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密輸業者の街

本日1回目の更新です。

……………………


 ──密輸業者の街



 ニコとエメリナは歩き続けて、ボルソナに到着した。


 ボルソナは活気あふれる街だった。


 スノーエルフとサウスエルフの混血が多く、香ばしい香りを漂わせている食事も“連邦”風だった。まるで“国民連合”に“連邦”の街が引っ越してきたかのようだった。


 しかし、純血は見当たらない。


 純血は恐ろしいとニコたちは学習した。彼らは混血と自分たちを憎んでいる。犬を放って殺すし、銃で獲物を狩るように殺すと。


「帰りの道は神父様が用意してくれるって」


「そう」


「神父様を信じてないの?」


「私は誰も信じない」


「俺のことも?」


「あなたは別。同じ被害者だから。けど、もうこういう仕事はしないって誓って。こういう仕事を繰り返していると連中みたいになるから」


「分かった。気を付ける」


 実際のところ、ニコがこうしてドラッグの密売に関わるのはこれが最後だろうと思っていた。もう『オセロメー』の連中がいうことなんて信じない。そう何度も“国民連合”の民兵に追いかけられて、死の危険を味わうのはごめんだ。


「それでどこに届けるんだったけ?」


「こっち」


 エメリナがニコの手を引いて誘導する。


 町の一角に豹人族の集まっている場所があった。


 エメリナはその中からひとりの豹人族の男を見つけた。


 ニコは気づいた。例の言われていた槍を持った戦士の入れ墨をした男だ。


「あの男だね」


「そうだ」


 エメリナとニコはそう言葉を交わすと、ゆっくりと男に近づいていった。


「ちょっと。『宅配に来た』よ」


「ああ。連絡があった奴か。国境で全滅したと聞いたが」


「あいにく、生き残っている」


「それはいいニュースだ。早速取り出してやる。ついてこい」


 男はそう言って街を進んだ。


「驚いただろう。“連邦”みたいで」


「うん。驚いた」


 ニコが素直にうなずく。


「元は〝連邦”の土地だったんだ。それを“国民連合”が分捕った。いろいろ言いがかりをつけてな。それで今も“連邦”に暮らしているような連中が残っているんだ。ここだけじゃないぞ。あちこちにこういう場所がある。そして、南部に移住してきた純血種至上主義者との関係は最悪だ」


 ニコたちから土地を奪った“連邦”も“国民連合”に土地を奪われていると知って、ニコは少しだけいい気分がした。


「ドラッグを取り出したら証明書をやる。それと引き換えに報酬を受け取れ。いいな? ここでは渡さないからどうにかして自分たちで“連邦”まで帰れ」


「分かった」


 このようなドラッグ取引に使われている街を麻薬取締局はいくつかマークしていた。政府は禁止しているが、純血種至上主義の麻薬取締局の捜査官もおり、彼らはこういう“連邦”の忘れ形見の街をマークしているのであった。


 彼は心から混血とそれに与するものを嫌っているのだ。


「よおし。ここだ。ここで取り出してもらえるぞ」


 男はクリニックの扉を潜った。


 ニコたちも後に続く。


「先生に宅配係の箱を開けてくれと頼んでくれ」


「畏まりました」


 受付の看護師が頷いて、奥に向かう。


「こっちです」


「行ってこい。荷物を受け取ってから、証明書だ」


 どうせ金なんて払う気ないくせにと思いながら、ニコたちはクリニックの奥に向かう。クリニックの奥には診療台があり、そこで白衣を着たスノーエルフとサウスエルフの混血の男が待っていた。


