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虹の魔道士Ⅰ  作者: あず
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第四十七話 アルクスの鱗と不穏

私たちが地下に下りて行くと、そこにはうっすらと輝く魔力の泉があった。

そこを通り過ぎ、更にその奥になる部屋へと進んだ。そこに明かりはなく、私たちが部屋に入ったことで、松明が灯されるところはどこの竜の間でも同じなのだと思った。


部屋の松明が灯ると、そこにいる竜の姿が露わになった。松明に照らされてきらきらと色んな色に光る鱗にぎょろりと動く金色の瞳。ぐるる…と低い唸り声を上げた。


「お主らは…竜巡りをしていた魔導士だな?」


「竜にはなんでもお見通しなんですよね。アルブス様から竜の使える魔法のことを少しだけですが、教えてもらいました。」


「そうか…、ならば話は早いな。お主の数々の試練を成し遂げる姿、しかと見届けた。儂の鱗を授けてやろう。もっと近くへ。」


私はアルクス様の言う通りに、更に一歩近づいた。すると、アルクス様は自身の爪でカリカリと体を掻くと、ぽろっと鱗が剥がれ落ちた。あまりにもあっさりと剥がれ落ちてしまったので、私はポカーンと口を開けて唖然としてしまった。


「ほれ、そこに落ちた鱗を取りなさい。それが竜巡りの試練を全て達したものに渡す儂の鱗だ。」


「あ、ありがとうございます…。こんなにあっさりと鱗が取れちゃうなんて…。」


「儂は脱皮も他の竜と比べて短い期間でするからな。鱗の一枚や二枚どうってことはない。」


「そうなんですね…。」


私はそう言いつつも、手に取った虹色に輝く鱗を見て、未だに信じられなかった。私がついに宝石将と名乗ってもいいのだと。


「お主にはまだやることがあるだろう?さぁ、行くのだ。」


「はい!」


私は鱗をぎゅっと握りしめ、神殿を後にした。その日は以前にも泊まったことのある、特製ジュースが美味しい宿屋で休むことにした。


私はお風呂に入った後、自分のポーチからそれぞれの竜から授かった雫と最後にアルクス様からもらった鱗をまじまじと見つめた。


「今でも信じられない?」


そう声を掛けてきたのは、ここまで一緒に私と一緒に竜巡りに付き合ってくれて、私のことを見守ってくれていたパッシアさんだった。パッシアさんは私の後にお風呂に入ったので、髪の毛はしっとりと濡れており、色っぽさが際立っていた。


「はい…。私、宝石将になるんですね…。」


「私と一緒に旅をしたからね。ここまでよく頑張ったよ。」


「ありがとうございます、パッシアさんにも手伝ってもらっちゃいましたね…。」


「私の手助けなんて、ほんと些細なことじゃない。イヴは自分の力でここまで来たんだからさ。大丈夫よ。」


「そうですかね…。私は未熟です。アーテル様にも言われたことですし…。」


「アーテル様にそういわれてから、イヴは変われたと思うわよ?近くにいた私が言うんだから、間違いないわよ!それに、誰しも最初は未熟なものよ。それを受け入れるんじゃなかったの?」


「そう…でしたね。アーテル様に言われたもう一つのことを忘れちゃうなんて。私もこれからですよね!」


「そうよ、その意気!」


私がぐっと力こぶを付けるように腕を曲げると、パッシアさんは笑って私の肩を優しくぽんぽんと叩いてくれた。それは”力みすぎなくていいよ”と言っているようだった。


パッシアさんに励ましてもらい、その日はもうベッドに入って寝ることにした。明日は午前から女王様に謁見し、ギルドハウスに行って宝石将の登録をしてもらう。


私は早く寝ようと、目を閉じた。



私が寝てからどれくらい経っただろうか、不意に頭の中で声がした。


『……ませ…。…さませ。……目を覚ませ。イヴ、目を覚ませ。』


ようやく声がはっきりと聞こえた時、私はバッと起き上がった。すると頭の中の声ははっきりとした声で私に話しかけてきた。こんなことができるのは、この国でも僅かしかいない。


