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スクープを得ろ

本日1回目の更新です。

……………………


 ──スクープを得ろ



 アロイスたちがエルニア国に向かおうとしている中、フェリクスたちは独自に行動していた。独自に、というのは麻薬取締局本局の命令に反してということになる。


「では、事実なのですね?」


 フェリクスはエッカルトの前でもう一度確認する。


「ああ。事実だとも。我々はシュヴァルツ・カルテルの残党から情報を得ている。グライフ・カルテルの残党からも。連中は忌むべきドラッグの売人だが、今や落ちぶれた連中だ。我々はそういう人間から情報を得る。奴らは報復のために情報を売る」


「信じられない」


 エッカルトは悩むように額を押さえた。


「だが、事実だ。この地元紙の情報は本局の分析官たちの情報より正確だ。『ジョーカー』、『オセロメー』、ヴォルフ・カルテル、キュステ・カルテル。かなり深いところまで突っ込んだことが記されている」


「どうして本当だと分かる?」


「本局の情報より辻褄が合うからだ」


 フェリクスは新聞を広げる。


「ここだ。『ヴォルフ・カルテルは意図的にシュヴァルツ・カルテルを再独立させた。それは自分たちに麻薬取締局の注意が向き過ぎないためである。新生シュヴァルツ・カルテルのボスであるジークベルト・シェレンベルクはドミニクの妻子を攫うのに、ヴォルフ・カルテルに協力している』だ。これならどうしてシュヴァルツ・カルテルが再独立したのかが分かるし、本局の言うようにヴォルフ・カルテルは弱体化したという結論ありきの分析ではなくなる」


「しかし、言っては悪いが、ただの地元紙だぞ? それをエリート中のエリートが集まる麻薬取締局本局の分析官の分析より正しいって言うのか?」


「ああ。言うとも。こっちが正しい。本局の情報は歪んでいる。俺たちは間違った情報で行動するべきではない」


「本局になんていうんだ? 地元紙の情報が麻薬取締局と戦略諜報省が集めた情報より正しいのでその情報で動きますって言うのか?」


 エッカルトはフェリクスにそう尋ねる。


「本局にはキュステ・カルテルを追っていると報告しておく。どうせ、本局は俺たちの捜査に何の期待もしていない。俺たちはどうでもいい任務が割り当てられ、ただ麻薬取締局が捜査を行っているというアリバイが作れればいいんだ」


「随分と本局を疑うな」


「当り前だろう? これだけ間違った情報を押し付けられて、まともな仕事を期待しているわけがない」


 フェリクスは怒り混じりにそう返す。


 フェリクスは知っている。“国民連合”政府内にドラッグカルテルの内通者がいることを。それを踏まえて考えれば、本局も信用できなくなるのは当然だった。どの情報が内通者の流した偽りの情報なのか分からないのだ。


 このことはまだ誰にも言えない。内通者は存在に気づかれれば、痕跡を消すだろう。そうなっては、内通者を捕らえるチャンスはなくなる。スヴェンの仇を取れなくなる。


「分かった。なら、俺も付き合う。で、まずは何をするんだ?」


「キュステ・カルテルよりヴォルフ・カルテルの方が脅威だと示す。決定的な証拠があれば本局も動かせるかもしれないが、今はそれには期待しない。俺たちの納得できる形で、キュステ・カルテルよりヴォルフ・カルテルが脅威だと示せればいい」


「この新聞だけじゃダメなのか?」


「いざというときに情報があれば、他の捜査官や協力者をこちらに引き込めるかもしれない。特にヴァルター提督だ」


「彼か。確かに彼の協力は不可欠だな」


 フェリクスたちが“連邦”で戦うに於いて“連邦”海兵隊第800海兵コマンドを指揮しているヴィルヘルムの協力は不可欠だ。彼らは電話の盗聴から軍事作戦に至るまであらゆる分野でフェリクスたちに協力してくれる。


「提督を納得させられるだけの情報があればいい。提督は信頼できる。そして、キュステ・カルテルよりヴォルフ・カルテルが脅威であると分かれば、捜査方針を密かに変更して、ヴォルフ・カルテルに迫る」


