第四十八話 破壊の竜の影響
トパーズさんとガーネットさん、それに数名の宝石将の誰もが迂闊に動けなかった。
それほど目の前にいる、”破壊の竜”の殺気が凄まじく、身を凍らせるほどだと痛感した。
「トパーズは後方で回復に専念、イヴは破壊の竜の攻撃を防ぐのに集中して。他の皆は私に続いて攻撃を。」
「了解!」
宝石の中でもガーネットさんはリーダー核なのか、ガーネットさんの指示に皆文句を言うこともなく、その指示通りに動いた。
まずは破壊の竜を外に出さないこと。そして体力を削り、破壊の竜の核となっているアルブス様本来の力を引き出すこと。それが先決とされた。
「行くわよ!」
ガーネットさんの掛け声と共に宝石商の面々は一斉に破壊の竜に魔法で攻撃をした。ある方は水魔法で攻撃したり、ある方はクロ―で破壊の竜に直接攻撃をしていた。多種多様な攻撃で私たちは少しずつ破壊の竜の体力を削っていった。
私は他の宝石将の方が破壊の竜に攻撃されそうになったら、その間に入り込み、盾でその攻撃を弾く役割を担った。
時々ローテンションでトパーズさんの元へ行き、魔力の回復や傷の回復するために抜けることはあったが、私たちは初めてにしては中々いい連係プレーを取っていたのではないだろうか。
破壊の竜の体力もだいぶ削れてきたであろう、その瞬間破壊の竜は”ぐるぅあああ!!!”と雄叫びを上げた。
すると、穴が開いている上空から再び光の柱が飛び出した。
「な、なに!?」
眼鏡をかけた宝石商の男性が冷静さを欠いたような焦りに満ちた声で空を見上げた。
光の柱は先ほどと同じようにあらゆる方角から伸びてきて、破壊の竜の上空に集まると、竜めがけて光が降ってきた。
「――ッ!」
余りの眩しさに盾で光を遮りながら状況を確認した。すると、破壊の竜に攻撃した時にできたであろう傷が消えていて、私たちは先ほどの光の柱が魔力であり、それで破壊の竜は回復したのだと、気付いた。
「また一からじゃない!」
クロ―を身に付けた背の低い宝石将の女の子が地団駄を踏んだ。すると破壊の竜が口を大きく開けて私たちに向けて何か攻撃をしようと魔力を溜め始めた。
「まずい!避難!」
「間に合わないわ!」
「私が!!」
ガーネットさんが避難を指示するも、皆がポーチから箒を取り出して飛びあがるまでに時間がかかってしまうため、私が皆の前に出て盾を展開した。
「イヴ!!」
「ガーネット、危ないわ!」
私を守ろうと前に出ようとするガーネットさんをトパーズさんが引き止めると、その瞬間、破壊の竜の口から光線が吐き出された。
ドガァアアアン!!
