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情報の再確認

……………………


 ──情報の再確認



 フェリクスはドミニクに公衆電話から電話する。


『もしもし?』


「フェリクスだ。どうしても確かめたい情報がある。手を貸してほしい」


『ドラッグカルテルのボスは売れないぞ』


「それは分かっている。知りたいのは別の情報だ」


 エッカルトは周囲を見張っている。


「ヴォルフ・カルテルは弱体化したのか? それとも違うのか? どっちなんだ?」


『それは……。分からない。俺も他のカルテルに詳しいわけじゃない。だが、キュステ・カルテルを援助しているのはヴォルフ・カルテルだ。奴らの密売ネットワークを利用しても、今のキュステ・カルテルを援助し続けられるとは思えない』


「では。力は健在なんだな?」


『あり得ない。2度も粛清をやって、キュステ・カルテルを援助して、それで全くダメージがないわけじゃない。むしろ、怪しいのはキュステ・カルテルだ』


「どうしてキュステ・カルテルが怪しいと?」


 フェリクスが疑問に思ってそう尋ねた。


『奴らの構成員は最近では『ジョーカー』と互角にやり合っている。『ジョーカー』は軍警察の特殊作戦部隊を基幹に、警察官たちを取り入れて作ったカルテルだ。それと互角に戦えるような戦闘力はキュステ・カルテルにはないはずだった。だが、今では、見てみろ。キュステ・カルテルは『ジョーカー』と互角だ』


「外部の人間を雇って訓練した可能性があると?」


『そうだ。キュステ・カルテルは次を見ている。この紛争が終わった後のことを』


 本当にそうなのか?


「ドミニク。ヴォルフ・カルテルに探りを入れてほしい。『ジョーカー』との戦争にどう関わっているかを突き止めたい。今ではあんたたちが最大のドラッグカルテルなんだろう? 多少の無茶はできるはずだ」


『気軽に言ってくれるな……。だが、あんたには借りがある。できる限りのことをしよう。今度、ヴォルフ・カルテルのボスに会って話してみる。しばらく時間がかかるぞ。なんでも新商品の開発を始めたとかで』


 新商品! それはブルーピルのことではないのか?


「確かめてくれ。新商品についても」


『分かった』


 電話が切れる。


 ドミニクから折り返しの電話があるまでフェリクスたちはオメガ作戦基地に籠る。


 これまでの通信記録を見て、おかしな点がないかを調べ続ける。


 ギュンターは次第に疑心暗鬼に陥っていることが通話からは分かった。もはや、ギュンターが信頼するのは自分が直接率いてきた軍警察特殊作戦部隊の隊員だけのようであった。他の人間には重要な仕事を任せようとしない。


 輸送も、製造も、戦闘も、軍警察特殊作戦部隊に任されていた。


 輸送と戦闘はどうにかなっても、製造はどうするつもつもりなのだろうかとフェリクスは怪訝そうに資料を眺めた。


 ドミニクから折り返しの電話がかかってきたのは7日後のことであった。


「ドミニク。分かったことは?」


『ヴォルフ・カルテルの作ってる新しいドラッグはブルーピルってやつだ。今度からそれを売り出していくつもりらしい。だが、資金難なのは事実のようだぞ。それからキュステ・カルテルとの共同戦線が危ういのも。何度も俺に参戦要請をしてくる』


「他には?」


『あいつと話していると参戦要請を断る理由を考え続けないといけないから、なかなか探るのは難しいんだ。だが、やつらは『ジョーカー』を襲撃したのは否定したぞ。製造担当の幹部が今、ヴォルフ・カルテルにいるのは亡命したかららしい』


「亡命か……」


 確かにギュンターは疑心暗鬼に陥り、あらゆるものを疑い、処刑命令を出している。亡命したという説は考えられなくもない。


 やはり、ヴォルフ・カルテルは弱体化したのか? その起死回生の手段がブルーピルということなのか?