「提督ならヴォルフ・カルテルの情報も得られるかもしれないからな」


 エッカルトがそう言って頷く。


「ちょっと。人のオフィスでいつまで話し込んでいるの、色男さんたち?」


 ここで不満そうにオフィスにいた記者が出てきた。


「失礼した。だが、我々の捜査方針次第で“連邦”のドラッグ戦争のあり方も異なるんだ。分かってくれ」


「はん。“国民連合”の人間ってみんなそうよね。世界は自分たちを中心に回っている。そういう自己中心的な考え。傲慢だとは思わないの? 何も世界は“国民連合”や“社会主義連合国”のものじゃないのよ?」


「ああ。分かっている。気に障ったのなら謝罪する。だが、現実問題としてこの問題は“連邦”だけでは解決できないだろう?」


「分からないよ。“連邦”のことをどこまで知ってからそんなことが言えるわけ? どうせ“連邦”に来て数か月ってところでしょう。私たち“連邦”の人間はずっと苦難に耐えてきた。辛抱強い国民なの。それを分かったような口で」


 女性は不満をあらわにしていた。


 確かにフェリクスは“連邦”について知り尽くしているわけではない。彼らの国民性や底力というものを知らない。


 だが、これだけは確信している。“国民連合”と“連邦”が協力しない限り、このドラッグ戦争に勝利はない、と。


 相手も国境を跨いで活動してるのだ。同じように国境の有無を気にせず捜査を進めなければ勝利できるはずがない。


「ただいま戻りましたー!」


 女性が不満そうにフェリクスを睨みつけているとき、快活な声が響いた。


「ロッテ。何かいいスクープはあった?」


「『オセロメー』について少々。彼らキュステ・カルテルとの和平を蹴ったそうです。これはまた暫くは荒れそうですね」


 ロッテと呼ばれた女性は20代前半ごろ。健康的な褐色の肌をしており、その艶やかな黒髪と褐色の肌が、彼女がスノーエルフとサウスエルフの混血であることを示していた。とても小柄な体格で、装飾品と化粧を取り除いてしまえば高校生としてでも通じそうな童顔。そして、何より笑顔が輝く女性だった。


「お姉ちゃん。お客さん?」


「そう。自己中な“国民連合”の色男さんふたり」


 お姉ちゃんと呼ばれた女性はフェリクスたちをそう紹介した。


「フェリクス・ファウストだ。こっちはエッカルト・エルザー」


「よろしく」


 フェリクスとエッカルトが手を振る。


「ご丁寧にどうも。お姉ちゃんは自己紹介してないんでしょう?」


「する必要がないから」


「もー。私はシャルロッテ・カナリス。こっちは姉のカサンドラ・カナリスです。どうぞよろしく」


 シャルロッテはそう言ってフェリクスにウィンクした。


「ところでファウストさんたちは、うちの会社に何のご用で?」


「君たちの情報ネットワークを使用させてもらいたい。キュステ・カルテルよりもヴォルフ・カルテルが現在は脅威であるということをある人物に証明したい」


「……麻薬取締局の人ですか?」


「そうだ。麻薬取締局だ」


 シャルロッテが尋ねるとフェリクスが頷いた。


「いいですよ。フローラさんの安全を守ってくれたのはあなたたちだと聞いていますから。お手伝いします」


「ちょっと、ロッテ!」


「いいじゃない。麻薬取締局がヴォルフ・カルテルのボスを挙げたら大ニュースになるよ。暴力の連鎖ともさよならできるし」


「けど、こいつらは“国民連合”の……」


「そういう偏見はよくないよ、お姉ちゃん?」


 シャルロッテはそう言ってクスクス笑った。


「でも、その前に手伝ってほしいことがあるんですけどいいですか?」


「何かな?」


 シャルロッテが上目遣いにフェリクスを見る。


「選挙妨害を阻止してくれませんか? 『ジョーカー』の残党が選挙を妨害しようとしているんです」


 シャルロッテは深刻そうな表情でそう言った。


……………………

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