第四十三話 光の竜アルブス
光の先に進むとそこには白く輝く空間が広がっていた。
「わぁ…。」
今までの竜がいた空間暗くて、部屋に入った途端、辺りの松明が灯されていき、部屋が明るくなることがほとんどだった。だが、今回の竜は違った。白く輝く光の中に、その光にも負けないくらい銀色に輝く鱗を持った竜がいた。
「わたくしの部屋に人が入ってくるのは何年ぶりでしょうか…。ようこそお越しくださいました。小さな魔道士よ。」
「あなたが光の都市ルーメンの守護竜のアルブス様ですか…?あの、私宝石将になるための試練を…。」
「みなまで言う必要はありません。わたくしは分かっております。あなたがここへ来た理由もわかっています。わたくしの雫が欲しいんですよね…?」
「はい、そうです。それで試練は…。」
「そうですね…。では、少しわたくしのわがままに付き合っていただけますか?」
「わがまま…?」
私はアルブス様の言うわがままとは何なのか分からなくて、首を傾げた。
暫くして私はパッシアさんが待つ神殿の入り口へと戻った。
「あら、おかえり、イヴ。んで、今回の試練の内容は?」
「えっと、パッシアさんにも協力していただきたい内容なんです。」
「ん?」
パッシアさんは”なになに?”と首を傾げて、私の次の言葉を待った。
「えっと、ここの守護竜のアルブス様は闇の都市の守護竜、アーテル様と双子の兄弟らしいんです。それでアルブス様の試練というのは、そのアーテル様とお話がしたい、とのことでした。」
「アーテル様と?」
「はい。」
私は繰り返したパッシアさんの言葉に頷くと、先ほどのことを思い出した。
「アーテル様とお話がしたい…ですか?」
「ええ。それぞれ守護竜として都市を守るようになってから数百年…。私たちは会うこともできず、別れてしまいました。私はアーテルと久しぶりに話がしたいのです。どんな形であろうと。」
そう言ったアルブス様の言葉に私は少し心当たりがあり、”少し待っててください”と言って、こうしてパッシアさんの待つ神殿の入り口に戻ってきたのだ。
「んで、イヴの心当たりっていうのは?」
「パッシアさんが何回もしてるじゃないですか。水晶でのやり取りですよ。」
「ああ!その手があったわね。でも、アーテル様のところに行かないと…。」
「そこでパッシアさんの出番です。私はルーメンに残ってアルブス様と共に水晶を繋いでおきますから、パッシアさんはここから闇の都市のオプスクーリタースまで箒で向かってください。」
「私が行くのぉ!?」
「はい。それとも、また竜のお話相手になりますか?」
「いや、それはやめとく。私が行きます。」
「ふふ、分かりました。ルーメンを出る前から水晶を繋いで、ルーメンを出て記憶操作をされても、今回の目的だけは忘れないように私が声を掛けます。パッシアさんは全速力で闇の都市へと向かってください。」
「分かったわ。今回はイヴがついて来ないなら、私も久しぶりに本気を出して飛べるわね。」
「くれぐれも事故にだけは遭わないようにしてくださいね?」
「分かってるわよ!」
そう言ったパッシアさんは直ぐにルーメンの外に出ようとした。
「それじゃあ、私はアルブス様と話しながら待ってますので、パッシアさん、宜しくお願いしますね。」
「まっかせなさい!」
私たちは水晶でお互いを繋ぎ合い、それを確認するとパッシアさんは早速街の外へと向かった。
私はパッシアさんの箒で飛ぶ速度の全速力を知らないが、パッシアさんが本気を出せば、オプスクーリタースまでの道のりなど、ほんの数時間で着くだろう、と考えた。私はその間、アルブス様の話し相手となることを選んだ。今まで私の試練の最中に意識を失うことが多く、パッシアさんに竜の話し相手になってもらうことが多々あったため、今度は私が話し相手となり、竜の暇を潰してあげようと思ったのだ。
「パッシアさん、無事都市を出られましたか?」
「ああ、イヴ?どうしたの?」
パッシアさんは予想通り、光の都市ルーメンを出ると、竜の力によって記憶操作が行われ、都市の中で起こったことを忘れてしまっていた。私は無理に思い出させようとするのではなく、用件だけを伝えることにした。
「パッシアさん、これから闇の都市、オプスクーリタースへ向かってください。全速力で。詳しいことは着いたらお話しします。オプスクーリタースに着いても、この水晶の魔法は切らないでください。」
「分かったわ。じゃあ、今から向かうわね。」
そう言ったパッシアさんは水晶をポーチにしまったのか、水晶の画面は真っ暗になった。これでも魔法が繋がっていれば会話はできる。パッシアさんが出発したのを見計らうと私はアルブス様の元へ向かった。私も水晶の魔法は切らずポーチにしまい、アルブス様の待つ光の部屋に入った。
「あら、あなたは…先ほどの…。」
「はい。イヴと言います。アルブス様、あなたの悩みを解決します。もう少し時間がかかるので、私でよければお話相手になりますよ。」
「え…、アーテルと話ができるのですか?ありがとうございます…、こんな老いた竜の話し相手にまでなってくれて感謝します。さて、何から話しましょうか…。」
「ふふ、何でもいいですよ。」
「では…、わたくしとアーテルの小さい頃のお話を…」
そういって話し始めたアルブス様はよほど楽しいのか、尻尾を時折、振りながらお話をしてくださった。アルブス様の話は尽きることなく、あっという間に時間は過ぎて行った。




