第八話 闇の試練
風の都市とだけあって、空を飛んでいると追い風にあったり、逆に向かい風にさらされたりと、飛行するのが難しかった。
私が、もたもたしている間、パッシアさんはちゃんと前で待っていてくれて、パッシアさんの箒の乗りこなしには私も見習わなければならないな、と思った。
風の都市ウェントゥスに入って飛び続けて数分、目の前に広大な広さの草原が目に入り、そしてその奥に何もかもを飲み込んでしまいそうな真っ黒な障壁みたいなものが見えた。
「あれが闇の都市ですか…?」
「そうよ。ウェントゥスとの境目から急に暗くなるからね…。ギリギリまで近くに寄りましょ。」
そういうとパッシアさんは飛行スピードを少しだけ上げた。私も置いていかれないように、慌ててついて行った。
「ここらへんで降りるわよ!」
「はい!」
パッシアさんがまず先に、地上へと降りると、私も体を地面と垂直になるように傾け、次第に地面へと近付いていった。
「ふぅ…。」
「だいぶ、着地するのが上手くなったわね。魔法が使えるようになってからは箒に乗る人が多いけど、そのまま飛行魔法を自分の身体に掛けて、生身で飛ぶのもアリだと思うわ。」
「箒の方が楽そうです…。」
「あはは!確かに操作は少し楽かもね。」
けらけらと笑うパッシアさんに私も苦笑いを溢した。すると、笑っていた顔を引き締めて、パッシアさんは私を見つめた。
「イヴ。これからあなたには闇の都市に入ってもらうわ。でも、アイリス様の命令で試練を受ける者に同伴するのは禁止なの。だから、ここから先はイヴ、あなた一人で行ってもらうことになるわ。心の準備は大丈夫?あ、そろそろ星の欠片をランタンに入れて準備をして。ここまでくれば盗賊の心配もないし。」
「わ、分かりました!」
私はパッシアさんに言われた通り、ミーランさんから買った星の欠片が入った小箱を取り出した。そして、同時にランタンも取り出して、本来火をつける場所に星の欠片をコロンと置いた。
「星の欠片は全部でいくつ?」
「えっと、三つです。」
「それじゃあ、闇の都市に入ってすぐに一個、星の欠片を落としておくといいわ。帰るときの目印になるの。」
「分かりました!それじゃあ…、行ってきます!」
「ん、頑張るのよ!」
私はパッシアさんに背中を押されて、闇の都市、オプスクーリタースへと入った。
手を伸ばして、その障壁のようにある闇の中に手を入れると、ずぶりと飲み込まれる感覚があった。
私はその感覚にぞわぞわとしながらも、意を決して都市の中に足を踏み入れた。
闇の都市に入ってみると、そこは一面の闇、だった。
流石というべきか、周りを見渡してみても何も見えず、自分の手でさえも見えないほどだった。だが、事前に星の欠片をランタンに入れていたおかげか、自分の足元は薄暗く照らされていた。
「(ここからどうやって闇の竜を探したらいいんだろ…)」
私はとりあえず進んだ方がいいかと思い、一歩を踏み出した。
すると、闇のどこからともなく、竜のぐるる…、と喉を鳴らす音が聞こえてきた。
「!?」
私はバッと後ろを振り返ってみたが、そこには闇しかなく、竜の姿など見えなかった。
星の欠片のおかげでほんの先まで見ることができるが、竜の喉を鳴らす音の発するところは突き止めることができずにいた。
「(この闇の中に絶対に竜はいる…。でも、姿が見えない…。)」
どれくらい時間が経ったかもわからず、一向に竜への手がかりが見つけられないまま、私は闇の中を彷徨った。
次第に、この闇に助長されるように、不安が襲ってきた。
「(だめだめ!気を強く持たなきゃ!じゃないと、竜の思うツボ…!)」
私はぶんぶんと頭を左右に振って、不安を払拭しようとしたが、心のどこかで不安が居座ってしまい、私は徐々に不安に飲まれていってしまった。
