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偽旗攻撃

本日2回目の更新です。

……………………


 ──偽旗攻撃



 一方でアロイスの仕掛けた罠は発動する瞬間にあった。


 ピックアップトラックに魔導式重機関銃をマウントしたテクニカル──『ジョーカー』の使っているものと同じタイプ──に『ジョーカー』から脱走してきた兵士たちが乗り込んで、時間を待っていた。


 時間がくれば、テクニカルはシュヴァルツ・カルテルの縄張りに突入し、銃を乱射して逃げ去る。相手は応戦する暇もなく、『ジョーカー』を装ったアロイスの部下たちに射殺され、蹂躙されて、逃げ出す羽目になるだろう。


「時間だ」


「始めよう」


 全員に緊張が走る。


 襲撃に成功すれば、『ジョーカー』から完全に逃がしてやるとのことだった。『ジョーカー』の司令官であるギュンターは脱走兵に容赦しない。凄惨な制裁を与える。脱走兵たちはヴォルフ・カルテルの庇護を失って、『ジョーカー』に連れ戻されることを何よりも恐れていた。


 全員がホワイトフレークを使用する。ドラッグにより痛みと恐怖を消す。これで戦闘準備は万端だ。


「行くぞっ!」


「おお!」


 テクニカルが車道に滑り出し、シュヴァルツ・カルテルの縄張りに突入する。


 街を行く人々は何が起きたのか分からずにぼうっとしている。


 そこに重々しく、けたたましい銃声が響き渡る。


 ピックアップトラックに搭載された魔導式重機関銃が乱射されたのだ。直撃を受けた市民が一瞬でミンチに変わる。


 悲鳴が上がり、悲鳴が悲鳴を呼ぶ。


 50口径ライフル弾が次々に通行人や商店に向けて撃ち込まれ、火炎瓶が投げ込まれる。店舗が燃え上がり、火達磨になった店主が店先に転がり出て転がり回る。


 助手席からは魔導式短機関銃が乱射され、無差別に人が死んでいく。ドラッグカルテルに、シュヴァルツ・カルテルに関わっていようといまいと、襲撃者たちは区別しなかった。彼らが支配地域でやったように殺戮の嵐を吹き荒れさせた。


 やがて警察車両が近づいてくるのに魔導式重機関銃が集中射撃を浴びせた。警察車両は爆発炎上し、中にいた警官たちも大口径ライフル弾を受けて即死した。


 殺戮の嵐は15分ほど吹き荒れ、襲撃者たちは元来た道を引き返し、脱兎のごとく逃亡を図る。そこにシュヴァルツ・カルテルの車両が出てきて、テクニカルを追いかけ始めた。テクニカルは魔導式重機関銃の射撃や火炎瓶によって相手の車両を潰しつつ、ヴォルフ・カルテルとキュステ・カルテルの支配地域に逃げ込もうとした。


 だが、彼らを待っていたのは、温かい出迎えでも、新しい人生でもなく、2発の対戦車ロケット弾による攻撃だった。


 対戦車ロケット弾はテクニカルを吹き飛ばし、残っていた火炎瓶が炎上し、車両は爆発し、中にいた襲撃者たちは八つ裂きにされる。燃え上がる車両と『ツェット』の部隊だけが残り、そこにシュヴァルツ・カルテルの車両がやってくる。


「これはどういうことだ?」


「『ジョーカー』の襲撃だ。我々が排除した」


 シュヴァルツ・カルテルの構成員がドスを利かせた声で尋ねると、『ツェット』の兵士が平然とそう言って返した。


 それもそうだ。『ツェット』の現場の兵士は真実について知らされていない。彼らは本当に『ジョーカー』の兵士を排除したと思っている。彼らは通報があって、ここで待機していたのだ。暴走した『ジョーカー』の車両が縄張りに迫っていると。


