西南大陸情勢
本日2回目の更新です。
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──西南大陸情勢
西南大陸は“国民連合”の裏庭だった。
“国民連合”はそこに共産主義が入り込むことを何よりも嫌った。
だが、共産主義はインフルエンザのように入り込み、天然痘のように劇的に作用し始めていた。いくつもの国が内戦状態に陥り、“国民連合”に助けを求める。
“国民連合”は彼らの支援要請に応じ、軍事政権をいくつも樹立した。
“国民連合”陸軍が管轄する西大陸安全保障協力研究所で共産主義との戦い方を教えられた軍人たちが祖国に帰り、共産主義者たちと戦う。それらの軍人たちの半数以上が人道的犯罪を平気で行っていたし、共産主義ゲリラも手段を選ばなかった。
血塗れの戦いが繰り広げられる中、またひとつの国が共産主義者の影響を受けようとしていた。“国民連合”の支持もなく。
「西南大陸問題はとても緊迫しているのだ、ミスター・アロイス」
ブラッドフォードと会ったのはエリーヒル発、メーリア・シティ行きのプライベートジェットの中だった。空港に駐機していても、そこら中でジェットエンジンの音が響いているので盗聴される心配がない。
「もちろん、自分も共産主義の脅威については理解しているつもりです。だから、メーリア防衛軍を支援している。嘘じゃない。メーリア防衛軍を我々はちゃんと支援している。金は一度そちらに渡され、そして我々が武器を買い、それをメーリア防衛軍に渡している。共産ゲリラの脅威は完全に消えたわけじゃないが、それでも小さくはなっている」
ブラッドフォードは今回は何を取引したいのか、アロイスにはまだ分かっていなかった。だが、ドラッグマネーが必要な取引だということだけは分かる。
「もちろん、そちらの方面での協力には感謝している。とても感謝している。だが、理解してほしい。今や脅威は拡大を続け、いずれはあなた方のスノーホワイト農園ですらコルホーズにされてしまうかもしれないのだ」
何を馬鹿なとアロイスは思う。
そうなる前に“国民連合”が軍事介入してくるのは確実じゃないかと。
「我々は西南大陸においていかなる共産主義政権も拒否する。ここは我々の裏庭だ。“社会主義連合国”が介入する余地はない」
「分かりました。で、我々に何をしろと? メーリア防衛軍への支援だけでは足りないのですか?」
「足りないのだ。新聞はご覧になるかな、ミスター・アロイス」
「もちろん。テレビと広告欄以外も」
お前は馬鹿かと言われている気がしてアロイスは少しばかり腹が立った。
こっちはメーリア防衛軍という名のならず者集団に大量の武器弾薬を供給しているのだ。そいつらが武器弾薬を横流しして、他所のドラッグカルテルの武装が強化されるのではないかとアロイスは戦々恐々としているというのに。
キュステ・カルテルが武装する気配を見せ始めたのは、カールが無残な死を遂げてからだった。彼らはカールのように無様に殺処分されることを恐れ、自前の私設軍を保有しようと考え始めているようだった。
何故、それをアロイスが知っているかと言えば、彼にはまだ軍と警察にコネがあったからだ。ハインリヒの遺産には警察や軍の司令官を脅迫可能なブラックメールリストが揃っていた。アロイスはそれを活かして警察と軍に動きがないかを探っていた。
そうするとキュステ・カルテルが警察や軍の特殊作戦部隊の隊員を引き抜いているという情報が手に入った。それによってカルテルの構成員を訓練しているという知らせも。
キュステ・カルテルがそういう動きを見せているのに無思慮に武器を垂れ流す行為の危険さが分からないはずがない。キュステ・カルテルには生贄の羊になってもらうのだ。武装した軍隊など持たれては困る。
「それでしたらご存じでしょう。西南大陸のひとつの国家が共産主義者に乗っ取られた」
「あれは合法的な選挙の結果では?」
西南大陸には確かに社会主義政権が生まれていた。
合法的な選挙の結果として。
決して共産ゲリラが国を国を乗っ取ったとか、そういう結果ではない。
もちろん、選挙で社会主義政党が圧勝したわけでもない。選挙は接戦で、保守派が分裂した結果として社会主義政権が樹立されたのだ。社会主義政権は議会の半数を獲得したわけでもないし、保守派に完全勝利したわけでもない。
「いいえ。選挙には不正があった。そういうことなのだ。今、その国では急速な国有化が始まっている。外国資本もお構いなしに、当然ながら我々“国民連合”の資本も。いずれは共産ゲリラにとっての聖域になりかねない」
アロイスはどんな偏執病患者でも反共主義を信じていれば、“国民連合”政府において地位に付けるなと思いながら、ブラッドフォードの会話を聞いていた。
「共産主義政権は認められない。排除しなければならない。我々があなたに頼みたいのはクーデターのための資金だ。クーデターは事前に察知され、今や軍上層部も共産主義政権の息のかかった人間になっている。武器弾薬についても連中の管理下だ。だが、退役した軍人たち、予備役の軍人たち、そして警察官たちはクーデターに前向きだ」
「そのために新しい玩具を、というわけですか」
「そういうことだ。共産主義との戦いは国境を越えて行われる。我々は各地の反共主義を掲げる自由の戦士たちを“国民連合”が支援しなければならない。そろそろ、彼が来るはずだ。紹介しよう」
ブラッドフォードは腕時計を見てそう述べた。
そして、プライベートジェットの扉が開く。
「紹介しよう。バルドゥル・バルビー予備役大将だ。共産主義政権が樹立する前は、陸軍総司令官の立場にあった。バルビー将軍。我々の友だ」
「よろしく」
バルドゥルが手を差し出すのにアロイスはその手を握って握手した。
「彼は西大陸安全保障協力研究所で研修を受けていてね。自由主義と民主主義の素晴らしさを理解している。これは共産主義者には決して理解できないものだ」
このなんたら将軍がクーデターを起こしたら自由主義も民主主義も消えるんだろうとアロイスは心中で呟いた。
「彼に武器を与えて、共産主義政権を打倒しようではないか。彼らが決起すればそれに応じるというものたちもいる」
「待ってくれ、ブラッドフォード。共産主義の脅威はよく理解しているが、この取引は聞いてない。この取引ではあなたたちが先頭に立つのか?」
「先頭に立つのはバルビー将軍だ。我々ではない。内政干渉はよくないだろう」
クソッタレ。クーデターを支援するのがどこか内政干渉じゃないっていうんだ?
「それで、どれくらいの武器が必要なのです、将軍?」
「1個連隊が武装できる程度でいい。それだけあれば大統領官邸を落とせる」
1個連隊と来たか! 軽々しく言ってくれる。こっちはキャッシュカードじゃないんだぞ。素敵なクリスマスのサンタさんでもない。
「将軍を外して話がしたい」
「すまない、バルビー将軍。少し、席を外してくれ」
ブラッドフォードがそう言い、バルドゥルはプライベートジェットから降りた。
「それで話というのは?」
「この取引で我々が得られる利益だ。我々は麻薬取締局の全潜入捜査官の情報が欲しい。これは譲れない」
アロイスははっきりとそう述べた。
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