第三十九話 討伐
「パッシアさん、加勢します!」
「ありがとう、イヴ!」
私はマティさんの元で回復すると、前線で戦っているパッシアさんの援護をするため、ゴーレムの体に埋め込まれている鉱石を狙って弓矢を構えて、矢を放った。
私が放った矢はまたしても鉱石にクリーンヒットし、ゴーレムはそのダメージにより、後ろに尻餅をつく形で地面に倒れ込んだ。
その隙を逃すほど私たちは優しくない。私とパッシアさんは接近し、鉱石に直接鉱石を攻撃した。鉱石は固いので、私の鎌でもそう簡単には壊れず、なんとかパッシアさんと一緒に攻撃することで破壊することができた。
全部で五つある鉱石を三つ壊したところでゴーレムが再び立ち上がったので、私は後退した。
パッシアさんはまだ足元で攻撃を繰り返していた。すると、ただただ前進していただけのゴーレムに動きがあった。両手を組んで上に振り上げるモーションをした時、私は丁度弓矢を引き絞っているときで、直ぐには体制を変えることができなかった。
「(まずい…!)」
私がそう思っていると、私の目の前にいつもの心強い背中と、新しいけどどこか安心感のある背中が写り込んだ。
「二人とも…ッ!」
私がそう叫ぼうとした瞬間、ゴーレムの両手が降りおろされ、私を庇った二人に攻撃自体は当たらなかったが、後から来た衝撃波が直撃し、二人は私の横を通り過ぎ、吹き飛ばされた。
「パッシアさん!マティさん!」
私は慌てて、二人に駆け寄ると、二人は目を瞑っており、私はどうしたらいいか分からなくて、ひたすらおろおろとポーチを漁ってポーションを探した。
「イヴ、大丈夫よ…。今すぐゴーレムを倒しなさい…。私たちは自分で、回復するから…。」
「そんな!こんなに二人が重傷なのに放っておけません!」
私はとりあえず、ポーションを取り出すと、二人に分けて口に含ませた。ごくりと飲んだことを確認すると、私はひと安心した。
「イヴ…。あとは任せていいかしら…。」
「いいところは持って行っていいからね。」
「何言ってるんですか、パッシアさん…。ぐすっ、絶対倒します!」
私はぽろっと出た涙を拭い、鎌の柄を掴んで立ち上がった。
「(功績は後二つ…。だいぶこちらに近付いてる…。私たちの後ろはほぼ壁…。ここで仕留める!)」
私は武器を鎌に転換し、やったこともないが飛行魔法を自分自身にかけて、ふわりと空を飛ぶと、ひゅんっとゴーレムに近付き、鉱石を攻撃した。
「やっぱり固い…!」
あまりの固さに鎌を握っている手が痺れるほどだったが、これくらいで弱音を吐いていてた後ろで回復している二人を守ることはできない。
私はゴーレムの周りをくるくると回りながら、鉱石に着実に攻撃を当てていった。ゴーレムも私を目で追っていたが、目が回ったようで、ドスンと尻餅をついた。
「チャンス!」
私はこれが最後のチャンスだと思って、集中攻撃をした。鎌を何度もくるくると回して鉱石に攻撃していった。すると、残りの鉱石の内の一つがやっと壊れた。最後の一つとなったためか、ゴーレムも断末魔を上げるようになった。
そして攻撃パターンも変わってきて、ただ前進したり、両手を振り下ろしたりするだけでなく口からビームを放ってくるようになった。
私は後ろで回復しているであろう、二人に攻撃が当たらないように立ち回る必要があった。飛行魔法と氷属性の斬撃を繰り返しているからか、少し疲労感があったが、私は”まだできる!”と自分を鼓舞し、ひたすら飛び続け、鎌での攻撃の手を辞めることはしなかった。
だが、相手も少しは知能があるのか、私が頑なにそちらの方へ飛ぼうとしなかった、宝石将の二人の方へ顔を向けると、口を大きく開き、ビーム発射の準備をし始めた。
「ダメ!」
私は直ぐ様二人の目の前に立ち。ビームを受け止めるよう、鎌の柄を持ってくるくると回して、イメージをした。
「(二人を守れるような!そう、盾のように…!)」
私がそうイメージすると、くるくると回っていた鎌はやがて丸い盾に転換した。
私はそれを喜んでいる場合ではなく、直後発射されたビームを受け止めた。
「ぐっうぅ…!」
私は必死に足を踏ん張ってビームが終わるまで持ちこたえようとした。するとそこへ私の盾を持つ手の上に手が二つ重なった。
横を見ると、そこにはポーションとマティさんの回復も終わったのか、パッシアさんとマティさんがいた。
「踏ん張りなさい、イヴ!」
「あともう少し!」
「はい!はぁあああ!!」
私は二人が無事になったことに嬉しくなったが、直ぐに戦闘中だということを思い出して、ゴーレムのビームを跳ね返すのを試みた。
しっかり地面を踏みしめて、声を上げて盾をぐいっと前に押し出すと、ビームはびゅんっという音を立てて、発射されたはずのゴーレムの元へと戻っていった。
「やった!」
私の武器の盾がビームを跳ね返したことで、ゴーレムにもダメージが入ったようで、そいつは後ろに倒れ込んだ。
「畳みかけるよ!」
「はい!」
先陣を切っていったパッシアさんについて行き、私は再び武器を鎌に転換して、最後の一つの鉱石を攻撃した。すると、ひらひらと蝶が私の目の前を通り過ぎて行った。
「(ん…?なんか血みたいな真っ赤な超…)」
マティさんの魔法であることは分かったが、その蝶はななんだか不気味だった。その蝶が鉱石に止まると、ちりちりと蝶が消えると同時に鉱石ボロボロと崩れて行った。
「こ、これは…?」
「あー、もう遅いわよ…。しかも美味しいところ持っていったのはマティじゃない。」
「遅くなったことは謝るわ。でも、美味しいところはここだけじゃないと思うけど?」
そんな話をしていると、全ての弱点を突かれたゴーレムは立ち上がってじりじりと後ずさりをし始めた。
「逃げるのかしら?」
「さぁ?ま、それも許さないけどね。」
パッシアさんとマティさんがそんな呑気な話をしている中、私は飛行魔法の応用でジャンプ力を増すことでゴーレムの眼前に迫った。
「これで終わり!!」
私は思いっきり鎌を振り下ろして、ゴーレムを一刀両断した。
“ぐぁああ”という断末魔と共にゴーレムは全体的に崩れていった。こうして、私たちの試練は終了した。