「早速取り出すぞ。どっちからにする」


「私は後でいい」


「分かった。では、お前からだ」


 ニコは手術室に入る。


 今回は麻酔はちゃんと効いた、医者はニコの腹を開き、ドラッグの袋を取り出して、台の上に置く。それから抗生物質を注射し、傷口を洗浄して手術を終わらせた。


「次は──」


 医者がエメリナを呼ぼうとしたとき、銃声が響いた。


「麻薬取締局だ! 全員武器を捨てろ! 頭に手を置いて、地面に伏せろ!」


 麻薬取締局(DEA)と記されたボディアーマーを纏った戦闘服姿の捜査官たちが次々に街の各地を制圧し始めている。


 強制捜査だ。


 これは『ジョーカー』の資金源を断つためと、この地元の上院議員からの要請で行われた捜査だった。建物に捜査官が突入し、次々にドラッグを押収していく。


「麻薬取締局だ! 動くな!」


 麻薬取締局の捜査官はニコとエメリナのいる病院にも突入してきた。


「畜生! ブツを持って行かせるな!」


 病院内で銃撃戦が始まる。


 男は魔導式短機関銃を乱射して麻薬取締局の捜査官たちを牽制し、麻薬取締局の捜査官たちもスタングレネードなどを使って男を制圧し、銃撃を加える。


 激しい銃撃戦が行われ、男の増援に別の『オセロメー』の構成員が裏口から侵入してい来る。ニコは傷を縫ったばかりで満足に動けない。


「逃げないと!」


「俺は動けない! 君だけでも逃げて!」


 ニコは叫ぶ。大声を出すと腹部の傷が痛むが、それでも叫ぶ。


「撃て、撃て!」


「タンゴダウン!」


 麻薬取締局の捜査官たちは着実に『オセロメー』の男たちを射殺しながら進んでくる。ここでこのままドラッグの密輸で捕まったら何年刑務所にいなければいけないのだろうかとニコはとても心配になってきた。


「ニコ! 動けないの!?」


「動けないよ! だから、君だけでも──」


 次の瞬間、エメリナの腹部を銃弾が貫通していった。


 それは『オセロメー』の放った銃弾なのか、麻薬取締局の捜査官が放った銃弾なのかは分からない。ただ腹部に穴が開き、ドラッグの袋に穴が開いた。


「エメリナ! エメリナ!」


 ニコは叫ぶ。


 しかし、返事はない。


 あのドラッグを詰め込みすぎて、民兵に蹴られただけで袋が破け、オーバードーズを引き起こした男のようにエメリナは口から泡を吐き、激しく痙攣する。


「クリア!」


「クリア!」


 そして、麻薬取締局の捜査官たちがエメリナの下にやってくる。


「オーバードーズの症状だ! 恐らくは運び屋だ!」


「心肺蘇生を! 気道を確保しろ!」


 エメリナは吐いている。麻薬取締局の捜査官たちは懸命にエメリナを助けようとしていた。だが、彼らにできることはなかった。


「リーダー。こっちにもひとりいます」


「分かった。落ち着け。俺たちは麻薬取締局だ。助けに来た」


 麻薬取締局の捜査官のひとりがそう言う。


「エメリナは死んだ」


「すまない。我々にできることはなかった」


「彼女には弟がいて、病弱で、帰りを待っているのに」


「ああ。すまない。だが、どうしようもなかったんだ。俺たちは悪い連中と戦わなければならなかった。仕方のないことだったんだ」


 嘘だ。


 エメリナが腹の中のドラッグを取り出してから、捜査を始めればよかったんだ。だが、捜査官たちは乱暴に押し入り、エメリナを銃撃戦に巻き込んだ。


「君から事情聴取をしなければならない。誰の命令で、どうしてここに来たのかを」


「分かってるよ……」


 それからニコは麻薬取締局の取り調べを受けた。


 だが、真実を語ることはできない。真実を語れば報復が待っている。『オセロメー』の手下は国境の向こう側にも、こちら側にもいる。どこでどんな情報を漏らしたかはすぐに把握されてしまう。


 だから、ニコは事実が語れなかった。


 事実を語れば報復に家族を殺されてしまう。


 ニコは事実を語らないまま、麻薬取締局の聴取を終えて“連邦”に送り返された。残ることもできたが、ニコは家族が心配だったのだ。


 報酬の5万ドゥカートはもらえないだろう、ニコ自身痛めつけられるだろう。


 それでも帰らなければ。


 故郷であって故郷でない場所に。


……………………

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