「その声は…、アルクス様…?」


『よく分ったな。そうだ、城の地下にいるアルクスだ。ちょっと話したいことがあってな。』


「なんでしょう…?」


私が勢いよく起き上がったことや、一人で話していることから、隣で寝ていたパッシアさんも起こしてしまったようだ。


『それがな…。なんだか儂の体の中の負のエネルギーが………。』


突如。アルクス様の声が途切れたな、と思ったその瞬間。私の体をぞわぞわっとした殺気のようなものが駆け巡った。


「パッシアさん…!今のって…!」


「ええ…、イヴも感じたのね。これは…もしかして…。」


私が起きたばかりのパッシアさんに先ほどの感覚を教えようとしたが、それはパッシアさんも感じ取ったみたいだった。すると、街の方から”きゃーッ!”という悲鳴が聞こえてきた。さらには焦げ臭い匂いまでもしたため、私とパッシアさんは急いで窓を開けて現状を確認しようとした。


するとそこは火の海だった。一瞬にして業火の海と化したオーロラの街に私が呆然としていると、パッシアさんはすぐさま寝間着からいつもの服に着替え始めた。


「イヴも着替えて。呆然としている場合じゃないわ。私たちは他の宝石将といち早く合流して女王様の安否の確認、そして街の人たちの避難誘導をするわよ。」


「は、はい!」


私は茫然として立ち尽くしていた足に気合を入れるようにバシバシと叩くと、急いで着替えに入った。



私も着替え終わると、パッシアさんはそれを見て頷いた。まずは他の宝石将との合流が最優先だった。


私は他の宝石将でいうと、初めて女王アイリス様に謁見した時に喋っていた二人と、マティさんしか知らない。私にはまだまだ知ることが沢山あるのだ。


パッシアさんは小さな水晶を見ながら、火の海と化した街の中を駆けた。水晶の向こうの相手はマティさんのようだった。


「トパーズ!今どこ!?」


『城の中よ!女王様も無事よ。ガーネットは?』


「私はイヴと一緒よ。女王様と一緒なら安心したわ。そっちは任せてもいい?」


『ええ。大丈夫よ。街の住民の避難誘導お願い!』


「了解!イヴ、聞いてたわね。女王様の安否確認はできたし、街の住民の避難誘導に移るわ。その後はどうしてこうなったのか、原因究明に行くわよ。」


「はい!」


私とパッシアさんは二手に分かれて、逃げ惑う住民の避難誘導をした。避難場所は比較的損害の酷くない、街の北東アクアの街寄りの地区に避難することになった。火の海と化した街もアクアが近ければ、水の守護竜カエルレウム様の力でどうにかなると思ったからだ。


「押さないで、ゆっくりで大丈夫です!ゆっくりで行きましょう!」


私は声を張り上げながら、住民の避難を誘導し、数十分もすれば街の四分の三の避難が完了した。


私は他に逃げ遅れた住民がいないか、確認のために街の中を走った。

ごうごうと燃え上がる火の手を掻い潜りながら、私は”誰かいませんか!?”と声を掛けた。


すると、どこからか子供の泣き声が聞こえてきた。私は元々耳が良かったため、直ぐに声の出どころを掴んだ。そこには必死に消火活動にあたる、水魔法が使える魔導士たちの足元にうずくまる母親と思わしき姿があった。


「どういう状況ですか?」


「は、はい!この瓦礫の下に子供が取り残されていると、母親が申しておりまして…。今、水魔法が使える魔導士が消火に当たっているのですが、火が一向に消えなくて…!」


私は直ぐ様駆け寄り、近くで消火活動をしていた魔導士に今の状況を聞いた。


「私も微力ながら水魔法が使えます。子供は私が助けに行きますから、あなた方は消火活動を続けてください!」


「き、危険です!火の手が止まらないのに、家の中に行くのは…!」


「でも、子供が取り残されているのに、火が消されるのを待っていたら、子供は焼け死んでしまいます!ただでさえ、時間が経っています。小さい子供なら煙を吸って喉がやられている可能性があります。事は急を要します。私のことは噛まず、水魔法で援護をお願いします!」


「分かりました!ご武運を!」


私の説得が効いたのか、渋っていた魔導士はキリっと表情を変え、他の魔道士にも支持を出していた。この場で統率を図るのが彼でよかったと、私は思った。


「待っててね、今行くから!」


私は瓦礫がこれ以上崩れないよう慎重に入り口を探して、見つけた場所からゆっくりと家の中に侵入していった。


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