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新人研修

本日1回目の更新です。

……………………


 ──新人研修



 かつて『ジョーカー』とキュステ・カルテルが抗争を繰り広げた街で市長が誕生した。これまではドラッグカルテルからの脅迫や、暴力行為を恐れて、誰もなりたがらず、街の機能がマヒしていたところに復興の兆しが見えたのだ。


 誰もが復興を歓迎している。


 また町が機能し、ドラッグカルテルの暴力に怯えずとも済む日が来ることを望んでいる。そして、それは実現可能なように思われていた。


 街のインフラは少しずつだが、整備しなおされて行く。ようやく市役所に人が入り、町が動くようになったのだ。抗争で破損していた市役所も少しずつ復旧し、話を聞いた街の人々が戻り始めていた。


「シャルロッテ。約束だ。そちらの情報源について教えてくれ」


「もう少し街が発展してからではダメですか?」


「ダメだ。話してもらおう」


 フェリクスたちもこの復興に関わったが、その目的は街の復興ではなく、新聞社が情報源にしている元シュヴァルツ・カルテルの構成員について知るためだ。


 もちろん、フェリクスたちとしても街が復興する様を見るのは心が安らぐ。またひとつ、抗争の爪痕が消えると思うと嬉しい限りだと思う。


 だが、これは根本的な解決にはならない。


 根本的にこの問題を解決するには、ドラッグカルテルを叩かなくては。


 フェリクスはそう思っていた。


「じゃあ、情報源から話を聞いて来ますから、聞きたいことを教えてください」


「それではダメだ。情報源と直接話さなければならない。彼らには証人保護を約束するし、免責も与える。少なくとも“国民連合”麻薬取締局はその元構成員が関わった事件について何かしらの追求をするつもりはない」


「……分かりました。けど、バッヂを見せるのはなしにしてください。私の記者仲間ということで」


「それでは証人保護と免責が……」


「証人保護で何人の人が助かりましたか? ドラッグカルテルは証人保護なんて気にもしませんよ。必ず見つけ出して、報復する。それなら最初から麻薬取締局とは無関係でいた方がいいじゃないですか」


「それはそうかもしれないが……」


「それに免責なんてダメですよ。人を殺したこともあるって自慢してるんですから。いつか逮捕してください。では、あなたたちは今から私たちの会社の新人記者です。いいいですね? こういうのって得意です?」


「まあ、それなりには」


「では、結構です。行くのはひとりだけですけど、どちらにします?」


「俺が行こう。エッカルトはいざという時のバックアップを頼む」


 フェリクスの指示にエッカルトが頷く。


「では、行こうか」


「行きましょう」


 エッカルトはSUVで、フェリクスとシャルロッテは社用車だというおんぼろのセダンで、情報源との接触場所に向かう。


 街を出て別の街に入り、裏道を進む。そして、少ししたところでシャルロッテは車を停めた。そして、降りるようにフェリクスに促す。


「ここも相当荒れたようだな」


「あの抗争で荒れなかった連邦の街は西部ぐらいですよ。西部はヴォルフ・カルテルが完全に牛耳っていますから。それでもヴォルフ・カルテルが内部粛清を行った時には多くの民間人が犠牲になりましたけれどね」


「ああ。知ってる」


 ヴォルフ・カルテルが2度も内部粛清をやったから、麻薬取締局本局はドラッグカルテルとしてのヴォルフ・カルテルは弱体化したと分析したのだ。そうでないとするならば、粛清は相当念入りに計画され、軍事作戦のように、あるいは外科手術のように正確に行われたに違いない。


 本局の分析を覆せるほどの情報が手に入れば、その情報を基にヴィルヘルムを動かすことも可能かもしれない。


 ヴィルヘルムは今も『ジョーカー』を追っている。『ジョーカー』の登場の衝撃はそれだけすさまじかったのだ。普段は無関心なマスコミが『最悪のドラッグカルテル』と呼んだだけはあるというものだ。


 人を焼き殺し、装甲車に捕虜を括りつけるようなことをやっていればそう呼ばれるというものだ。ヴィルヘルムはまた『ジョーカー』が生き返るのではないかと、最後のひとりまで『ジョーカー』を取り締まることを掲げている。


