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崩れ落ちる道化

本日1回目の更新です。

……………………


 ──崩れ落ちる道化



 ギュンターは間一髪で汚職警官と陸軍の取り締まりを逃れた。


 だが、もはやギュンターはお尋ね者だ。


 彼は『オセロメー』を頼ることを考えたが否定した。連中は『ジョーカー』が弱ったと知ったら嬉々として主導権を握ろうとするだろう。


 豹人族なんかに仕える? 冗談じゃない!


 ギュンターはとにかく逃げる。


 脱出するために掻き集めた金を使って第三国に逃げ出そうと考えていた。


 だが、警官と軍隊の方が一枚上手だった。空港も港も既に連中が見張っていた。


 自動車で“国民連合”に逃げるのも無謀だろう。連中は警戒線を張っているに違いない。鉄道も同じ。どこにも逃げられない。


 ギュンターは覚悟する。


 これが最後の戦いだ。最後に派手に戦って、ヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテルに一矢報いてやる。彼はそう決意していた。


「兵隊を掻き集めろ! 武器をたんまりと用意しろ! ヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテルに殴り込むぞ! 俺についてこい! 連中を叩きのめしてやる!」


「応っ!」


 まだ『ジョーカー』の下っ端は『ジョーカー』が崩壊寸前なことを理解していない。


 輸送担当、製造担当、戦闘担当を失った『ジョーカー』に全盛期の姿はない。あるのは寄せ集めの兵隊と残り僅かな武器弾薬だけだった。


 それでもギュンターは攻撃を決意した。


 窮鼠猫を噛むだ。追い詰められた獣の恐ろしさを教えてやる。ギュンターはそう決意して、戦闘準備を進めていた。


「ボス。攻撃目標は?」


「ここだ。連中の前線基地。ここをまずは襲撃する。それができたら、次はこっちの拠点を叩く。敵の拠点を片っ端からだ」


 ギュンターは自分が無謀なことをしていることを知っていた。


 だが、だからなんだというのだ?


 このままヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテルのいいように汚職警官や軍隊に捕まれってのか? いや、連中は自分を捕まえようともしないだろう。全ての取引を闇に葬るため、殺すに決まっている。


 ならば、抗うのみだ。


 そう簡単に『ジョーカー』はギュンター・グリュックスは排除できないということをあの連中に教えてやろうじゃないか。この名に怯えて眠るがいい。ギュンター・グリュックスのその名に怯えて眠るがいい!


「第一目標に向けて前進開始! 奪えるものは奪え! 殺せるものは殺せ!」


 装甲車が音を立てて進み、ジョーカーの兵士たちは雄叫びを上げる。


 装甲車の車列は第一目標であるキュステ・カルテルの前線基地に迫る。


「連中をぶち殺して血祭に上げてやれ!」


「殺せ! 殺せ! 殺せ!」


 全員がドラッグを使用している。異様な高揚感と恐怖の減退はその兆候だ。


「前進せよ! 恐れることなく前進せよ! そして、勝利を掴め! ヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテルの連中に唾を吐いて、奴らの死体をドラム缶に詰めて焼いてやれ! 大暴れの時間だ!」


 ギュンターはそう叫び、前線基地のフェンスを破壊して一気に前線基地に乗り込む。


 魔導式機関銃と対戦車ロケット弾がギュンターたちを手厚く歓迎する。対戦車ロケットによって装甲車が破壊され、炎上する装甲者から『ジョーカー』の兵士たちが飛び降りる。そして、そのまま炎上する装甲車を盾にし、銃撃戦を繰り広げていく。


 数台の生きている装甲車は一旦撤退しながら魔導式重機関銃を乱射する。だが、適当に撃った弾が命中するほど世の中は楽じゃない。


 そして、『ジョーカー』の歩兵の質も下がっていた。


 興奮に任せて銃を乱射する兵士たちばかりで、まるで狙いが定まっていない。唯一の例外は軍警察部隊と共産ゲリラ上がりの少数民族部隊だけだ。特に後者は優れた射撃で、キュステ・カルテルの兵士たちを撃ち抜いていた。


