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男の子な女の子

作者: 狂人ライム

目が覚めて五秒で気が付いた。


「女になってる・・・」





俺の名前は平野裕司(ひらのゆうじ)中学1年。

サッカー部所属で、頭は平均以下ではあるが、運動神経は良い方。

そして何より、背が低い。

父さんの家計は皆背が低い人ばかりだったらしく、俺は母さんよりも父さんの方に似ているらしく、とても背が低い。

そのせいで学校ではからかわれたりすることが多かった。

でもそんな事今更気になんてしてないし、どうでもいい事の1つであった。


なのだが・・・


「な、ななななんだよこれっ!お、女になってるって・・・ハァ?そんな非科学的な事あるわけねぇだろっ!」


「裕司~?起きてるなら早く下りてきなさい!朝ご飯で来てるわよ~」


「な、え・・・えぇっと、分かった。今行くからちょっと待ってっ!」


そう言って俺は大急ぎで私服に着替える・・・だが。


「なんか、オシャレじゃない・・・ダサい・・・って、何で俺こんな事気にしてんだよ、今まで普通に着てたじゃねぇか!」


と、そんな感じで着替えに大分苦労することになったのだった・・・。



                        〇〇〇〇〇


「あら?あなた誰?」


1階まで下りて来て、母さんの第一声がこれだった。


「いや、誰って・・・自分の息子が分かんないって重症だぞ母さん」


まぁ女になっているから分からないのも無理はない。

だがやっぱり自分が息子だって認知されないのは息子として少し寂しい気持ちもあったりする。


「あー。裕司にそんな趣味があったなんて・・・母さん知らなかったわ。お父さんには内緒にしててあげるから、早く着替えてきなさい?」


「いや、女装じゃねぇし、俺にそんな趣味もねぇからな?」


「そんな、誤魔化さなくたっていいのよ?別に悪いことじゃないと思うわよ?でもねぇ、そういうのはまだ早いと思うのよ」


「どういうのだよ、知らねぇよ。朝起きたら女になってたんだよ」


「あら、そういう設定なの?だからその口調なのね?でもそれだったらもっと動揺してた方がそれっぽいと思うわよ?」


「いや設定じゃねぇし動揺なら自分の部屋で散々したからもう十分なんだよ」


と、俺と母さんがそんなやり取りをしていると、階段から父さんが下りて来た。

絶対めんどくさいことになる・・・。

俺はそう思いながら深くため息をついたのだった・・・。



                       〇〇〇〇〇


その後、20分ほど父さんと母さんのよく分からない誤解が続いた。


「でも、アニメとかでは見たりするが、現実で女体化なんてあるんだなぁ」


「そうねぇ、てっきり裕司がそういうのに目覚めたのかと思っちゃったわ♪」


と、二人は呑気に会話をしながら朝食を食べている。

俺はというと、学校に行く支度をしている。

制服は男物しかないので仕方なくそれを着る。


どうやら女になって考え方がまるで変ったらしい。

オシャレの方がいいとか、可愛くなりたいとか、自分で思ってて恥ずかしくなってくることばかりだ。


(はぁ、どうすっかなぁ・・・学校行ったらきっと注目の的だろうな)


と、俺はそんなどうでもいい事を考えながら仕度を黙々と進めていく。

学校に行くのが憂鬱になってきたが、ズル休みをするわけにもいかないので仕方なく家を出る。



教室に入ると案の定、あちらこちらから視線が飛んでくる。


「あんな子いたっけ?ってかなんで制服男物なの?」


「あの子裕司の席に座ってるぜ?裕司の彼女かなんかか?」


「んなわけねぇだろ?裕司に彼女なんかいるわけねぇっての、アハハハハ」


と、疑問や罵倒(言ってるの1人だけだけど)の声が飛び交う。

正直鬱陶しい。

いや、気持ちは確かに分かる、分かるが、心の中でまでにとどめて欲しいと心底思う。


「はぁ・・・」


俺はため息をつきながら席を立ちそのまま歩いて教室を出た。



                       〇〇〇〇〇

 

「ったく、教室は相変わらず落ち着ける場所がねぇな」

俺はそう呟きながら寝転がる。

俺が今いるのは屋上。

本当は教師たちに禁止されているのだが、屋上の扉には鍵が付いていないので、勝手に入ることが出来る。

見つかれば怒られるのだが、正直教師に怒られたって怖いとも何とも思わない。


俺は寝転がりながら思考を巡らせる。

この現象には心当たりがあるのだ。

こんな非科学的なことを可能にすることが出来る、そんな人物。


「やっぱりここに居たのか、裕司」


「!!」


突然声をかけられたので驚いて勢いよく起き上がる。


「よう!元気か?裕ちゃん?」


「その呼び方は止めろ、秋羅」


コイツは、俺の親友の草薙秋羅(くさなぎあきら)

