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虹の魔道士Ⅰ  作者: あず
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第四十話 フラーウムの雫

私は目を覚ますと、そこは雪の大地の小屋の見慣れた木の天井…ではなく、どこかの宿屋の部屋のようだった。


「あ、フラーウム、イヴが目を覚ましたみたいよ!」


「えっ、本当かい!?是非姿を見せてよ!」


「フラーウム様、イヴは患者さんなんですから、あんまり騒ぎ立てないでください。ガーネットも。」


「「はーい…」」


随分と賑やかな空間に私は寝たまま、目をぱちくりとさせた。


「ごめんなさいね、うるさくて。イヴ、気分はどう?」


「マティさん…。あの、試練は…?あ、気分は大丈夫です。問題ないです。」


「試練のことはそこのガーネットと繋がってる水晶の先の竜が”待っている”って言ったわ。」


「えっ、じゃあ、パッシアさんやマティさんは試練の結果を聞いてないんですか?」


「ええ。私たちも気付いたら宿屋で横になってて…。宿屋の人に聞いてもいつ私たちが戻ってきたのか見てないから、分からないって言われて…。まぁ、恐らく竜の力かもしれないわね。」


「そうなんですか…。」


私は茫然としてポカーンとしてしまった。試練の最後のゴーレムを倒したことは何となく覚えているのだが…。なんだか大事な結果のことが気になってしまって、私はベッドを這うようにして出ると、パッシアさんのところまで近寄った。


「あ、フラーウム、イヴが来たわ。」


「あ、昨日ぶりだね~、君!いやぁ、最後の戦いは見物だった!」


「私たちがどれだけ苦労したと思ってんの!このバカ竜!」


「ぱ、パッシアさん、相手は竜ですよ…。”バカ”はダメですよ…。」


こそこそと私がそういうと、パッシアさんは”いいのよ”と開き直っていた。何故かパッシアさんはフラーウム様のことを呼び捨てにし、フラーウム様もそれを了承しているかのように、何も言って来なかった。私が寝ている間に二人は仲良くなったのだろうか。


「それで…私たちを宿屋に寝かせたのはフラーウム様なんですか?」


「まぁ、僕の力で君たちの宿屋を調べて、そこに転移させたよ。」


「「こわッ」」


「そんな引かないでよ。」


私とパッシアさんが引いていると、フラーウム様は悲しくなったのか泣き真似をした。


「それじゃあ、君も無事に目を覚ましたし、僕は神殿で待ってるよ。試練の結果気になるでしょ?」


「あ、はい…、それはまぁ…。」


「じゃあ、僕はこれにて!じゃーねー!」


そういうとフラーウム様の姿がぼやけ、やがて水晶は普通の水晶に戻ってしまった。


「イヴはご飯を食べて体力を回復してから、神殿に行くといいわ。今日はとりあえず安静ね。」


「はい…。」


私は早く試練の結果を知りたい気持ちを抑え込みながら、再びベッドに潜り込んだ。そして気付けば戦いの疲れからか、眠りに落ちていた。



翌日。私が目を覚ますと、そこにはぐっすり眠るパッシアさんとのんびり自分のグローブの手入れをしているマティさんがいた。


「おはようございます、マティさん。」


「おはよう、イヴ。調子はどう?」


「はい。昨日よりも楽になりました。たっぷり寝たからか、身体も軽くなりましたし。」


私はベッドから出て、その場でぴょんぴょんとジャンプして身軽さを伝えた。


「じゃあ、私と一緒に朝ごはんでも食べに行きましょうか。」


「あの、パッシアさんが起きるの待たなくていいんですか?まだ、七時半ですし…。」


「パッシアが寝坊するときは、とことんぎりぎりまで寝てるから、今日は起こさなくていいんじゃないかしら。昨日遅くまでまたあの竜と言い合いしてたからね。」


「そうなんですね…。フラーウム様とすっかり仲良くなってますね。」


「そりゃ人間に比べればすごく長命だけど、竜にしてはまだまだらしいの。それで人間に一番歳が近い竜としてフレンドリーになってるんじゃないかしら。パッシアもそれとなく話に付き合ってるけどね。」


「あ…、水の都市アクアの守護竜のカエルレウム様の試練の時も私が寝込んでいる間、パッシアさんはカエルレウム様とお話ししてたって言ってました。」


「パッシアは竜に好かれるのよ。上司を上司と思わないあの姉御肌にね。」


「それはあり得るかもです。」


私はマティさんと話しながら、宿屋の一階の食事処に行くために軽い準備をした。ポーチを持って、ポーチから櫛を取り出して。軽く梳かして私はマティさんに声を掛けた。


「マティさん、お待たせしました!」


「昨日から気になっているだろうし、ご飯を食べに行くついでにフラーウム様のところへ行ってくる?」


「あ、そうですね。ずっと試練の結果が気になってましたし。パッシアさんも寝ているでしょうから。」


「先にご飯を食べましょ。神殿の入口まで私がついて行くわ。」


「ありがとうございます。」


そういうと念のため、起きたパッシアさんに書き置きを残して私とマティさんは宿屋の一階で朝ごはんを食べた。

今朝はスクランブルエッグにカリカリに焼かれたベーコンとミニトマトのプレートにフレンチトーストがセットになったものだった。


腹ごしらえもしたところで私たちは早速フラーウム様の待つ神殿へと赴いた。神殿に入り、右の通路に入ると、直ぐ様松明が灯り、辺りの視界が明るくなった。


「やぁ。待ってたよ。試練の結果を聞きに来たんでしょ?」


「はい。最後のモンスターのゴーレムまで倒しましたけど…。その後の記憶がないので…。」


「ちょっと、君、もうちょっと前に出て。」


「?はい…」


私は急に指図され、おずおずとフラーウム様に近付くと、フラーウム様が自身の鼻先を私の方へ寄せた。


ぽたっという音と共に流れ落ちたそれは、間違いなくフラーウム様の雫で。私はそれを落とさないように反射的にそれを掬いあげた。


「あっぶな…。あの、ちゃんと落とすなら落とすって言ってください!」


私がぷんすかと怒ると、フラーウム様は反省の色もなく、”ははは”と笑った。


「ごめんごめん。でも、それで試練の結果がどうなのか分かったんじゃない?」


「………そういえばそうですね。ってことは合格ってことですか?」


「勿論。」


そういってフラーウム様はにっこりと微笑んだ。私はあれだけ頑張って倒した甲斐があったと、心の底から嬉しくなって、ぎゅっとフラーウム様の雫を抱き締めた。


「ありがとうございます、フラーウム様…!でも、あんな風な危険な試練は今後見直した方がいいかと思いますよ。」


「ははは、それ、昨日ガーネットにも言われたよ。でも、宝石将になるのにあれぐらいの強さがないときついよ?だから僕の試練は一段と難しくしてるんだよ。他の竜はみんな老いぼれだから精神的な攻撃をしてくるけど、僕は直接的な攻撃をしてるってわけ。」


「他の竜を”老いぼれ”呼ばわりするんですね…。」


「まぁ、それは秘密で。」


そういってフラーウム様は手でしーっというポーズを取った。

こうして、私は無事フラーウム様の試練を突破したのだった。


これで雫は残り一つとなった。


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