報復の連鎖
本日2回目の更新です。
……………………
──報復の連鎖
『ジョーカー』の施設を攻撃すれば、キュステ・カルテルの施設が攻撃される。そして、キュステ・カルテルの施設が攻撃されると、『ジョーカー』の施設が攻撃される。
まさしく報復の連鎖だ。
当初存在した前線は今では存在しない。
この戦争に前線も後方もない。“連邦”東部一帯が全て戦場なのだ。
店主たちはドラッグカルテルとのかかわりあいを避けようとするが、避けようとする努力程度でどうにかなるものではない。
みかじめ料はドラッグカルテルの末端の人間にとって重要な収入源だ。みかじめ料を支払うことを拒否するならば、後日ならず者たちがやって来て店を滅茶苦茶にしていく。警察に訴えても無駄だ。
結局はみかじめ料を支払うことになる。
そして、みかじめ料を『ジョーカー』かキュステ・カルテルかのいずれかに支払っていれば、『ジョーカー』の場合はキュステ・カルテルが、キュステ・カルテルの場合は『ジョーカー』がスナック気分で火炎瓶を投げ入れてくる。
これでは商売は成り立たないと東部から西部への脱出が始まる。
アロイスは『ジョーカー』の狙いはこれなのではないだろうかと思っている。キュステ・カルテルが元の縄張りを手に入れても、人がいなくなっているという状況を作る。言うならば焦土作戦。
それはヴォルフ・カルテルにとってもあまり望ましいことではない。闘争を続けるふたつのカルテルのせいで、“連邦”の人口が偏り、東部が富を生まなくなるのは、キュステ・カルテルの衰退を意味する。
キュステ・カルテルにはまだ健在でいてほしいアロイスは一工夫することにした。
「通してくれ! 俺たちは西に行きたいんだ!」
「ダメだ。検問を通過できるのは許可がある人間だけだ」
アロイスは軍を脅迫した。
軍が『ジョーカー』に脅迫されて武器を横流ししているのは今や公然の事実だった。だが、それが新聞の一面を飾るのと飾らないのとでは大きな違いがある。
アロイスは軍の司令官の電話を盗聴し、録音テープを持って軍の司令官を訪問した。そして彼は『ジョーカー』への武器の供給の停止か、東部からの人口流出の阻止かのいずれかを実行するように求めた。
軍の司令官は後者を選んだ。
主要な道路が軍によって閉鎖される。軍は東部で起きている“壊滅的事態”を抑制するためという名目で展開したが、東部に武器を運ぶヴォルフ・カルテルの輸送隊は見逃された。武器の流入は止まらず、人の流出だけが止まる。
人々は仕方なく、東部での暮らしを再開する。店を開き、買い物をし、料理をし、仕事をする。そして、キュステ・カルテルと『ジョーカー』の抗争に巻き込まれる。
爆弾の爆発で両足を失った女性が病院に運び込まれ、流れ弾を受けた男性が手当てを受け、火炎瓶の炎に巻き込まれた子供が死亡する。
人々は連日のように軍の検問所に押しかけるが、あまりしつこいと拘束され、そのまま行方不明になった。軍ですらこのありさまなのだ。警察など信用できるはずもない。
その警察も危機にさらされていた。
汚職警官たちはキュステ・カルテルと『ジョーカー』のどちらに付けばいいのか分からなくなり始めていたのだ。
戦争が始まった当初は前線が存在し、その前線に沿って忠誠を変えればよかった。だが、今や前線は消滅した。ゲリラ的攻撃が繰り返され、キュステ・カルテルと『ジョーカー』は入り乱れている。
うっかり忠誠を向ける相手を間違うと、マーヴェリックが行ったように残虐な処刑方法で殺される。汚職警官たちは次々に警官を辞めて、別の仕事を探し始めた。
残った警官は3名。
まさしくこれこそが万人の万人に対する闘争状態だ。無政府状態だとアロイスは思う。こちらも汚職警官を使えなくなったが、向こうも汚職警官を使えない。汚職警官を買収する資金が必要なくなるだけ負担は軽くなるとアロイスは前向きに考えた。
だが、これで本格的に市民は保護を失った。
西に逃げようとすれば軍に拘束されて行方不明になる。
一度、軍に捕まった息子を助けようとしている母親をアロイスは新聞で読んだ。不愉快な記事だった。ドラッグカルテルを痛烈に批判し、この“内戦状態”を作った原因だとしている。軍や政府に対しても批判を繰り広げていた。
だが、今のところ、ヴォルフ・カルテルは批判の矛先になっていない。あくまで批判されているのはキュステ・カルテルと『ジョーカー』だ。彼らが批判されようとアロイスにとってはどうでもいい。むしろ、生贄の羊にする際の口実ができたというところだ。
だが、息子を軍に拘束され、解放を求めている母親の記事は次第に過激さを増していっていた。軍の不正についての記事が掲載される。軍の司令官と『ジョーカー』に繋がりがあるのではないかとの憶測で書かれた記事も掲載される。
恐らくこの批判記事は息子が解放されるまで続くのだろう。
アロイスが一言いえば、軍の司令官は息子を解放する。
しかし、そうしてやる義理はない。
今はそんなことより、東部戦線──戦線など存在しないようなものだが──でいかに勝利を手に入れるかを考えなければならない。
「マーヴェリック。マリー。こちらから積極的な攻撃を仕掛けるというのはどうかな? 『ツェット』も2個小隊に増員したし、狙撃なりなんなりでギュンターが殺せればいいんだけれど。そうでなければ、奴らの部下を見せしめにするとか」
「暗殺はマリーの本業だね。この子、拷問と暗殺にかけてはプロフェッショナルだよ。どう思う、マリー?」
マーヴェリックがそう言って、マリーに話を振る。
「現段階では暗殺は不可能。ギュンターは籠城している。死体爆弾も通過できない。ただし、他の幹部ならば殺せる可能性はある」
「オーケー。やってやろうぜ」
マリーが淡々というと、マーヴェリックが興奮する。
「幹部をひとりずつ、可能な限り残酷な手段で殺していく。拉致してもいい。そして、拷問してやってもいい。大口径ライフル弾や対戦車ロケットでミンチにしてやってもいい。公衆の面前で火達磨にしてやってもいい」
アロイスは淡々と述べる。
「必要なのは可能な限り残虐に殺すこと。恐怖を示すこと。民衆の心に、敵の心に恐怖を植え付けることが必要とされる。絶対に覆しがたい、抗いがたい、克服しがたい恐怖を叩き込んでやる必要がある」
アロイスはそう言ってマーヴェリックたちを見る。
「君たちにならば、容易なことだと思っているけれど。どうかな?」
アロイスはそう尋ねる。
「容易いことだ。生きたままミディアムレアに焼き上げられる人間がどれだけ叫ぶか知ってるか? 地球の裏側まで聞こえるような声で叫ぶんだ。『助けて、助けて』ってな。母親の名前を叫ぶ人間もいるし、小便を焼かれながらちびる人間もいる」
「拉致できれば拷問できる」
マーヴェリックとマリーがそれぞれそう述べる。
「よろしい。この戦争は君たちに任せるよ。俺はこのままだと気が変になりそうだ。敵を残虐に殺し、敵に与するものも残虐に殺す。とにかく血と肉を撒き散らしてやればいい。それだけだ」
アロイスの精神は10年間の記憶と相まって、人としての心がすり減っていくのを感じていた。
……………………
本日の更新はこれで終了です。
では、面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!




