“国民連合”政府の見解
本日2回目の更新です。
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──“国民連合”政府の見解
“国民連合”政府は『ジョーカー』が倒されたことを歓迎した。
そして、次に“連邦”のドラッグカルテルとして取り締まるべき相手を探し始めていた。生贄の羊がなければ困るのは“国民連合”政府とて同じなのだ。
今も活動中の『オセロメー』は取り締まった功績を讃えるには小さすぎる。
「キュステ・カルテルにすることですな」
ブラッドフォードからの電話にアロイスはそう答えていた。
「キュステ・カルテルは規模としては最大。資金力では我々に劣るが、残酷さでは負けていない。キュステ・カルテルを狙い撃ちにしても、キュステ・カルテルを完全な壊滅に追い込むのは難しいだろう。キュステ・カルテルも『オセロメー』のような下部組織を抱えているのだからな」
『つまり、麻薬取締局にとってのアリバイ作りができるわけか』
「その通り。キュステ・カルテルを“連邦”内で追い続けても、そうそうキュステ・カルテルは潰せません。その間に『オセロメー』のような組織を叩いていれば、議会と国民に対するアリバイ作りにはなる」
アロイスはヴェルナーに友情を語った口でそれとはまるで異なることをブラッドフォードに対して語っていた。
「我々の取引は有益だろう? それを台無しにはしたくない。お互いにな。今後とも末永く取引を続けていこうじゃないか」
アロイスは生贄の祭壇に『ジョーカー』を捧げた。
この無法者集団は自分たちで自分たちの首を絞め、最後は破産した。“連邦”でもっとも凶悪なドラッグカルテルは壊滅し、シュヴァルツ・カルテルも消滅した。
だが、アロイスはシュヴァルツ・カルテルをこのまま崩壊させるわけにはいかなかった。彼には彼のプランがあるのである。
「ジークベルトを呼べ」
「畏まりました、ボス」
部下が元シュヴァルツ・カルテルの幹部であるジークベルト・シェレンベルクを呼びに行く。ジークベルトは急いでやってきた。
「何かご用命でしょうか、ボス?」
「お前に元シュヴァルツ・カルテルの縄張りだった場所を渡す。そこで新生シュヴァルツ・カルテルを創設しろ。そのボスはお前だ。上手くやれよ」
「よろしいので?」
「ああ。ひとり勝ちというのはいろいろと目を引くだろう?」
「そのような事情でしたか。畏まりました。今よりシュヴァルツ・カルテルを再結成します。しかし、キュステ・カルテルが押さえた側は?」
「諦めてくれ。悪いが。キュステ・カルテルにはこの“連邦”における最大のドラッグカルテルであってもらわなければならないんだ」
「なるほど」
ジークベルトはその説明だけで納得した。
王はふたりは要らないが、王の影武者は必要だ。そういうことである。
ジークベルトが納得した様子なのを見て、アロイスが話を続ける。
「これから再結成されるシュヴァルツ・カルテルには派手に稼いでもらう。もちろん、儲けは分けてもらうが。それでもブルーピルやホワイトフレークなど、ドラッグは何を扱ってもいい。ブルーピルはうちから買うことになるが」
「ええ。流通経路を増やしておきたいのでしょう?」
「そういうことだ。ブルーピルのオーバードーズが既に出始めている。その責任を追及されるときに俺ひとりが法廷に立たされるのは割に合わないし、そもそも俺は法廷なんぞには立ちたくない」
「分かりました」
ジークベルトは今は忠実だ。
だが、アロイスはジークベルトを信頼はしていない。
裏切者は何度でも裏切るというではないか。一度、ボスであるドミニクを裏切ったジークベルトをそのまま放置して置くのはリスクが高い。だから、こうして裏切れない地位に就ける。裏切ることで得られる報酬よりも裏切らないで得られる報酬の方が多い状態を維持し続けるのだ。
それに既にジークベルトは気づいているかもしれないが、キュステ・カルテルのヴェルナーの次にアロイスが生贄の祭壇に捧げるつもりなのはジークベルトなのである。
この賢明な男は自分がそういう立場になった場合に備えて保険を準備するだろう。こいつを排除するときはカールと同じように慎重に排除しなければなるまい。
「ところで、シュヴァルツ・カルテルの残党が問題を起こしていると聞いているが、ちゃんと面倒は見れるんだろうな?」
「ある程度は消すしかありません。シュヴァルツ・カルテルの領土は全盛期の半分。これでは全ての構成員を養うのは不可能です。これを機に無能な連中は切り捨てるしかありませんね」
「そうするべきだろうな」
アロイスは敢えてシュヴァルツ・カルテルの構成員を殺しまわらなかった。逆らったものは殺したが、大部分は生かしてある。
その面倒を見なければならないことで、ジークベルトはまた手を取られるだろう。裏切りの算段などできないくらい忙しければいいのだが。
何にせよ、ジークベルトから目を離すべきではないな。
「ジークベルト。ご苦労だった。行っていいぞ」
「失礼します」
「これからは敬語はなしだ。お互いに同じ立場の人間として振る舞おう」
「分かった。では、失礼する」
ジークベルトは立ち去っていった。
「よう。お友達を売る準備は完了か?」
マーヴェリックがここで姿を見せた。
「お友達は大切にしよう。そいつが使えるまで。ヴェルナーならすぐには麻薬取締局に売ってやるつもりはない。暫くは延々と続く追いかけっこだ。この“連邦”にはフェリクス・ファウストがいる。そいつに餌を投げてやらないといけない」
「『オセロメー』は?」
「『ジョーカー』の遺産と一緒に押さえた。暫くは好きなようにやらせておく。時期を見計らって生贄の祭壇へ。麻薬取締局に花を持たせてやるのを忘れないようにしないとな。連中が税金泥棒と言われ始めて、それで方針転換するのは不味い」
麻薬取締局には上手に踊ってもらわなれければならない。
決して失敗ばかりではなく、成功も収めてもらわなければならないのだ。そのためのドラッグの意図的な密輸ルートの漏洩だし、『オセロメー』のような手に負えない狂犬集団の捜査であったりするのだ。
あの『オセロメー』のおかげで、“連邦”でも少数民族は嫌われている。だが、連中は差別されれば差別されるほど団結する。組織は強固になり、裏切りはなくなり、ビジネス基盤も強化される。
アロイスは『オセロメー』との直接の接触は避けているが、連中にドラッグを売らせてやるのも麻薬取締局の目を逸らすには丁度いいかもしれないと思い始めていた。
「じゃあ、今は裏切りも、戦闘もなし?」
「そういうこと。今はそういうのはなしだ。ただ利益だけを享受する日々。戦争で大金を使ったから埋め合わせがないと困る。ネイサンに損耗した武器弾薬代をいくら払わなければいけないのか、想像もできない」
「だが、あんたは“大共和国”と取引しているだろう?」
マーヴェリックは咎めるようにそう言った。
「そうだ。取引している。君が反共主義者なのは分かるけれど、ある意味では俺たちは共産主義なしにはやってられないんだ。共産主義者がいなければ『クラーケン作戦』もないし、武器も手に入らない」
「そうだね。だが、覚えておいた方がいいよ。いい共産主義者は死んだ共産主義者だけだってことをね」
マーヴェリックはそう言って立ち去った。
「やれやれ。資本主義者も共産主義者もドラッグマネーに動かされてるのは一緒じゃないか。何が違うっていうんだ」
アロイスはそう呟いた。
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