「分かった。引き続き、おかしな情報が手に入ったら連絡してくれ」


『ああ。だが、今は『ジョーカー』をぶっ潰さないといけない。そうだろう?』


「そうだ。だから、どのような情報も歓迎する」


『あいよ』


 ドミニクからの電話が切れる。


 フェリクスは頭を悩ませる。


 ヴォルフ・カルテルは弱体化したというのは事実のようである。だとすると、ヘルマン・ヒューンラインを襲った犯人はヴォルフ・カルテルではないのか? 戦略諜報省の工作員チーム? それが答えなのか?


 続いて麻薬取締局から電話が来る。


『ブルーピルの存在を確認した。西部の市場に大規模に出回っている。これも『ジョーカー』の仕業なのか、フェリクス?』


「いいえ、ハワード。ヴォルフ・カルテルです」


『ヴォルフ・カルテル? ヴォルフ・カルテルはもう主要なカルテルではないだろう』


「そのようですが、ブルーピルの出どころはヴォルフ・カルテルです」


『どういうことだ?』


「技術者がヴォルフ・カルテルに逃げ込んだようです」


 もう既に西部では出回っているのか。


 西部にはドラッグカルテルの密売ネットワークが存在する。それにヴォルフ・カルテルは参加できる立場にあるのか。それとも密売ネットワークを作ったのは、ヴォルフ・カルテルそのものなのだろうか。


 作ったのがヴォルフ・カルテルだとすれば、ギルバートを殺したのもヴォルフ・カルテルということになる。


 フェリクスは未だにギルバートを殺した黒幕を許すつもりはなかった。


 だが、ヴォルフ・カルテルが西部の密売ネットワークを作った張本人なら、毎回毎回ドミニクなどから聞かされるヴォルフ・カルテルの資金難とはなんだという話になる。西部の密売ネットワークを手中に収めているならば、資金難などあり得ないだろう。


 となると、通行料金を払ってハイウェイを利用している、というわけか?


 密売ネットワークを作ったのは誰だ? シュヴァルツ・カルテルか? それともキュステ・カルテルか? それとも過去のものとなったグライフ・カルテルか?


 グライフ・カルテルだとするといろいろと辻褄が合う。


 密売ネットワークの乗っ取りを図って、他のカルテルはカールの情報を漏洩させた。そして、麻薬取締局がそれに乗り、カールを逮捕した。哀れなカールが司法取引できないことまで予想できたのだろうか。


 何にせよ、カールは排除され密売ネットワークを手に入れたとなれば、協力した他のカルテルとも共用になるだろう。グライフ・カルテルの壊滅に大した役割を果たさなかったヴォルフ・カルテルは利用料を取られているのかもしれない。


 それならば仮説ではあるが、説明はつく。


 しかし、どうにもこじつけのような気がしてならないのは、これと決定づける証拠に欠けるからだろう。


 そう、これはどう考えてもただの憶測だ。証拠がない。憶測で立件はできない。


 そもそもそこまでしてヴォルフ・カルテルについて調べる必要はあるのか? とフェリクスは自分自身に問いかける。


 ヴォルフ・カルテルがブルーピルと新しいドラッグを流し始めたからといって早急に捜査する必要はないはずだ。エッカルトも優先順位をつけていたではないか。まずは『ジョーカー』で最後にヴォルフ・カルテルと。


 今も状況は変わっていない。まずは『ジョーカー』で最後にヴォルフ・カルテル。


 だが、『ジョーカー』を倒したからと言って平穏が訪れるわけではない。より混迷とした状況が訪れる可能性はあった。


 平和は願っても得られない。行動しなければ得られない。敵と戦い勝利しなければ得られない。平和とは耳に心地よい言葉だが、その平和は大抵はペテン師の言葉だし、血塗れの言葉だ。


 それでも人は安らぎを求めるものだ。そうフェリクスは思う。


……………………

本日1回目の更新です。

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