光線は魔力を凝縮したもので私は盾で防いだが、あまりの衝撃の強さに盾を構えていられなくなり、私は後ろで守るはずだった宝石商の皆を巻き込んで吹き飛ばされてしまった。
シュウウウウ……ガラガラ…
辺りは光線で瓦礫が溶け、悲惨な状態になっていた。
「ケホッ…」
瓦礫を持ち上げて私は起き上がった。私の服はボロボロになり、光線が発射される前に展開していたはずの武器も元の鎌の柄に戻ってしまっていた。
私はぼーっとする頭に手を当てると、手にぬるっとした感覚があった。
見ると、手には血がべっとりとついていて、どうりで頭がぼーっとするわけだ、と一人で納得してしまった。
私がどれくらい意識を失っていたか分からないが、いつの間にか破壊の竜は私たちの目の前からいなくなっていて、城の地下から出て行ってしまったのだろう。最悪の状況になってしまったと、私は頭の隅でそんなことをぼんやりと考えていた。
すると、私の傍から瓦礫がボロボロと音を立てて動いた。瓦礫の下から出てきたのは、パッシアさんだった。彼女の服もボロボロで所々肌が見えてしまっていた。
「パッシアさん…。」
「…ッ、イヴ!大丈夫…って頭から血が出てるじゃない!」
「いいんです…、このままで…。」
私の自分の心の中に何か違和感が生まれた。
何故か自分の今の怪我などどうでもいいと思うようになっていた。何もかもやる気がみなぎってこなかった。破壊の竜をどうにかしなければいけない、などと思わなくなった。
無気力になってしまった私にパッシアさんも何か違和感を感じたようで私の傍に駆け寄ってくると、私の肩を持ってゆさゆさと軽く揺さぶった。
「イヴ、どうしたの!いつものイヴじゃないわ!トパーズに魔力を回復して…」
「もういいんです!」
「イヴ…」
私が初めて大声を上げたことにパッシアさんはびっくりしていたが、私は頭に血が上って行った。
「私の力では皆を守れない…、皆に怪我をさせてしまった…。こんな私が宝石将になっても誰も助けられないんです…。私が守ろうとしてもそれは無力なんです!私の生きる意味なんて無いんです…ッ!こんな…こんな私なんて…さっきの光線で死ねばよかったんです!」
パン!
私は今自分に何が起きたのか認識できなかった。
「イヴ。それ以上は喋っちゃダメ。今はここから移動するわ。黙ってついてきなさい。」
私は漸く自分がパッシアさんに頬を叩かれたのだと気付いた。
パッシアさんの顔をゆっくりと見ると、今にも泣きそうな切ない表情をしていた。私はパッシアさんに言われた通りに黙ったまま、他の場所で瓦礫に埋もれいる宝石将の面々の救助をした。
まずはトパーズさんを探した。トパーズさんは後方にいたこともあり、私とパッシアさんがいた場所から一番遠いところで意識が混濁していた。
「トパーズ…。これを飲んで。」
パッシアさんはポーチから魔力回復の小瓶を取り出して、意識を失っているトパーズさんの口に瓶の中身を流し込んだ。こくりと飲み込んだのを確認すると、パッシアさんは傍に倒れていた他の宝石将の人たちも助けて行った。
自分も怪我をしているのに、自分の怪我を治す前に他の宝石将の面々を助けていく姿に私は理解ができなかった。自分の怪我を最優先した方がいいのに…。とはいっても先ほどパッシアさんから喋るなと言われてしまったので私はただただパッシアさんが他の宝石将の人たちを助ける姿を見守るしかなかった。
暫くすると、一緒に戦っていた宝石将全員を助け出すことに成功した。一番最初に助けたトパーズさんはいつの間にか意識を取り戻していて、自分で作ったであろう、回復薬の小瓶をぐびぐびと飲んでいた。
「トパーズ。私たちは一度アイリス様に会う必要があるわ。他の守護竜の状況も確認したいから。アイリス様のところへ連れて行って。」
「分かったわ。案内するからついてきて。」
そういうとパッシアさんは私の手を引いて、トパーズさんの後を追いかけた。
城の地下から箒で飛びあがり、外に出ると、そこは悲惨なものだった。
城の地下に降りる前に私が鎮火したはずの家屋の炎が再び黒煙と共に燃え盛っていて、私たちはその様子に唖然とした。
「こうなったのも…、私が盾で防ぎきれなかったからですよね…。破壊の竜を止めることができなかったから…。」
「イヴ…。」
「………。」
私が再び落ち込むとトパーズさんは心配するかのように私を見つめた。。パッシアさんは私の手をぎゅっと強く握った。
「トパーズ。アイリス様の元へ行きましょう。」
「でも、イヴが…。」
「いいの。」
「…分かったわ。」
私はまた走り出したパッシアさんに引っ張られる形で何とか足を動かした。本当は足も動かしたくないのだが、パッシアさんに引っ張られている以上、足を動かさなければ、引きずられる形になってしまうので、私は仕方なく足を動かした。




