精製施設強襲
本日2回目の更新です。
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──精製施設強襲
精製施設の強襲は製造担当者を逃がさないようにすることだけに重点が置かれた。
狙撃手は3地点に陣取り、精製施設の周囲をいかなる状況でも狙撃できるようにする。周囲は開けた場所で、かつ敵の対空火器の存在は認められないので、ヘリボーンによって強襲する。
輸送ヘリ2機は1個小隊の『ツェット』とマーヴェリックとマリーを輸送。1機の汎用ヘリは対戦車ミサイル及びガトリングガンで施設にあるトラックなどの脱出手段を排除すると同時に着陸地点を確保する。
こちらには暗視装置があり、ヘリのパイロットも夜間飛行の経験が豊富であり、かつ精製施設の使用電力量からして夜間も精製は行われていると思われるため、攻撃開始時間は深夜3時。この時刻に強襲を実行する。
作戦は決定し、武器弾薬が準備される。
輸送ヘリに『ツェット』の兵士たちが乗り込み、汎用ヘリに対戦車ミサイルが装着される。マーヴェリックとマリーも“国民連合”陸軍のタイガーストライプの迷彩服を身に付け、タクティカルベストとボディーアーマーを纏う。
装備には性格が見て取れる。
マーヴェリックは45口径の大口径魔導式拳銃にサプレッサー。マリーは9ミリ口径の装弾数が多いダブルカラムの魔導式拳銃にサプレッサー。マーヴェリックはデカい武器でドカンとやるのが好きで、マリーは手数を増やしておきたい慎重な装備。
「じゃあ、気を付けて。朗報を期待してる」
「任せろ」
マーヴェリックとマリーは輸送ヘリに乗り込み、アロイスに手を振る。
そして、作戦が始まった。
ヘリが一斉に離陸し、汎用ヘリを先頭に精製施設に低空飛行で接近する。
「全部隊、全兵装使用許可!」
『フェアリー・ゼロ・ワン、了解。全兵装使用許可、全兵装使用許可』
マーヴェリックが高らかと命令を下し、汎用ヘリの対戦車ミサイルが火を噴いた。
汎用ヘリに搭載された対戦車ミサイルは誘導に従って飛行し、トラックに命中した。トラックが吹っ飛び、爆発が爆発を呼んで誘爆する。
汎用ヘリはもう一発、対戦車ミサイルを叩き込みトラックを全滅させる。小型の通常乗用車や軍用四輪駆動車などにはガトリングガンが火を噴き、次々に爆炎が燃え上がり、真っ暗な闇夜を引き裂く。
汎用ヘリは上空を旋回しながら、敵の動きを見張り、その隙に輸送ヘリが次々に着陸していく。輸送ヘリから一斉に『ツェット』の兵士とマーヴェリックとマリーが精製施設の周囲に降りたり、暗視装置を身に付けて、精製施設への突入を開始する。
精製施設の入り口には爆薬が仕掛けられ、金属製の扉が吹き飛ばされる。
「突入、突入!」
手榴弾が投げ込まれ、炸裂音が響いたのと同時にマーヴェリックとマリーと『ツェット』が一斉に突入する。施設内の図面は存在しない。ここは衝撃で相手を怯ませ、勢いで畳み込むしかない。
手榴弾に混ぜて投入されたスタングレネードが精製所内にいた『ジョーカー』の兵士たちを制圧する。兵士たちは突然の奇襲に衝撃を受け、碌に対応できず、狼狽えるのみ。もはや基幹部隊である軍警察部隊はほとんどおらず、ただの警官だけが配置されていた。それでは『ツェット』の暴力に抵抗できない。
「焼けちまいな!」
マーヴェリックが立ち直れずに混乱したままの『ジョーカー』の部隊に炎を放つ。人間が火達磨になり、様々な機械の上に落ちていく。炎は明々と室内を照らし出したと思ったら、一斉に施設の電源が落ちる。
「電源シャットダウン完了」
「いいね。行けるところまでぶち込もうぜ」
「あなたが炎で照らすから効果がない」
「そこはまあ、努力次第だ」
マリーは呆れたように肩をすくめた。
制圧は進む。
抵抗する『ジョーカー』の兵士は容赦なく射殺し、技術者たちは拘束する。拘束された技術者は責任者じゃないか尋問された末に、そうでない場合はその場ですぐさま射殺された。『ツェット』はただの捕虜を取るつもりはなかった。
「殺せ―。用のない連中は始末していけー。必要な捕虜はひとりだけだー。どんどん、ばんばん殺していけー」
マーヴェリックは相手を焼きながら、前進していく。
マリーは射殺した『ジョーカー』の死体を操り、敵の近くにいる死体に手榴弾を抜かせる。『ジョーカー』は突然、味方の死体が手榴弾を抜いて、自爆するのに纏めて吹き飛ばされるしかなかった。
マーヴェリックが道を切り開き、マリーが確保し、『ツェット』が制圧していく。
製造担当の幹部を探すために『ジョーカー』の兵士と技術者が殺されて行く。
「地下室に繋がった扉、発見。怪しいのはこの先だな」
「行く?」
「行こうか」
まるで遊園地の乗り物に乗るような感じで、マーヴェリックとマリーは地下室に向けてありったけの手榴弾とスタングレネードを投げ込み、突入していく。
「突入、突入!」
「行け! ぶち殺せ!」
マーヴェリックは先陣を切って突入し、マリーと『ツェット』の兵士がそれを援護する。中にいた『ジョーカー』の兵士は手榴弾でズタズタにされ、血だまりの中に沈んでいる。マーヴェリックは生き残りをミディアムレアに焼き上げながら、軽快に殺し、軽やかに進んでいく。その背後を守るのはマリーだ。
「最後のドア、かな?」
「だと思う。航空偵察では、地下道や地下道出口の存在は確認されなかった」
「では、行きますか」
再び鋼鉄の扉に爆薬を仕掛けると、マーヴェリックたちは扉を吹き飛ばした。
「撃つな」
中から場違いなほど冷静でよく通る声が響く。
「あたしが撃つか撃たないかは、あんたの身分次第だ。あんたはこの精製施設の責任者か? どうなんだ?」
「そうだ。私が精製施設の責任者だ」
両手を上げて抵抗の意志を示さないようにしている男はスキンヘッドに無精ひげの男で、細身の体に白衣を纏っている。種族はサウスエルフの純血。切れ長の目に太い縁があるフレームの眼鏡をかけている。
「名前は?」
「ティボル・トート。有機化学博士だ。博士というのは俗称ではない。私は“国民連合”の大学を出て有機化学の学位を得ている。“連邦”の大学では准教授の地位にあった。わけあって今はこういう身分だが」
淡々と、冷静に、銃口を向けられていても男──ティボルは語る。
「では、ドクター・ティボル。ご同行願おうか」
「その前にここにある資料を運んだほうがいいだろう。君たちが私を拷問しなくても分かることが記されている。あいにく、ギュンターについての情報はほぼないがね」
「そうかい。そいつを拘束して連れて来い」
ティボルは麻袋を被せられ、両手をダクトテープで拘束されると、この精製施設から連れ出されていった。
「マリー。爆薬の準備は?」
「できてる。いつでもスイッチひとつ」
「なら、ずらかろうか」
マーヴェリックたちは輸送ヘリに乗り込むと、ある程度精製施設から距離を取ったところで起爆スイッチを押した。
精製施設が大爆発を起こす。爆薬と事前に撒かれていたガソリンのおかげで、精製施設は木っ端みじんに吹き飛んだ。
「最高の瞬間」
マーヴェリックはそう言ってにやりと笑った。
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