弾薬庫
本日2回目の更新です。
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──弾薬庫
ギュンターは予定通りとはいかないものの、着実に戦争を進めていた。
キュステ・カルテルの忠誠軍との戦いは順調だった。
訓練を受けていないキュステ・カルテルの忠誠軍に対して、『ジョーカー』は軍警察として高度な訓練を受けている。相手にならない。
ただ、装備だけは、キュステ・カルテルの忠誠軍の方が上回っている。彼らはヴォルフ・カルテルから物資援助を受けていたからだ。“大共和国”やサウス・エデ連邦共和国から輸入される兵器が次々に忠誠軍に渡され、武装を強化していく。
「武器の流入をどうにかしないといけない。それかこっちも武器を手に入れるかだ」
ギュンターはネイサンのような兵器ブローカーのパートナーがいない。キュステ・カルテルからドラッグの密輸・密売を任されていたときに作ったコネで小規模な銃火器の輸入はできるが、流石に装甲車や対戦車ロケットは手に入らない。
どこかで武器の密輸網を作らなければならない。
「何かいいアイディアはないか? 軍の弾薬庫を襲うというのでもいい。連中が装甲車を持ち出すのに、こっちはテクニカルでは話にならない」
「兵器ブローカーの大手はヴォルフ・カルテルについています。我々が取引するとなるとそれとは劣る相手になります。それもこちらの足元を見てくるでしょう。まともな取引は望めません」
「となると、やはり軍の弾薬庫か。軍を敵に回すことになるが」
そこでギュンターが大笑いし始め、部下たちがぎょっとする。
「馬鹿げてる! 馬鹿げている! 俺たちは世界を相手に戦争をしているんだ! 今さら敵がひとつ増えるくらい、気にするもんじゃない! 野郎ども! 軍の弾薬庫を襲撃して武器を奪うぞ! 戦車も奪えるなら奪ってみろ!」
「応っ!」
集まった『ジョーカー』の構成員たちが歓声を上げる。
イカれている。これを見たものはそう思うだろう。だが、ドラッグビジネスは時としてイカれている人間が勝利する業界なのだ。
魔導式自動小銃、魔導式機関銃、魔導式短機関銃。それぞれが武器を手に取り、ピックアップトラックに乗り込む。『ジョーカー』の魔導式重機関銃をマウントしたピックアップトラックはかつてキュステ・カルテルの縄張りにいた住民たちを恐怖に陥れた。
誰も邪魔をする人間がいない道路をピックアップトラックは疾走し、そのまま軍の弾薬庫を目指す。腐敗した軍の警備兵は『ジョーカー』の掲げる旗を見るなり、慌ててその場から逃げだし、職務を放棄した。
中にいた人間は武器弾薬を守ろうと応戦する。
ピックアップトラックから50口径ライフル弾が放たれるのに、遮蔽物は穴だらけになる。唯一の例外である装甲車を除いて。
装甲車はエンジンを始動し、ピックアップトラックに同じ魔導式重機関銃で応戦する。ピックアップトラックが炎上し、爆発する。
だが、その隙に『ジョーカー』の兵士が装甲車に肉薄し、魔導式重機関銃を乱射する銃座に手榴弾を投げ込んだ。
爆発が起きて中にいた“連邦”陸軍の兵士は全員が死んだ。
「いいぞっ! いいぞっ! 殺せ! 殺しちまえ! そして、奪え!」
ギュンターがアドレナリンで興奮した状態で狂ったように叫ぶ。
「装甲車をいただきましたよ、ボス」
「上出来だ、一等兵! そのまま連中を蹂躙してやれ!」
軍の弾薬庫に配置されていた装軌装甲車が『ジョーカー』に鹵獲される。その装甲は魔導式重機関銃の射撃でもびくともしないしろものである。
次々と装甲車を奪った『ジョーカー』の兵士たちが魔導式重機関銃を乱射しながら、さらなる戦果拡大を目指す。弾薬庫を守るための土嚢が積み上げられた銃座に向けて大口径弾が何十発と叩き込まれ、そこにいた“連邦”陸軍の兵士がミンチに変わる。
