第四十九話 大切な人
私たちは破壊の竜をどうにかするためにまずは安全な場所に避難しているという、女王アイリス様に会うために、避難を誘導したというトパーズさんの案内の元、燃え盛る城下町を駆け抜けた。
着いたのは、火の手が然程襲ってきていない、街の南東部に来ていた。そこには火の手に怯える街の人たちと共に毅然とした態度で魔導士たちに指示を出している我らが主君であるアイリス様がいた。
「アイリス様!」
「まぁ!トパーズもガーネットも無事でしたのね。良かった…。イヴも一緒のようだけれど…。」
アイリス様も私の様子がおかしいことを悟ったようで、少し首を傾げた。
「アイリス様。状況は。」
「今はここまで火の手は回らないように水属性の魔法を扱える魔導士たちにお願いして、消火活動をしてもらっています。そちらの状況は?」
「城の地下にて、破壊の竜の復活を確認しました。抗戦しましたが、竜の光線を受けてしまい、皆怪我を負いました。今は城の地下で回復しています。」
「そうですか…。遂に復活してしまったのですね…。」
「アイリス様。”破壊の竜”の封印方法は…?」
「オーロラの代々の王族が受け継ぐ、血による封印です。他の竜の力も借りて、破壊の竜の体力を削りたいところですが、他の都市の魔道士たちによると、守護竜が消えてしまったそうです。恐らく破壊の竜が復活する際にあらゆる方角から伸びた光の柱は守護竜の力でしょう。守護竜の力を合わせて破壊の竜が生まれたとも言えるかと。」
「じゃあ、破壊の竜の体力を削るのは自力でやるしかない、ということですね。」
「そうなります…。今消火に当たっていない魔導士たちを招集します。その魔導士たちと共に破壊の竜の体力を削ることに力を注いでください。私もその場に同行します。自分の身は自分で守りますので。宝石将も召集できそうなら、全員呼び寄せます。」
そういって、いつも閉じている目を開けて指示をした、アイリス様の目にはゆらりと輝く金色の瞳があった。
「イヴ。あなたも一緒に戦ってもらいます。」
「私は…ッ、皆を守ることができなかったので…私なんかが力になれることなど…」
私は再びネガティブになってしまい俯いていると、私の両肩に誰かの手が乗った。そして、ゆっくりと抱き締められた。
「??」
私はなぜ抱き締められているのか分からないまま、きょとんとしていると、私を抱き締めた――パッシアさんの顔を見ようと、少し離れようとした。だが、パッシアさんは離す気などないようで、より一層抱き締める力を込めた。
「大丈夫。大丈夫よ、イヴ。あなたの力は皆を守ることができる。あなたは今まで自分の力で試練を乗り越えて、色んな人を救ってきたじゃない。それをもう忘れたの?」
「それは…ッ、忘れていません…でも、さっき私は宝石将の皆さんを助けることができなかった…。それは今まで積み上げてきたものを崩したことになります…。私には何の役も立てないんです…。」
「イヴ、私の目を見て。」
私は俯いて話をしていたため、パッシアさんの目線に合わせて顔を上げた。
パッシアさんの瞳はゆらゆらと金色に輝いていた。
私とパッシアさんが見つめ合っていると、パッシアさんはゆっくりと口を開いた。
「イヴ。あなたは私と出会ってから日常が変わったわよね?いつものように氷柱を取って過ごすだけじゃなくなった。あの時、雪狼に襲われている私を助けたのはなぜ?私のことを放っておけなかったのよね?イヴはそんな風に見知らぬ人のことを放っておけるほど冷酷な人じゃないでしょう?私にはそれが分かる。一緒に旅をしてきたから。
アーテル様のところでは、自分の未熟さを知って、ルーフス様のところでは人の愛の形を知って、カエルレウム様のところでは自分の弱さを知って、ウィリディス様のところでは人に教える難しさを知って、フラーウムのところでは自分の新たな力を得て…。そしてこの間アルクス様のところで気を遣う大切さを知った。
イヴは七匹の竜と出会って色んなことを知って、そして変わったわ。変わらないイヴの優しさもあるけどね。その変化は悪いことじゃない、むしろ良いことよ。イヴはその変化を感じてない?」
パッシアさんに言われて私は雪の大地でただただ氷柱を取っていた日常と、パッシアさんと出会ってからの日々を思い返した。沢山傷付いて沢山知って、沢山笑った。私にはその日々がきらきらと輝いていて、その日々の積み重ねが今の自分を作り上げていることを知った。
「私は…変わりました。あの氷柱を取っているだけの私とは違う。今はパッシアさんや他の宝石将の皆さんと同じように一人の魔道士になりました。まだまだ一人前を名乗るには早いかもしれません。でも、私は確実に変わっている…。それを知れただけでもそれは私の中では大きな変化です。」
「そうよね。イヴは変わった。あの日私と出会ってから。ちゃんと魔法も使えて強くなれてる。変わることができてる。ちゃんと皆を守る力が生まれている。何もせずに救わないよりも、足掻いて救った方がいいじゃない。ねぇ、イヴ。あの日私を助けてくれたみたいに今度は皆を助けましょう?」
「~ッ」
パッシアさんにそう優しく諭されて私は涙を堪えることができなかった。ぼろぼろと泣き始めた私をパッシアさんは優しく抱きしめて、ぽんぽんと背中を叩いた。
「パッシアさん…、私はあなたの横に立ってもいいんですか?皆を守る力がありますか?」
「イヴ。大丈夫、皆あなたの力を欲しがっている。私と一緒に戦ってくれるわね?」
「ッはい!」
私は心の中を巣くっていた黒いネガティブな気持ちが吹き飛んだ気がした。
「ふぅ…、やっぱり破壊の竜の影響で、イヴはネガティブになっていたのね。一番に私たちを守ってくれたから、破壊の竜の攻撃を受けたから。」
「破壊の竜の影響だったんですか…。なんか黒いモヤモヤしたものが心の中に生まれてしまったのは私の弱さなのかと…。」
「破壊の竜は人の弱みに漬け込むのよ。でも、もう大丈夫でしょ?」
「はい…!パッシアさん、ありがとうございました…。お騒がせして…。」
パッシアさんが私を諭している間にアイリス様は他の魔導士たちを集結させ、宝石将の人たちも集まっていた。
私は集まって私とパッシアさんのやりとりを終わるまで待っていてもらったことに謝罪の意を込めて、一礼をするとアイリス様はキャンディポッドの付いたロッドをコンと地面を叩いた。
「今こそ魔導士の力を集結して破壊の竜を封印するときです。皆、私についてきてください。」
「はい!!」
皆の返事を聞くと、アイリス様はにっこりと笑って、飛行魔法を掛けてふわりと浮かんだ。他の人たちも各々箒などを使って飛行魔法をかけた。皆がふわりと浮かぶとアイリス様は城の方へと飛んで行った。私たちもそれを追うように火の海の街の上空を飛んだ。
ふと下を見ると、私が城の地下で戦う前に助けた小さな子供とその母親がこちらに手を振っていた。
私はちゃんと人の命を救うことができたんだと、実感した。