「このことはボスに報告する」


「お好きにどうぞ」


 端から『ツェット』の兵士は、ごろつきに過ぎないシュヴァルツ・カルテルの構成員など相手にするつもりはなかった。


 だが、連絡は両者で行われる。シュヴァルツ・カルテルの構成員はドミニクに、『ツェット』の兵士はアロイスに、それぞれ情報を伝える。


 ドミニクからアロイスに電話がかかってきたのは事件発生から30分後だった。


『アロイス。正直に話してくれ。俺たちは『ジョーカー』から攻撃を受けたのか?』


「恐らくは。そちらの被害状況については知らないんだ。ただ、シュヴァルツ・カルテルの縄張りを経由して俺たちに攻撃を仕掛けるという通報があって、待ち伏せを行っていた。被害は甚大なのか?」


『甚大なんてものじゃない。致命的だ。誰もが『ジョーカー』を相手にビビってる。連中はイカれてるってな。俺の面子は丸つぶれだ。あの野郎どもは俺の縄張りに小便して、俺の顔に唾を吐いていきやがった!』


「その連中は始末したけれど、次がないとは言えないね」


『ああ。そうだ。次がないとは言えない。だが、俺は戦争に参加するつもりはないぞ。戦争はごめんだ。『ジョーカー』のクソ野郎には抗議しておく。死体を渡してくれ。首を切り落として奴らに送りつける』


 クソ臆病者のドミニクめとアロイスは心の中で毒づく。


 お前は戦争に参加しなければいけないんだよ。そうやって俺たち全員が損害を負って、勝者のいない戦いにしなければならないんだ。お前だけ戦争から逃れて、楽をしようと思ったってそうはいかないんだぜ。


「首は渡せない。もう処理した。文句が言いたいなら、『ジョーカー』の連中に鉛玉をくれてやるんだね。それに『ジョーカー』はイカれている。首を送り付けたって、鼻で笑うだけに過ぎないよ」


『畜生。だが、俺たちは戦争には参加できない。リスクが大きすぎる。俺と連中の縄張りの境界線は広大だ。それら全てを守ることなんて不可能だ。武器も人も足りない』


「だが、戦うしかない。そうしないとあんたは面子を潰されたまま。『ジョーカー』の連中はあんたが手を出さないのをいいことに好き放題やるだろう。戦争に参加せずとも、被害は受けるんだ」


 そうだぞ、ドミニク。自分だけ参戦しないという選択肢はないんだ。


 あんたが参戦するまで『ジョーカー』の連中を焚きつけてやる。


「選択肢は他にない。そうだろう?」


『畜生。俺は抗争を仲介してやるつもりだったんだ。全員が参戦したら、誰がこのクソみたいな戦争を終わらせるっていうんだ? カールの爺はくたばった。あんたの親父さんもくたばった。カルテルのボスの中で最年長は俺だ。俺は仲介しなければならない』


 仲介? 誰もそんなことを求めてはいやしないさ、ドミニク。何を勘違いしているんだ? 『ジョーカー』を同じカルテルの仲間として認めて、仲良くやっていきましょうってか? ふざけんなよ、ドミニク。『ジョーカー』のクソ野郎どもと交渉できると思ったら大間違いだ。


「ドミニク、ドミニク。これは相手を殲滅するまで続く戦争だ。あんたが俺たちよりの中立を維持していることには感謝するが、どちらかと言えばあんたたちにも参戦してもらいたい。そうすることで、このクソみたいな戦争を早く終わらせられる」


『いいや。俺は参戦しない。いつか、『ジョーカー』かヴェルナーのいずれかが泣きついてくる。その時にお前では仲介はできないだろう? お前はがっつり参戦しちまってるからな。誰か参戦しない人間が必要なんだ』


「ドミニク……」


『もちろん、縄張りに入ってきた連中は容赦なく殺す。そして、ヴォルフ・カルテルがキュステ・カルテルに物資や人員を送ることには目を瞑る。それでいいだろう?』


 チキン野郎。豚の小便を煮詰めて、猫のクソを入れたカクテルを飲ませてやりたい。


「分かった。好きにしてくれ。そちらの判断を尊重する」


『ありがとよ、アロイス』


「どうってことはない」


 これでシュヴァルツ・カルテルを参戦させることは失敗に終わった。


 ならば、そろそろシュヴァルツ・カルテルを生贄の羊に捧げるか? とアロイスは考え始めていた。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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