 そして、ここでキュステ・カルテルの装甲車が登場する。


 対戦車ロケット弾が飛び交う中を死体を盾にした防御で身を守った装甲車は魔導式重機関銃を乱射しながら『ジョーカー』の兵士を制圧し、その隙にキュステ・カルテルの歩兵が手榴弾を持って敵を攻撃する。


 戦闘は激戦を極めたが、ここでさらに激化の兆候を見せる。


 航空支援だ。


 ヴォルフ・カルテルの汎用ヘリとCOIN機が戦場上空に現れた。


 汎用ヘリはキュステ・カルテルの歩兵が赤のスモークグレネードでマークした地点を中心にガトリングガンとロケットポッドからの攻撃を浴びせる。COIN機もガンポッドとロケットポッドで攻撃を行い、最後に爆弾を投下していく。


 一連の航空支援が終わったとき、『ジョーカー』は半壊状態だった。


「戦え! 戦い続けろ!」


 それでもギュンターは叫ぶ。戦えと。


 これが彼にとっての最期の戦いなのだ。彼はこの戦いでヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテルに見せつけやるつもりなのだ。『ジョーカー』をギュンター・グリュックスを甘く見るなと。


「対空ミサイルを持ってこい! あのヘリと飛行機を叩き落とせ!」


「了解!」


 ギュンターたちは携帯式防空ミサイルシステムを持ち出し、狙いをCOIN機と汎用ヘリに定める。目標をロックオンした音が鳴り、ミサイルが発射される。


 迫りくる対空ミサイルにCOIN機はチャフとフレアをあらん限り撒き散らして回避行動をとる。汎用ヘリもチャフをフレアを放ち、大急ぎで戦場から離脱していく。


「ざまあみろ! 自分たちだけ好きなだけ空が飛んでられると思うなよ!」


 ギュンターは去り行くヴォルフ・カルテルの航空戦力に中指を立てると戦闘を継続した。ありったけの対戦車ロケット弾がキュステ・カルテルの装甲車に向けて叩き込まれ、10発目でようやく装甲車は破壊された。


 そこから一気に『ジョーカー』が攻勢に出る。


 訓練の足りない『ジョーカー』の兵士のほとんどは腰だめで魔導式自動小銃を乱射し、敵を制圧する。その隙に訓練された『ジョーカー』の兵士たちが塹壕に飛び込み、キュステ・カルテルの兵士たちに向けて銃弾を叩き込む。


 だが、既に先ほどの航空支援で『ジョーカー』は半壊している。キュステ・カルテルの抵抗は激しく、思うようには進めない。


「進め! 進め! 死を恐れるな! 突き進め!」


 ギュンターは完全に狂った様子で叫び続けている。


 ギュンターはせめてこの前線基地だけでも陥落させると決意していた。そのためにはどんなことでもしてやろうと。捕虜にしたキュステ・カルテルの兵士で人間の盾を作ってもいいし、爆薬で何もかも吹き飛ばしてしまってもいい。


 戦場に生き、戦場で死ぬのだ。


 それぐらいの自由は有っていいはずだとギュンターは思いながら指揮を取っていた。


「そこの部隊は裏に回れ! 残りは正面突破だ! 気合いを入れろ!」


 ギュンターが命令を叫び続けているその時だった。


「そこ! 前進しろ! 損害に構う──」


 ギュンターの体ががくりと崩れる。


 ギュンターは指揮を執っていた装甲車の上から転がり落ち、そのまま動かなくなった。彼の額にはライフル弾が突き抜けていった跡がある。


「目標排除」


 少し離れたビルの上で魔導式狙撃銃を持ったマリーが報告する。


「目標排除、目標排除」


『了解。マリーにお疲れさんって伝えておいてくれ』


 妖精通信でマリーに随伴していた通信兵が報告する先はマーヴェリックだった。


 マーヴェリック。彼女は襲撃を受けている前線基地にいた。


「さあ、炎の力をとくと見ろ」


 マーヴェリックは炎をまき散らす。


 キュステ・カルテルの陣地に食い込みかけていた歩兵や後方で銃を乱射していた兵士まで一瞬で炎に包まれる。


 指揮官を失ったパニックとこの炎によるパニックで、『ジョーカー』は総崩れになった。彼らは敗走を続け、最終的に壊滅したのであった。


 ついに『ジョーカー』は倒されたのだ。


……………………

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