ジャングル戦
本日2回目の更新です。
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──ジャングル戦
アロイスたちは小型機とヘリでネーベ将軍の基地を訪れた。
「歓迎しよう、我らが友よ」
ネーベ将軍はそう言ってアロイスたちを出迎えた。
「我々は欲深く、そして獰猛にして、怠惰な少数民族を絶滅させなければいけない」
「その意見には同意する。だが、奴らをたたくことはことだぞ」
「徹底的にやる。徹底的にだ。あれから不審な人物は見つけたか?」
「捕虜にした少数民族を尋問したところ、連中の村に『ジョーカー』を名乗る男がきて、入隊するならば大金が手に入ると先導していったらしい」
「ビンゴ。そいつだ」
少数民族を徴募している話は本当だったかとアロイスは思う。
「その徴募のあった村はどの辺りだ?」
「この辺りだ。だが、捕虜は地図が読めなくてな。本当にその位置であっているのかは分からないのが現状だ」
「地図も読めない連中をリクルートしてるとは向こうも必死だな」
地図が読めなければ市街地での合同作戦など不可能に近いだろうに。
確かに少数民族には土地勘がある、ジャングルの中ならば。
だが、『ジョーカー』が戦っているのは、ジャングルはジャングルでも、コンクリートジャングルだ。少数民族が暮らすジャングルとは大きく異なるし、土地勘だってない。そういう場所に『ジョーカー』は少数民族をリクルートしてるのである。
確かに“社会主義連合国”や“大共和国”から軍事教練を受けた少数民族は警官などには及ばない戦闘力を発揮するだろう。だが、ジャングルで戦うようにはいかない。
「ジャングルクルーズだ。汎用ヘリとCOIN機が上空援護に当たる。作戦期間は3週間。それまでに少数民族をレッドデータブックに載せてやる」
COIN機にはナパーム弾とガンポッドが搭載されている。汎用ヘリにはロケットポッドとガトリングガン。いずれも重武装だ。
「マーヴェリックとマリーは地上部隊の指揮を。ジャンは機上前線航空管制官。ミカエルは俺の護衛を頼む。朗報を期待している」
「了解」
マーヴェリックは猛獣の笑みを浮かべる。
「全員、装具を確認! 5分で終わらせろ!」
マーヴェリックがそう命じると『ツェット』の隊員たちが装備を確認する。
魔導式自動小銃、魔導式機関銃、魔導式拳銃、対戦車ロケット、軽迫撃砲、近接航空支援を要請する際のスモークグレネード、カートリッジ、エトセトラ、エトセトラ。
兵士たちは5分で装具を確認し、整列した。
「よろしい。諸君、ジャングル戦は初めてだろう。だが、案ずることはない。訓練の日々を思い出せ。そして、細心の注意を払え。そうすれば勝利できる」
ジャングル戦は市街地戦とはまた異なるものであることをマーヴェリックがかいつまんで説明する。まず、敵を叩くにはもっとも困難な道を進むこと。楽な道は敵も想定している。ブービートラップがわんさか仕掛けられてあり、地雷も埋められているだろう。
環境を味方に付けること。迷彩服は“連邦”のジャングルに適応したものとなっている。それでもまだ不十分。顔にドーランを塗りたくり、ジャングルに溶け込まなくてはならない。そして、植物を利用して隠れるというのは高度な知識が必要とされるので、あまり推奨されない。植物というのは一度根などから外すと変色し、逆に目立ってしまうのだ。そういうことから素人は植物を利用するべきではない。
またGPSも何もない時代のジャングル戦である。自分たちの位置を正確に把握することも必要だ。ポイントマンは歩幅や歩数から距離を計り、自分たちの現在地を把握する。これに失敗すると、ジャングルの中で迷子という笑えない結末が待っている。
敵が地の利を得ていることから、可能な限りジャングル内での戦闘は避ける。ジャングル内での戦闘は木々が生い茂り、天井のように地上への視界を潰しているために、航空支援が受けにくい。
戦闘は敵の集落で行う。それまでに各部隊が行うことは装甲車を盾にしつつ、ジャングルに身を潜め、的を箒でゴミを掃くように集落へと追い詰めること。そして、そこで航空支援を受けて、敵を殲滅する。
皆殺しだ。鏖殺だ。あらゆる火力を叩き込み、敵を殲滅する。
「それでは総員乗車!」
ジャングルのある程度の地点までは装甲車で移動する。装甲車は即席爆発装置や対戦車ロケット対策が施されており、一定の距離までは安心して進める。
「じゃあ、気を付けて、マーヴェリック」
「おう。朗報を期待しておきな」
友軍誤射を避けるためにメーリア防衛軍は同時に別の集落を攻撃することになっている。これによってゲリラの戦力は分散するだろう。願わくば、メーリア防衛軍の方が囮になってくれますようにとアロイスは思った。
サウス・エデ連邦共和国製の装甲車でジャングルを進む。上空では交代で援護を行う武装した汎用ヘリが飛行している。ガンシップだ。装甲車はブービートラップや対戦車地雷に警戒しながら、装甲車は進む。装甲車には対戦車ロケット除けの鳥かごが施されている。鳥かごというのは、鉄製の柵を張り巡らせることで、対戦車ロケットを不発に終わらせる効果がある。完全ではないが。
「総員降車、降車」
目標まである程度の距離で装甲車を降りて地上に展開する。
「現在、地図のこの地点」
「よし。マリーは誰かひとり見繕ってポイントマンを頼む。頼めるな?」
「任せて」
「よし。アカのクソ野郎どもを殺しに行こうぜ、ベイビー」
魔導式自動小銃を構え、装甲車とは一定の距離を取り、『ツェット』の兵士たちが前進していく。動員された1個小隊は3個分隊に分かれ、3方向から少数民族の集落に迫っていた。どの分隊も軽迫撃砲、魔導式重機関銃を装備している。
敵のブービートラップと待ち伏せに細心の注意を払いながら進む。疑わしき場所は迂回し、敵だけを探す。
ジャングルの中で銃声が響き渡った。
「接敵、接敵!」
「敵は11時の方向! 撃ち方始め!」
全員が地面に伏せ、射撃が開始される。
濃い密林のため、上空からの支援は望めない。歩兵は装甲車からは距離を取る。装甲車は攻撃の的になりやすい。対戦車ロケットが飛んできたときに傍にいたくはないと思うのは当然の結論である。
装甲車は魔導式重機関銃で敵を制圧し、アンダーバレルに装着したグレネード弾と魔導式機関銃の射撃が敵の指揮統制を削り、魔導式自動小銃による正確な射撃が敵を撤退に追い込んだ。
「追撃! 引き続き、ブービートラップに警戒!」
マーヴェリックも敵を焼きながら前進する。
猟犬に追い立てられる獲物のように少数民族のゲリラは村落に追い込まれて行く。
少数民族は正確には豹人族と言われる種族だ。豹のような耳と、毛皮と尻尾を有し、この“連邦”に入植者たちが来るまでは、生贄の儀式なども行っていたという。入植者たちはそれを見て、彼らを野蛮人と決めつけ、土地を奪い、不毛の土地に追い立てた。
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