「奪え! 奪えるものは全て奪え! 銃! 爆薬! 手榴弾! 対戦車ロケット! 対空ミサイル! 装甲車! キュステ・カルテルにあって俺たちに足りないものは全て奪っていけ! 俺たちに勝利を! イヤアッ!」
ギュンターは完全にアドレナリンがキマっていた。興奮し、死亡した“連邦”陸軍の兵士の首を切り落とし、土嚢の上に並べる。
生きて捕虜になった兵士の末路も悲惨だった。彼らは生きたまま装甲車に足を潰され、頭を潰された。べっとりとした肉片が装甲車の無限軌道にへばりつく。
装輪装甲車も鹵獲された。これもまた50口径のライフル弾に耐える代物で、おまけに口径20ミリの機関砲まで搭載されている。
だが、ギュンターはこの程度では満足しなかった。
次から次に軍の弾薬庫を襲撃する。
装甲車はメンテナンスしなければ壊れる。『ジョーカー』の場合、故障した装甲車は放棄していた。また軍の弾薬庫を襲撃して新しい装甲車を獲得すればいいだけなのだ。彼らは好き放題に暴れまくり、軍から大量の武器弾薬と装甲車、そしてヘリまで奪った。
軍が秘密裏に『ジョーカー』に接触してきたのは弾薬庫の襲撃が始まってから28日後のことだった。彼らは武器弾薬、装甲車を守るための戦力が不足していることから、そして彼らもまた腐敗していることから、『ジョーカー』に武器の売却を打診した。
この取引では『ジョーカー』はこれまで通り、弾薬庫を襲撃するが、軍は応戦しない。その代わり彼らがドラッグの密輸・密売で得てきた利益を軍の司令官に渡すというものだった。表向き、軍は武器弾薬を守ろうとするが、実際は『ジョーカー』に売却している。“連邦”にとっての、国家にとっての敵に対して武器を明け渡すのだ。
ギュンターはふたつ返事で取引を承認した。彼らは安全に武器を手に入れられる。彼らは兵器ブローカーを見つけることはできなかったが、軍という腐敗した組織から武器弾薬を入手することが可能になったのだ。
新しく武器を手に入れたことで『ジョーカー』は攻勢に出る。
キュステ・カルテルが守る縄張りに侵入し、銃弾をばら撒き、拠点を制圧する。
軍警察であった『ジョーカー』の兵士たちにとって市街戦はお手の物だ。加えて装甲車の支援もあるならば完璧だ。犯罪者を追い詰める要領で、キュステ・カルテルの構成員たちを追い詰めていく。
キュステ・カルテルの戦闘員は武器を持っただけの素人だ。装甲車に威圧されては身動きが取れないし、対戦車ロケットはあるが、取り扱い方法を間違い高熱のバックブラストを浴びて死亡する兵士が後を絶たなかった。それでいて『ジョーカー』の装甲車を撃破できる可能性は2割程度なのである。
流石のアロイスもキュステ・カルテルがこのままでは潰されると危惧して、『ツェット』の1個小隊を派遣した。
流石は軍警察を上回る練度を有する『ツェット』なだけあって、『ジョーカー』の装甲車は撃破され、中から火だるまになった『ジョーカー』の兵士が転がり出てくる。あとの方になると装甲車が対戦車ロケットの標的にされてることと、装甲車がそれに耐えられないことに気づいて装甲車の中ではなく装甲車の上に『ジョーカー』の兵士たちは乗るようになり始めていた。
だが、装甲車の外にいれば銃弾の嵐を受けることになる。
それでも『ジョーカー』は地の利を活かし、斥候を送り込み、敵が待ち伏せているポイントを把握すると、装甲車はその手前で止まり、『ジョーカー』の兵士たちはそこから降り、装甲車を対戦車ロケットの射手から守る形で前進を始めた。
この抗争は激化していく。その一方であった。
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本日の更新はこれで終了です。
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