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虹の魔道士Ⅰ  作者: あず
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第九話 アーテルの雫

虹の魔道士 第九話 アーテルの雫


「よくぞ、儂の試練、”闇の試練”を乗り越えた。我が名はアーテル。ここ、闇の都市の守護竜である。」


私の目の前には巨大な黒い竜が鎮座していた。

いつからそこにいたのかも、いつ私の後ろに現れたのかも分からなかったが、そこは竜。力が圧倒的なのだろう。


「あなたがアーテル様ですか?あの、私は試練を乗り越えられたと…。」


「正しくその通り。お主は自らの欠点を理解し、そして受け入れた。これは宝石将、いや、魔導士になるために必要なことなのだ。この世には自分の欠点を認めず、周りに縋ってばかりの者が多すぎる。確かに他人に頼ることは悪いことではない。しかし、自分の力を使わずして、周りを巻き込んでばかりでは成長できないのだ。自分の足が、手が、力があるのに、それを使わずして強くなどなれないのだ。」


「はい…。私にはまだ足りないものが多すぎます。今からでも少しずつ自分を変えられるように頑張ります。」


「うむ。それではそなたにこれを授けよう…。」


そういうとアーテル様はぐぐぐっと体を起こした。すると、アーテル様の体に隠れるようにそのどくろを巻いていた体の中から出てきたのは虹色に輝く鉱石だった。


「これは…?」


「それがお主が求めていた”魔結晶”だ。これを持っていれば魔法の力が手に入る。」


「ど、どうすれば魔法の力が…?」


「その石を持ったまま、自分の想像する魔法の形を頭の中で思い浮かべるのだ。そうすれば魔結晶が姿を変えることだろう。」


「私が想像する魔法の形…。」


私はそっとアーテル様の体の傍まで近寄り、転がっていた魔結晶を手に取った。


「私の求める魔法の形は…。」


私は目を閉じて、自分の魔法の形を想像した。


「(私は過去の自分を変えたい。過去の弱い自分を断ち切るんだ。)」


その思いを感じ取ったのか私の掌にあった魔結晶はその姿を変えた。手の上の感覚が変わったのを確認すると、私はそっと目を開けた。


するとそこには、刃が氷でできていた鎌が出来上がっていた。


「これが、私の魔法の武器…?」


「そうだ。お主の気持ちが形となったものだ。恐らくその武器にはもう一つの使い方がありそうだが、それは追々練習あるのみだろうな。」


「もう一つの使い方…?」


私は首を傾げてアーテル様を見上げたが、アーテル様はそれ以上は答えてくれなかった。

私はそれが他人に縋ってばかりいる、ということなのだと悟り、私も答えを聞くのを辞めた。


「さて、もう一つ、お主に渡すものがある。このアーテルが流す雫だ。」


そういうとアーテル様の淡く紫色に光る瞳から、一つの雫が垂れた。

私は慌てて、武器の鎌を地面にそっと置くと垂れてきたアーテル様の涙を手で受け止めた。


「それは”竜の雫”。これから宝石将になるときに必要になるであろう、アイテムだ。他の都市の竜からもそれぞれもらうことになるであろう。」


「ありがとうございます、アーテル様。私、頑張って宝石将になります…!あ、あの、アーテル様は”破壊の竜”について何か知っていますか?」


「”破壊の竜”…。なぜそれを知っている。」


「あの、オーロラでアイリス女王様から夢の内容を聞きまして…。その夢の内容に”破壊の竜”が出てきたらしくて…。」


「そうか…。あの娘が”破壊の竜”の夢を見たか…。あの娘が見たのならそれは正夢になろう。”破壊の竜”は我ら七都市の七匹の竜の力が集まってこの世界に生まれ出でる存在だ。不甲斐ないが、我らの力を悪用した形だ。」


