインラートはテントのひとつにフェリクスたちを案内する。


「何が聞きたいかな?」


「まずは、どうしてこの活動を?」


「簡単だ。神に奉仕するということは、人々に奉仕することだからだ」


 マインラートは穏やかな笑みを浮かべてそう答えた。


「しかし、ここにいる少数民族は旧教徒でも新教徒でもありませんよね?」


「彼らが何を信仰していようと関係ない。改宗を迫ったりもしない。教義を押し付けたりもしない。ただ、彼らは我々と同じ人であり、困窮している。それを助けることは我々に与えられた義務だ」


 マインラートはシャルロッテの問いに淡々と答える。


「まず、新教でも旧教でも教えにはこう書かれている。『汝の隣人を助けよ』と。それがどのような人物であれ、我々は博愛の気持ちで助けなければならないのだ」


「なるほど」


 シャルロッテがマインラートの言葉をメモする。


「では、ここにいる少数民族を攻撃しているメーリア防衛軍やドラッグカルテルには反対されますか?」


「シャルロッテ」


 彼女が反共民兵組織とドラッグカルテルの名前を出すのにフェリクスが制止する。


「構わない。答えよう。はっきりいって彼らには反対する。メーリア防衛軍は共産主義とは関係ない村落を攻撃している。ドラッグカルテルは自分たちの争いに、彼らを巻き込んでいる。どちらも非難されてしかるべきだ」


 フェリクスはこのインタビューが記事になったときのことを考える。


 何をしでかすか分からない反共民兵組織とドラッグカルテルを非難する記事を掲載すれば、マインラートはおろか、シャルロッテも危険にさらされるだろう。


 ようやくドラッグカルテルから手を引いてくれたと思ったのに、シャルロッテはまだ我が道を行くようである。


「資金集めなどは熱心にされているようですが、“連邦”政府からの支援は?」


「あまりない。活動資金のほとんどは“国民連合”頼りだ。“連邦”政府は自分たちの国土で起きている人道危機に無関心であるようでならない」


 “連邦”政府まで敵に回したら、いよいよもって味方がいなくなるぞとフェリクスは内心で呻いていた。


「お答えいただきありがとうございます。“連邦”ではこのような人道危機が各地で多発していますが、人々に何を求めますか?」


「まずは健全であることだ。ドラッグに手出ししないこと。犯罪行為に加担しないこと。いかなる不正にも手を染めないこと。そして、その上で隣人愛の精神を持ってもらいたい。隣人を助けることは自分を助けることと同義なのだから」


 マインラートは微笑んでそう言った。


「では、後で写真をよろしいですか?」


「もちろんだ。しかし、君は変わっているね」


「そうですか?」


「ここに来る記者たちは少数民族が改宗しないのに何故支援するのかということばかりを質問する。私の派手な活動資金集めのパーティーを必ず非難する。しかし、君はそうではなかった」


「それはですね。私にとってはもっと重要なことをお聞きしたかったからです」


 そう言ってシャルロッテはウィンクした。


……………………

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