コイツには特別な力がある。

それは非科学的な力で、何でもできる力。

人を殺そうと思えば簡単に殺すことができ、お金が欲しいと思えば、億万長者になれるほどの大金だって手に入る。

それがコイツの力【なんでもできる能力】なのだ。


「だって女が裕司、なんて変じゃね?」


「だったら元に戻せ馬鹿」


「えー、馬鹿ってなんだよ馬鹿って、滅ぼしちゃうよ?この世界」


「俺の発言だけで世界を滅ぼすな馬鹿」


「あー!!また馬鹿って言ったな?本当に滅ぼすからな!?いいのか!?」


「はいはい、好きにしろ、付き合ってられん」


それからしばらくの沈黙が続いた。

秋羅は俺の横に座ってじっと空を見上げていた。

そして、しばらくして秋羅は口を開いた。


「俺さ、もしかしたらもうお前と会えないかもしれない」


そう、呟いた。

俺がそれを理解できずに硬直していると、秋羅は再び口を開く。


「俺の能力がさ、研究者達に知られたんだ。それで、母さんと父さんが人質に取られた」


「ハァ?・・・能力使えばいいじゃねぇか、なんか使えない理由でもあんのか?」


「駄目なんだよ、それじゃ駄目なんだ。俺の力は万能じゃない。前にも言っただろ?俺の力は人間(俺)の感情を吸収して使ってる、今俺はこうやってお前と喋っているが、もうほとんど何も感じてないんだよ、お前に会えないって事を、寂しいとも、悲しいとも思わない。これ以上能力を使えば感情がなくなる。結局お前ともこうやって話すことができなくなる。どの道もう会えないんだ。だから、意味もなく存在するくらいなら、俺は誰かの役に立つ道を選ぶ。あいつ等だって、悪用しようとしてるわけじゃないからな」


確かに秋羅の言ってることは正しかった。

コイツはさっきから、ずっと真顔で俺と会話をしていた。今だってそうだ。

でも、それだけで諦める秋羅に、俺は腹が立った。


「・・・じゃねぇの?」


「裕司?」


「ばっかじゃねぇの!?」


「!?」


俺が大声を出したからか、秋羅は目を見開いて驚く。


「何でお前はいつもそうなんだよ!自分だけで解決できるからって、自分一人でなんでも背負って、俺には何も言わないで!」


許せなかった、こいつの行動や、考え方が。

自分だけで解決しようとして、俺には何も話さなくて、それで別れだけ言って、俺の前からいなくなる。

その行動が、腹立たしかった。頼りにしてくれない秋羅にも、頼られないくらい弱い、自分にも。

だから、文句を言ってやりたかった。

秋羅にも、俺自身にも。


「頼ってくれよっ!確かに俺じゃ頼りないかもしれない、お前の力にはなれないかもしれない。でも、それでも俺はお前の味方だし、相談くらいになら俺だってのってやれる。だから、だからもっと頼ってくれ、秋羅!」


「裕司・・・お前、泣いて・・・」


知らない間に涙が出てきていたらしい。

目からはポロポロと涙があふれ出してくる。

でも、拭わない。これは、俺の感情だから。俺の心だから。

秋羅が失ってしまった感情だから、俺はそれを大切にしたいから。

そして、秋羅に分かって欲しいから。俺の気持ちを、想いを、知って欲しいから。

だから拭わない、絶対に。


「ハハッ・・・お前、涙で顔ぐっちゃだぞ?」


「・・・秋羅?」


「やっぱお前、面白いよ・・・本当」


「なっ・・・」


今度は秋羅が涙を流し始めた、本当に辛そうに、悲しそうに・・・寂しそうに。

ありえない事だった。さっきまでほとんど真顔で話していて、その顔には何の感情もこもってなかった。

なのに、今は違う。

今はとても辛そうに、泣いていた。


「秋羅、お前・・・感情が?」


「え・・・あ、そう言えば、そうだな」


「って、うわっ!なんだこれ」


気が付けば俺の周りに光の粒子が飛び交っていた。


「それは・・・能力の、開花」


「・・・ハ?」


「なぁ、俺の感情が戻ったのって、お前の能力なんじゃないのか」


そう言って秋羅はクスッと笑った。


「ハ?なんだそりゃ?感情を戻す能力か?何に使うんだよそれ」


「俺のサポートじゃね?」


「ハハ、そりゃいいかもな」


そして、俺たちは笑い合った。

大きな声で、本当に楽しそうに、笑いあったのだった。





その後屋上にいることが教師たちにバレ、2人で小一時間説教を受けたのだった・・・。

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