「七匹の竜の力が合わさった…。あの、アイリス様の夢では私がその”破壊の竜”と戦うらしいのですが…。」


「そうか。お主が救世主となるのか。今はその力はなくとも、いずれ”破壊の竜”を封印できる力を得ることができるであろう。」


「そうですか…。」


「まだ自信がないのも無理ない。これから少しずつでいい。自分の力を信じるのだ。」


「はい…!ありがとうございました、アーテル様!」


「これからも魔法の力を磨くといい。そして他人にばかり縋るのではなく、自分の力を信じて自分の力で前へ進むのだぞ。儂の教訓を忘れるでないぞ…。」


そういうとアーテル様の姿がきらきらと輝いて、私のその眩しさから目を閉じてしまった。

次に私が目を開けるとそこにはアーテル様はおらず、先ほどまで天気の良かった空間も消えていて、いつの間にか元の暗闇へと戻っていた。


「帰らなきゃ…。」


私は地面に転がったままの自分の新しい魔法の形である鎌を拾い上げた。すると、その鎌が淡く光り、その姿を変えた。

私の掌大の大きさになり、その鎌の形も変わっていた。鎌の氷の部分はなくなり、鎌の柄の部分だけが残った。


「うん、これならポーチに入る。」


私は腰にぶら下げているポーチに小さくなった鎌の柄の部分をしまった。

私はポーチから星の欠片が入ったランタンを取り出して、再び暗闇を照らし出した。


「えっと、私はどこから来たんだろ…。」


私がきょろきょろとしていると、星の欠片が淡く光り、地面に光の道筋を示した。


「えっと、この道筋に沿って行けばいいのかな…」


私はなぜ星の欠片がそういう風に道筋を示してくれたのか分からなかったが、私は幸運だと考えてその道筋通りに進んでいた。


すると、いつの間にか闇からずぶりと抜け出すことができた。


「わ…。もう抜けたのか…。」


私は振り返って闇の都市の逆目を見た。


「イヴ!」


「あ、パッシアさん…!」


私が闇の都市から出てきたのと同時くらいに少し離れたところからパッシアさんが駆け寄ってきた。

そして、私の体に抱き着いた。


「わっ!ぱ、パッシアさんどうしたんですか…?」


「あまりにも遅いから心配したのよ!そ、それで魔結晶は?魔法は?」


「この闇の都市の守護竜のアーテル様に出会うことができましたし、魔結晶も授かって、私にも魔法の力が発現しました!」


「そうなのね!よかった~!それで、魔法を使う時の武器は?」


「こ、これです。」


「ん?これ?」


私は腰のポーチから手のひら大になった鎌の柄をパッシアさんに見せるとパッシアさんは首を傾げた。


「よっ…と。」


私は魔力をその鎌の柄に集まるように意識を集中させると、鎌はぐんぐん大きくなり、刃の部分も氷が生み出されて、”ジャキン!”と音がした。


「す、すごいじゃない!氷属性の魔法ね!」


「氷属性の魔法だから、氷の鎌なんですね…。雪の大地で住んでいたからでしょうか?」


「それもあるからもね。それにしてもよかったわ。魔法が発現できて。これで空も飛べるわよ!」


「あ、そうですね。でも、箒が…」


魔法も発現したことだし、一旦オーロラに戻ってミーランさんのお店で旅の準備をしましょう。」


「はい!」


私は元気よく返事をすると、鎌を小さくしてポーチにしまった。


「で、私はどうやって飛べば…?」


「そういえば説明してなかったわね。自分の頭の中で飛ぶイメージをして。自分の体の周りの風を感じて。そうすれば体が浮くかと思うわ。」


「やってみます!」


私は目を閉じて飛ぶイメージをしてみた。

すると、僅かだが自分の体がふわりと浮く感じがした。


「その調子よ!もう少しイメージを固めて!最後に”ウォラーレ!”って頭の中で唱えて!」


私は言われた通りにもう少し頭の中のイメージを固めると、身体の浮遊感は強くなり、最後にこう頭の中で唱えた。


「(ウォラーレ!)」


それと同時に私は目を開けると、いつの間にか地面から数メートル離れていた。


「やった!パッシアさん、できました!」


「上出来よ、イヴ!最初にしては上手い方だわ!」


そういってパッシアさんはすぐに私の隣まで飛んで上がってきた。


「パッシアさんはもう飛び立つまでのスピードが速いですね…。私なんかまだ、数秒かかりますよ…。」


「そんなの直ぐに慣れるわよ!最終的にはイメージの段階を省いて。”ウォラーレ”の呪文だけ唱えれば飛び立つことができるわよ。」


「私もそこまでできるよう、頑張ります!」


「なんかアーテル様の元から帰ってきてから、イヴが頼もしく見えるわ…。」


「自分の力で頑張ることをアーテル様と約束したので!」


私はそういって数年ぶりににかっと笑うと、パッシアさんは目を見開いた。


「なんだ、ちゃんと笑えるじゃない…、さ!装備を整えにオーロラに戻りましょう!行きと同じようにオーロラの検問所の手前まで飛んでからオーロラに入りましょ。」


「はい!」

そういって私とパッシアさんはオーロラに向けて飛び立った。


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