奇妙な関係の始まり
本日2回目の更新です。
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──奇妙な関係の始まり
ドミニクの妻子を救出するための“連邦”海兵隊の輸送ヘリが急行している。
それと同時にドミニクも動いていた。
彼は匿名の通報で自分の妻子に危険が迫っていることを知った。
匿名の通報の主は分からないが、ここ最近起きていたことを考えるに信頼するべき情報だと判断した。『ジョーカー』にも、ヴォルフ・カルテルにも、キュステ・カルテルにも、ドミニクの妻子を襲う可能性がある。
もはや誰も信用できない。
自分のカルテルのメンバーですら信頼できるかどうかは分からない。ドミニクを嵌めて得をする人間はあまりにも多い。
ドミニクはカールを笑えないなと思った。
俺も敵を作りすぎたんだ。アロイスが警告していたように『ジョーカー』はイカれた人間の集まりだ。そして、それと敵対しているヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテルもイカれている。そして、誰もがドミニクを痛めつけることで利益を得る。
だが、妻子までもか!
ドミニクは自分がどうなろうと自業自得だと思っている。だが、妻子は関係ないではないか。妻も、子も、ドラッグビジネスには関わっていない。ドミニクとしては自分の後継者にアロイスという子供を当てたハインリヒのように、自分の子供を自分のカルテルの後継者にするつもりはなかった。無関係でいてほしかった。
それなのに敵対者たちはドミニクの妻子を奪おうとしている。
それが誰であれ、ドミニクは許さない。
許していいはずがない。
子供はまだ小学生なんだぞ!?
ドミニクがSUVを飛ばして自宅に戻っている間、フェリクスたちを乗せた輸送ヘリはドミニクの自宅に急行していた。
輸送ヘリはドミニクの自宅上空に達した。
だが、先客がいた。テクニカルが2台。ドミニクの屋敷の警備を突破し、兵隊たちが屋敷に突入しようとしている。魔導式自動小銃を抱えた兵隊が、ドアを蹴り破り、屋敷の中に突入していく。
輸送ヘリはそのタイミングで到着した。
テクニカルが輸送ヘリに向けて大口径ライフル弾を叩き込んでくる。ドアガンナーが応戦し、テクニカルに向けて撃ち返す。
「降下、降下!」
輸送ヘリは銃弾の嵐の中を一気に降下していく。
「降下!」
輸送ヘリはテクニカル2台を潰し、降下地点を確保し、フェリクスたちと海兵隊員が地面に降り立つ。そして、彼らは素早くドミニクの屋敷の中に突入していった。
「接敵!」
「接敵! 射撃自由!」
そして、『ジョーカー』の送り込んだキュステ・カルテルの元構成員たちとの交戦に突入する。双方の魔導式自動小銃が火を噴き、弾痕が壁に刻まれ、窓ガラスが割れる。
銃撃戦で圧倒的に優位だったのは、“連邦”海兵隊とフェリクスたちだった。彼らは高度な訓練を受けており、相手を射殺することにためらいがない。敵を見れば引き金を引き、難なく敵を排除していく。
対するキュステ・カルテルの元構成員たちは、ドラッグで恐怖を殺しているものの、人を見てすぐに引き金を引くということが出来なかった。受けてきた訓練の違いだ。それにドラッグカルテルのほとんどの構成員は銃を見せつけるが、発砲することは稀だ。
そのような両者の練度の差が、瞬く間に勝敗を決していく。キュステ・カルテルの元構成員側は最後の手段とばかりに手榴弾を握ったまま突撃してきたが、途中で撃ち殺され、床に転がった手榴弾は遮蔽物に隠れた海兵隊員とフェリクスたちによって回避された。
「警告だ! お前たちに勝ち目はない! 降伏するならば受け入れる! 最後の警告だ! 武器を捨てて降伏しろ!」
フェリクスがキュステ・カルテルの元構成員たちに向けて叫ぶ。、
それに対してキュステ・カルテルの元構成員たちは銃撃で返してきた。
「敵は降伏するつもりはないらしい」
「皆殺しにするしかないな」
