新商品の発売
本日1回目の更新です。
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──新商品の発売
ティボルは精製施設を完成せた。
アロイスが留守にしていた間もキュステ・カルテルと『ジョーカー』は殺し合っていた。マーヴェリックたちはキュステ・カルテルへの軍事支援に当たり、軍事教練を施すとともに、軍事作戦に参加していた。
装甲車を燃やし、歩兵を撃ち殺し、敵の小型機を撃墜する。
マーヴェリックたちは殺戮を楽しんでいた。
敵を燃やすのを楽しみ、敵を撃ち殺すのを楽しみ、捕虜を拷問するのを楽しむ。
捕虜は片っ端から拷問されていた。ドラッグカルテルの抗争に国際条約は関係ない。捕虜の権利は保証されていない。『ジョーカー』の戦闘員は捕虜になることを死ぬほど恐れていた。拷問されて殺された死体は晒され、惨たらしい姿となっているのを『ジョーカー』の兵士たちは見ているのだ。
何せ、キュステ・カルテルときたら拷問して殺した死体を装甲車に括りつけ、見せしめと肉の盾にしながら、進んでくるのだ。そう、肉の盾だ。対戦車ロケット弾は原理上、装甲車と装甲の間に柵や柔らかいものがあると、正常に作動しない。
死体は丁度いい盾になる。
相手に恐怖を与え、対戦車ロケットを無力化する盾に。
だが、こういうことは相手も真似するものだ。『ジョーカー』も拷問したキュステ・カルテルの捕虜を肉の盾にした。彼らの場合はまだ捕虜が生きているままに、装甲車に有刺鉄線で縛り付けて、それを盾にしながら進んでくる。
それはキュステ・カルテルも真似した。生きたまま『ジョーカー』の捕虜を装甲車に結びつける。そうやって、残虐行為は連鎖していく。生きたまま人間を焼くのはもはや『ジョーカー』もキュステ・カルテルも同じように行ってる。
ドラム缶に詰め込まれた捕虜にガソリンがかけられ、火が付けられる。
そして、時として民間人すらもその犠牲になった。
相手に情報を流していると決めつけられた民間人が捕虜と同じように殺される。ドラム缶に入れられて火をつけられたり、吊るされたり、生きたままバラバラにされたりする。最近の流行は電動ドリルだ。
そんな虐殺と蛮行を放って、アロイスは新商品の開発を見守っていた。
「これがブルーピルだ」
錠剤の形に形成された1ミリグラムのドラッグをティボルはアロイスに渡す。
「ふうむ。このまま量産を?」
「望むのであれば。だが、まずは市場に流して評判を調べることをお勧めしたい。市場の反応というのは有機化学の知識があっても分からない。客は錠剤の小ささに満足するのか、値段はどれほどが的確か。それを調べてもらいたい」
「もちろんだ」
価格を設定しなければいかない。
ヤク中でも手が出せる価格で、それでいて既存の品よりも高価。
「600ドゥカート程度か。1ミリグラム当たりの製造コストは?」
「50ドゥカートだ。人件費を込みにして。そこまで製造コストは高くない。特殊な合成ドラッグを作るのにやや金と技術が必要になるが、工程そのものはシンプルで、何度か訓練すればきちんしたものが作れる。有機化学の知識がなくとも」
ティボルは眼鏡のずれを直しながらそう言った。
「それはいいことだな。あんたがいてくれれば、これからいくらでもブルーピルは作れるわけだ。50ドゥカートで製造し、300ドゥカート程度で卸し、密売ネットワークは600ドゥカートで売る。全員が大儲けだ」
「ラボに投資してくれれば、もっと強力なドラッグが作れるかもしれない。さらに安価で、少量で効き目の出るものが。好きなだけそれを君たちは売り捌けばいい」
「もちろんだ。あんたのラボに投資しよう。必要な品をリストアップしておいてくれ。なんだろうと揃えておこう」
「ありがとう、ボス」
ティボルは自分の好きな有機化学できれば満足なのだ。それ以外のことに興味なんてない。それはある意味では都合がいい。良心も倫理もなければ、いくらでもドラッグを開発してくれる。それでいて罪の意識から自首したり、裏切ったりすることもない。
「さて、まずは西部に流してみるか。ヴィクトルに連絡だな」
電話は盗聴を恐れ、いくつもの回線と電話機を使い分けている。ヴィクトルにはランダムで選んだ回線と電話機から連絡を取る。
『もしもし?』
「ヴィクトルか? アロイスだ。新しい商品ができた。かなり価値がある。どうだ、一枚噛んでみないか?」
『どんな商品だ?』
「たった1ミリグラムでホワイトフレーク10ミリグラムに匹敵するぶっ飛び方をするドラッグだ。とりあえず1ミリグラム当たり、300ドゥカートで卸したい」
『1ミリグラムで300ドゥカートか?』
「こいつは絶対に売れる。あんたも儲かる。間違いない」
電話の向こうが暫く静かになる。
『分かった。取引はいつできる?』
「1週間後。とりあえず試してみてほしい。マーケティングリサーチって奴だ。最初はサービスするから、ヤク中どもがいくらなら購入するか。実際にそこまでぶっ飛べるのか調べておいてほしい。取引手段はいつも通り」
『お前は本当に良心的なドラッグカルテルだよ。了解した。試してやろう』
「助かる」
まずはマーケティングリサーチだ。ヤク中の財布とヴィクトルたちの取り分とアロイスたちの儲けを計算し、そして商品の評判について聞かなければならない。何せ、アロイスは自分のカルテルの幹部たちなどにはドラッグを使用するなと言っている。ヤク中は役立たずだからだ。
NWCFTAの波に乗って、自動車部品などと一緒にドラッグが国境を越える。
最初は20キログラムのブルーピル。こいつを市場にばら撒く。
新商品が市場に受け入れられるかどうかは評判にかかっている。ここでヴォルフ・カルテルというブランドがものを言わせる。
品質のいいドラッグを売ってくれるカルテルであるヴォルフ・カルテルの作った品ならばと、ヤク中たちはブルーピルに手を出す。そして、ぶっ飛ぶ。月を越えて火星までぶっ飛ぶ。こうなるともう中毒だ。
20キログラムのブルーピルは瞬く間に売り切れてなくなり、ヴィクトルは上機嫌に電話してきた。
『こいつは儲かるぞ、アロイス。まさにこいつは最高だ。評判は最高にいいし、ヤク中どもは1ミリグラムのブルーピルに800ドゥカートも出す。やはり600ドゥカートで売った方が受けはいいだろうが、こいつは間違いなくヤク中があの世に行くまで売れる』
「朗報だな。これからはホワイトフレーク、スノーパールと合わせてブルーピルも扱う。徐々に様子を見ていこう。今後が楽しみだな、ヴィクトル」
『まさに、だ、兄弟』
ヴィクトルは上機嫌に笑っていた。
アロイスは今度はチェーリオの方でも試そうと思いながら、手の平で青くて小さな錠剤を転がす。これに800ドゥカートも出して、身を滅ぼすヤク中がいるとは。
副作用についてはティボルは正確に報告していた。
脳への不可逆な影響。精神混濁。常習性。体への影響。自律神経系の異常。
こいつを使い始めれば地獄に真っ逆さま。
だが、アロイスには金が必要だ。金で暴力を買い、金と暴力で権力を構築する。
ヤク中どもに、倫理なき有機化学者に乾杯。
今日もこの世はイカれている。
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