「(このまま竜も見つからずにずっと闇の中を彷徨うの…?そんなの嫌だ…。でも、どうやったら竜が…)」
私が悶々と唸っていると、ふと私の後ろからぞわっとするような殺気がした。
バッと後ろを振り返ってみると、そこは闇しか見えなくて、先ほどの殺気も気のせいかと思ったが、星の欠片のランタンを殺気がした方を照らすと、そこには灰色の人影が見えた。
「(人…?でも、ここには人は住めないって…)」
私が疑問を抱えていると、突如その人影は私に襲い掛かってきた。
「わっ!」
私は寸前のところで攻撃を避け、灰色の人影から距離を少しだけ取った。あまり距離が離れすぎると、姿を視認できなくなるからだ。
「あなた、誰!?」
私が問いかけても、人影は喋ることなく、私に向かってきた。
「(会話ができない…!?何者なの、この人…!)」
私は次から次へと繰り出される人影からの攻撃を避けることしかできなかった。
が、私は攻撃を避けている間に、一つ気付いた。
「(この人…、私!?)」
確証を持つために攻撃を受けることを覚悟の上で、私は人影に向かってランタンを照らした。
すると、そこには灰色の身体に目が赤く光る私そっくりな人がいた。
「うっ…!」
ランタンで照らして、姿を確認したせいか、私は動きが止まってしまい、灰色の私から重いパンチを食らってしまった。
「(どうして、私が…!?)」
「その答え、儂が答えてやろう。」
「!?」
突如頭の中に響いてきたのは、渋い声だった。
「だ、誰!?」
私は姿の見えない闇の中で灰色の私と闘いながら、声の主を探った。
「儂はこの都市を守護する竜、アーテル。そなたは何のためにここを訪れた。」
「(アーテル!?ここを守護する竜が頭の中に話しかけてきた!)わ、私は、魔結晶とあなたの竜の鱗をもらうために来たのです!」
「ほう…。お主も魔結晶目当てか。ならば簡単には授けることなどできぬ。まずはその目の前の自分自身をどうにかすることだな。」
「待って!どうやってこの私を倒せばいいんですか!?」
「何もかも答えを聞こうとするでない。そこが未熟なのだ。そんな未熟な自分とどうやって戦うのか、見物だな…。」
そういうと竜の声は途絶えてしまった。
「(目の前のこの人は私自身だと言っていた。あと、”未熟な”とも言っていた…。ただただ戦って倒そうとするだけじゃ、今の私の力じゃ倒す術はない…。精神的な面で解決しないといけないかも…。認めるんだ、未熟な私を…、何もかも、全部答えを聞こうとするんじゃない。自分で答えを見つけるんだ!)」
私はそう考えつくと、私に向かって振りかざしてきた灰色のもう一人の自分の拳を受け止めた。
「あなたは私、私はあなた。それは間違っていない。私はまだ未熟で何も知らない。この世界のこと、魔法のこと、他の人と関わろうとしてこなかった、罰がこれ…。なんでもかんでも、逃げ回っていた私。これからは宝石将となるために向き合わなきゃいけない。だから、私は未熟な状態からスタートするんだ。大丈夫、私は未熟なままでいい。これから変わっていけばいい。」
そこまで私が言うと、灰色のもう一人の私はさらさらと砂のように崩れていった。
すると同時に、いきなり闇が晴れ、空は青空と雲が流れ、地面は軽く水が張っていて、空が鏡のように映し出されていた。
灰色のもう一人の自分の残骸である砂を手に取ると、私はポーチから空き袋を取り出して、そこに砂を入れた。
「これで未熟な私は一緒。一緒に変わるんだ。」
そういって私は立ち上がった。
「これは一体…?」
「ほほう、よく自分の欠点を見つめたな。分かっているではないか。」
突如私の後ろの方から、先ほど脳内に語り掛けてきた声と同じ声がした。
私は慌てて後ろを振り向くとそこには大きな竜が鎮座していた。
「よくぞ、儂の試練、”闇の試練”を乗り越えた。我が名はアーテル。ここ、闇の都市の守護竜である。」