「いいや。ひとりは確保しておかなければ。ドミニクに『ジョーカー』の件を伝えさせなければならない。これがヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテルの陰謀でないことを奴に確かめさせなければ、戦争は拡大する」
「そうだな、相棒」
フェリクスの言葉にエッカルトがサムズアップする。
「スタングレネード!」
激しい閃光と爆音が響き、戦争不能になったキュステ・カルテルの元構成員たちに向けてフェリクスたちと海兵隊員が突撃する。
辛うじて銃を構えたもものは射殺され、そうでないものは海兵隊に拘束された。フェリクスとエッカルトはまだドミニクの妻子が無事なのかを確認するために屋敷の中を駆け回る。だが、彼らにはどこにドミニクの妻子がいるかなどの情報などない。
「ディートリヒさん! 警察です! 我々は警察です! あなた方を助けに来ました! 無事ならば姿を見せてください!」
フェリクスとエッカルトはそう叫んでドミニクの妻子を探す。
「こ、ここよ……」
やがてキッチンの方から声がした。
「無事ですか? 怪我などはしていませんか?」
「大丈夫。あいつらが入ってくる前に地下室に隠れたから。あいつらはどうなったの? まだいるの?」
「全員逮捕されるか、射殺されました。もう大丈夫です」
フェリクスが尋ねるとドミニクの妻はまだびくついた様子で地下室から出てきた。
「パパは?」
「大丈夫。きっと来てくれるよ」
そう、匿名の通報をしたのはフェリクスなのだ。
フェリクスがドミニクに警告し、彼を屋敷におびき寄せた。
「我々はどうしますか?」
「離れた場所で待機していてくれ。ここにヘリが止まっていると流石にドミニクも近づかないだろう。どこか安全な場所で待機を」
「了解」
海兵隊の指揮官は頷くと輸送ヘリに乗り込み、輸送ヘリは飛び立った。
幸いにして負傷者も死者もゼロだ。作戦は完璧に成功した。
いや、成功するかどうかを判断するのはこれからだとフェリクスは気合を入れなおす。彼は静かにドミニクの到着を待ち続ける。
「セシリア! エリザベス! 無事か!」
「パパ!」
ドミニクのSUVが停車し、ドミニクが屋敷の中に飛び込んでくるのを娘が出迎えた。
「おお。おお。無事だったか!」
「警察の人がね。助けに来てくれたの」
ドミニクが娘を強く抱擁するのに、娘はそう言う。
「警察……?」
そこでドミニクは妻と一緒にいるフェリクスとエッカルトに気づいた。
「麻薬取締局だ、ドミニク・ディートリヒ。あんたの奥さんと子供は無事だ」
「麻薬取締局がなんで俺を助ける」
「その前に聞きたい。スヴェン・ショル特別捜査官を拷問して殺したのはあんたか?」
フェリクスの言葉には確かな殺意が宿っていた。
「そうだ。俺が拷問を命じた。その結果死んだのか、それとも別の要因で死んだのかは分からないが、スヴェンを殺したのは俺の部下だ。俺が命じた。だが、死体爆弾に変えたのは俺たちじゃない」
「なら、誰だ?」
「ヴォルフ・カルテルだ。そのボスが命じた」
やはり、ヴォルフ・カルテルが関わっていたかとフェリクスは知る。
「俺を逮捕するのか? そのために来たんだろう?」
「今のあんたを逮捕するのは簡単だ。なんなら、この場で射殺することだってできる」
フェリクスはそう言って魔導式自動小銃の撃鉄を下ろし、ドミニクに向ける。
「撃て。撃てよ。俺は喜んでそれを受け入れてやる。お前たちは俺の妻子を救ってくれた。そして、これまでの罪を贖えというのならば、喜んで贖ってやる」
「フェリクス。やめろ。計画と違うぞ」
ドミニクは娘を母親の下に押しやり、両手を広げる。
「俺は殺してやりたいと思っている。だが、そうはしない。その代わり条件を飲んでもらう。死ぬよりも辛い条件だ」
「なんだ?」
フェリクスがドミニクに言う。
「こちらの内通者になれ。ヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテルの情報、『ジョーカー』の情報を寄越せ。それだけだ」
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