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ドラッグの王様

本日1回目の更新です。

……………………


 ──ドラッグの王様



 スノーホワイトから採取され、精製されるドラッグの中でもホワイトフレークは格が違う。一度、ホワイトフレークをやったら、もう二度とホワイトグラスどころか、スノーパールにすら戻れない。


 高い中毒性。高い精神への影響。そして、オーバードーズでの死者数。


 どれにおいてもナンバーワンだ。


 アロイスは近々スノーパールからホワイトフレークへと商品を転換するつもりでいたが、幸運なことにその評判を西南大陸の軍事政権のひとつが試してくれる。


「ホワイトフレークをいくらで売るかだ」


 アロイスはマーヴェリックにそう言う。


「スノーパールと同じ値段というのはあり得ない。だが、高くしすぎて顧客が買えないので意味がない。どうにかしないといけない」


「原価はいくらなんだい?」


「スノーパールより20ドゥカートほど高い」


「それを高く売りつけると?」


 マーヴェリックは首を傾げた。


「単純な薬効から考えて、だ。ホワイトフレークでぶっ飛ぶのはスノーパールでぶっ飛ぶのとはわけが違う。スノーパールが飛行機の高度までぶっ飛ぶとしたら、ホワイトフレークは月面探査機ぐらいまでぶっ飛ぶ」


「つまり、1回ぶっ飛ぶだけで満足しちまう奴が出てくるってわけか」


「そう、頻度が変わってくる。1回ぶっ飛んだあとに、すぐ次のをやればオーバードーズであの世行きだ。棺桶にいるヤク中にドラッグは売れない。ヤク中たちは高品質なドラッグで月までぶっ飛ぶのか、飛行機の高度で何度もぶっ飛ぶかを選ぶことになる」


 ホワイトフレークはスノーパールより使用頻度が落ちるだろう。スノーパールと同じ気分でやっていったら速攻でオーバードーズだ。


「ひとつの量を少なくするのは?」


「それを考えるべきかもしれないな。今は暗中模索の段階だ。使えそうなアイディアは全て使わないといけない」


 アロイスはホワイトフレークを粉のまま売るつもりはなかった。粉は不純物が混ぜやすい。ヴォルフ・カルテルが販売するドラッグに不純物が混じっていたなどということになるのはごめんだった。この手の商売はヤク中との信頼も大事だ。


 出荷の際は粉として出荷し、厳重な品質管理の元、現地で錠剤に加工する。アロイスはペーパーカンパニーを通じて、錠剤に形成するための機械を購入した。とりあえず3ミリグラムにつき、600ドゥカートという値で末端では売ることをアロイスはヴィクトルとチェーリオに相談する。ふたりはこの提案に前向きだった。


 アロイスからヴィクトルとチェーリオには3ミリグラム当たり200ドゥカートで販売する。末端価格はあくまでアロイスの希望価格なので、それぞれが儲かるように調整してもらって結構ということになる。


 そして、最初の軍事政権とのドラッグ取引が始まる。


 アロイス=バルドゥル・ネットワークと呼ばれる西南大陸からアロイスを通じて、“国民連合”にドラッグを売る流通網が構築されて行く。


 軍事政権のスノーホワイトは質がよく、精製も上手くいっていた。精製度70%のホワイトフレークがアロイス=ヴィクトル・ネットワークとアロイス=チェーリオ・ネットワークを通じて、“国民連合”に流れ込む。


 ホワイトフレークはドラッグの王様だ。


 王様は気前がいい。大金を取引に関わるもの全てに与えてくれる。


 バルドゥルも、アロイスも、ヴィクトルも、チェーリオも、この取引で大金を得た。


 バルドゥルの軍事政権はさらに強固なものとなり、アカ狩りが続く。文字通りのアカ狩りだ。アカを見つけて射殺する。記録ではクーデターが起きてから1週間以内に3200名の市民が行方不明になったとされてる。それらの多くは拷問され、射殺され、海に捨てられたと言われている。