 だが、『ジョーカー』の脅威は過去のものだ。ギュンターを失った『ジョーカー』は分裂し、『オセロメー』を始めとする小規模で、残酷なギャングに変わった。今でこそドラッグビジネスを続けているだろうが、以前ほどではない。


「では、いきますよ」


「了解」


「もっとやる気のないジャーナリストっぽく」


「分かった、分かった、ボス」


「そうそう。そんな感じで」


 シャルロッテは通りを進み、半地下のバーに入った。


「ご注文は?」


「カルアミルク。こっちの人にはジントニックを」


 バーテンダーが尋ねるとシャルロッテがそう注文した。


「俺の好みのカクテル、よく知っていたな」


「適当にいっただけ。分かるわけないよ」


 そう言ってけらけらとシャルロッテは笑った。


「情報源はいつ?」


「もうすぐ」


 待つこと5分ほどで新しい客がやってきた。


 その客にシャルロッテが手を振る。


「ロッテ。今日も取材か?」


「ええ。話を聞かせてくれたら、報酬ありよ」


「いつも通りの額か?」


「もちろん。不満でも?」


「いいや。不満はない。だが、その男はなんだ?」


 やってきた男はソフトモヒカンで、腕に蛇の入れ墨を入れていた。リンゴを齧る蛇の入れ墨。随分と宗教にのめり込んでいるらしいとフェリクスは思う。


「こっちは新入社員。今日は社員研修もかねて、ね?」


「分かった。何が聞きたい」


 フェリクスはあらかじめ聞きたいことをシャルロッテに渡してある。


「ヴォルフ・カルテルについて今日は聞きたいかな。ドミニクさんとは仲が良かったの? 悪かったって話はあの時になるまで聞かなかったけれど」


「ああ。あの時まではヴォルフ・カルテルが裏切るだなんて誰も思っては見なかった。なんでもボスはヴォルフ・カルテルのおかげで無事に過ごせることになったって礼を言っていたくらいだからな」


 フェリクスにとっては以前ドミニクから聞いた話だ。


 何かしらの支援を受けて、シュヴァルツ・カルテルは存続できたと言っていた。その支援者がヴォルフ・カルテルだとも。


「ヴォルフ・カルテルが今も怪しいと思ってるんだけど、どう?」


「どうもこうもねえよ。今でもこれからもヴォルフ・カルテルは“連邦”最大のドラッグカルテルだろうさ」


 ヴォルフ・カルテルが最大のカルテル。


 やはりそういう気はしていた。いきなり内部分裂だとか何だとかを起こすような組織ではないと。ヴォルフ・カルテルには潤沢な資金力があり、その資金力はあちこちに繋がる密売ネットワークから得られているのだと。


「“連邦”最大ということは密輸ネットワークも?」


「それについてはなんとも言えねえ。俺はボスの身辺警護が仕事だった。密輸・密売ネットワークについてはノータッチだ。ボスの気に入らない人間を消し、ボスの気に入った人間には褒美を与える。そういう仕事だ」


 これは前にも話さなかったかと酔った元シュヴァルツ・カルテル構成員は考える。


「聞いたかもしれませんね。では、もうひとつお聞きしたいのですが、“国民連合”政府とヴォルフ・カルテル間に関係はあったりしますか?」


「冗談だろう?」


「いいえ。本気です。ある方が関係がある、と」


「“国民連合”との関係ねえ……」


 元シュヴァルツ・カルテルの構成員が考え込む。


「それは知らないな。どうやったらそんなコネができるのか想像もできない」


 元シュヴァルツ・カルテルの構成員は首を横に振る。


「ただ、言えるのは新生シュヴァルツ・カルテルはヴォルフ・カルテルの傀儡ってことだけだ。連中が“国民連合”と繋がりを持っているかどうかは知らないが、これだけははっきりと言える」


「そうですか。ありがとうざいます。これはお礼になります。お互いに悟られぬようにお願いしますよ」


「分かってる、分かってる。そっちの新入社員からは質問はないか?」


 そう言って元シュヴァルツ・カルテルの構成員がフェリクスを見る。


……………………

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