 ヴィクトルとチェーリオも儲かっていた。


 ヴィクトルはレニのマギテク関連ヴェンチャー企業への投資を始め、将来誰もが知ることになるマギテク関連メーカーたるA&Mフェアリーネットワークに投資した。A&Mフェアリーネットワークは人工妖精と妖精通信分野で急速に勢いを伸ばし、1980年に持ち運び可能な妖精通信機を開発することになる。


 チェーリオの方もマフィアとして父親のできなかったことを成し遂げていた。カルタビアーノ・ファミリーはフリーダム・シティにおける組織犯罪のトップとなった。元々あった5大ファミリーの事業を接収し、自分たちの事業に代えた。さらば、5大ファミリー。ようこそ、汚職警官とマフィアの街フリーダム・シティへ。市長すらもチェーリオは買収し、文句を言わせないようにしていた。


 その陰ではスノーパールと同じ気分でホワイトフレークと使用して、月までぶっ飛んだまま帰ってこない人間が大勢現れていた。オーバードーズだ。スノーパールより楽しめるという売人の言葉を信じ、ドラッグを購入した人間が大勢死んでいた。


 もちろん、ヤク中は絶滅したりはしない。死ぬのは馬鹿なヤク中だけだ。まあ、それをいうならば全てのヤク中が馬鹿なのだろうがとアロイスは思うものの。


 ドラッグはオーバードーズで身を滅ぼさなくとも、じわじわと脳を汚染し、精神を蝕み、体を腐敗させる。ヤク中はドラッグを使用するたびに緩やかな自殺への道を選んでいるのだ。全てのヤク中が自殺しようとドラッグを使用しているのだ。


 ホワイトフレークが売れると分かったアロイスたちの精製所でもホワイトグラスやスノーパールを精製しつつも、ホワイトフレークに力を入れ始めていた。


 軍事政権も次々にドラッグビジネスに参加し、アロイス=バルドゥル・ネットワークは、アロイス=何とか将軍・ネットワークになり、西南大陸から大量のドラッグが流れ込む。そのほとんどはホワイトフレークだ。


 アロイスは大忙しである。


 何とか将軍に金を渡し、ブラッドフォードに金を渡し、反共民兵組織に武器を渡し、ホワイトフレークをヴィクトルとチェーリオに渡し、そして金を受け取る。


 金は資金洗浄され、大量の現金は租税回避地(タックスヘイブン)の口座に収まるが、一部は投資に回される。アロイスは不動産や株式に投資し、現金をさらに膨らませる。不動産投資は熱心に行われ、アロイスは不動産王と呼ばれる人物からパーティーに招待されるぐらいであった。もちろん、断ったが。


「忙しくて目が回りそうだ」


 金、ドラッグ、兵器。あらゆるものがあちこちに運ばれるのにアロイスはため息をついた。この調子では過労死しかねない。


「残念だけど、あたしはそっちの仕事は手伝えない」


「分かってる。君たちの仕事は俺の身を守ることだ。パーソナルアシスタントとしての仕事を頼むつもりはないよ」


 マーヴェリックが書類仕事している姿を想像して思わずアロイスは笑いが漏れた。


「なんだよ。何がおかしいんだ?」


「いや。君には本当にデスクワークは似合わないなって思って」


「こう見えても一応は大学出だぞ。家で黙々と勉強していたときだってあるし、軍にいたときは書類仕事は将校の義務だった。なあ、マリー?」


 ここでマーヴェリックがマリーを応援に呼ぶ。


「あなたの書類はミスだらけだった。文法、ピリオド、単語の綴り。間違いが酷くて私が直してた。本当に大学を出たの?」


「出た。“国民連合”の文学部だ。エルニア文学について学んだ。エルニア語なら喋れるぞ。ジャンとミカエルで証明してやろうか?」


「いいえ。そこまで言うならば追求しても無駄だから」


「何を」


 マリーがお手上げというように肩をすくめるのにマーヴェリックが唸る。


「君たちは……。仕事の邪魔はしないでくれよ」


「しない。だが、話し相手ぐらいにならなってやる」


 マーヴェリックがその三白眼の赤い瞳でアロイスを見つめる。


「仕事の件もそうなんだが、そろそろヴェルナーと話さなければならない」


……………………

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