第三十五話 モンスターの群れ
私とパッシアさんは今受けている依頼の内容の確認と終了を報告するために再びギルドハウスにやってきていた。傍にはマティさんも一緒だ。
「この依頼、完了しました。」
「はい。受理します。お疲れ様でした。」
そう端的に業務をこなすギルドハウスのお姉さんに一礼をしてから、私はパッシアさんとマティさんの待つ場所へと向かった。
「お疲れ様でした!依頼は全て受理してもらえました。さて、これで試練に挑戦できるんですよね?」
「そうねー…、まずはチームを組んだばかりだし、今回は何も依頼を受けずに、洞窟内に行きましょう。連携の取り方を確認してから挑戦するのが妥当だと思うわ。」
「私もガーネットの意見に賛成です。私とガーネットならまだしも、私とイヴさんは初対面ですから、連携の取り方、治癒魔法のタイミングなどを確認した方が役に立つと思いますよ。」
「分かりました。それじゃあ、また洞窟内に行きますか?」
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
パッシアさんの掛け声で私たちは再び洞窟内へと赴いた。
しばらくモンスターと戦い、私とマティさんの連携も取れてきたところで、パッシアさんが何かを察知した。
「ん?パッシアさんどうしたんですか?」
「マティ、気付いた?」
「ええ。こちらに向かってますね。」
マティさんもパッシアさんと一緒に何かに感付いて辺りを見渡していた。
私も何か感付けるように、目を閉じて集中した。魔力感知をできるようになったのは最近だ。
魔力探知をしていると、魔力を持った魔導士と見られる団体が洞窟内を移動していて、その先には私たちがいた。
「パッシアさん、これは…」
「恐らく、私たちにモンスターを押し付ける気ね。」
「トレイン、っていうのよ。イヴちゃん。」
「トレイン…。そんなことする人いるんですね…。」
「よほど追い込まれたんでしょうね。仕方ないから私たちで対処しましょ。」
私だけならまだしも、今回は宝石将が二人もいるのだ。これほど心強い相手はいないだろう。
すると数秒もすれば私たちの進行方向の通路から必死な形相をした魔導士たちがやってきた。
「すみません!!」
そう大声で言うと、止まることなく彼らは後ろから追いかけてきたモンスターの大群を私たちに押し付けた。
「行くわよ、イヴ!」
「はい!」
パッシアさんの掛け声で私は鎌から弓を展開して、迎撃の準備をした。
やがて襲ってきたモンスターたちに氷の弓矢を放った。
氷漬けにされたモンスターをパッシアさんの鞭の炎が粉々にし、前線のモンスターは一掃できたが、まだまだモンスターはいるようだ。どれだけのモンスターをここまで引き連れてきたのだろう。トレインする相手を見つけてから一直線にここに向かったのだろう。道中のモンスターに出会っても戦わず、そのモンスターも諸共連れてきたと推測した。
私は次々と弓矢を放ち、モンスター共を氷漬けにしていき、それをパッシアさんが鞭で粉々にしていく戦法を取っていたが、モンスターの波が留まることを知らず、私たちが包囲される前に、私は弓から鎌に武器を展開した。
「パッシアさん、私も行きます!」
「ありがとう!囲まれたら、一掃するのにまた弓に変えて!」
「了解しました!」
そういうと私とパッシアさんは襲い掛かってくるモンスターの波に飛び込んだ。
私は鎌でそのモンスターたちを次々と切り裂いていき、パッシアさんはその鞭で、モンスターを燃やしていた。
すると、初めてマティさんに出会った時の様に、私の目の前に蝶がひらりひらりと飛んできた。
その蝶が私の鼻の頭に止まると、私の魔力や体力が回復していった。
「マティさん、ありがとうございます!」
私はちらりと後方で支援してくれているマティさんにぺこりと頭を下げた。
マティさんの治癒魔法はグローブがカギとなっている。彼女がはめているグローブに触れた対象は体力や魔力が回復するようになっている。それに加えて遠距離の相手も治癒魔法をかけるために、両手を蝶の形にすると、黄色に輝く蝶が生まれる。その蝶作り出したマティさんがイメージした対象まで飛んでいくことができる。今回はその対象が私だったのだ。
治癒魔法を学ぶには、その反対の命を奪う魔法もあることを習うと、聞いたことがある。
治癒魔法については専門外なため、私はルーフス様の試練の時のようにああいった薬を作ることしかできない。が、治癒魔法を使える魔導士は重宝される。が、しかし、本当のところは命を奪う魔法を知っているということを周りは怖がっているのだ。
私にはマティがそんなことをするとは思っていない。ほんの数時間前に出会ったばかりだが。
私は体力と魔力が回復したため、より一層モンスターを蹴散らしていった。
パッシアさんもマティさんに回復してもらったのか、先ほどよりも鞭のしなり具合が段違いだった。
モンスターの数も三分の二程度削ってきたところで、私たちは遂にモンスターたちに四方を囲まれてしまった。
「イヴ!」
「はい!」
私の名前を呼んでパッシアさんは合図をしてくれた。私は鎌から弓へと武器を展開をして、弓を上空に向かって引き絞った。ぐっと力を入れて弓を放つと、氷の弓矢はひゅいーんという甲高い音と共に上昇していき、洞窟の壁に当たる前に、四方八方に四散した。
「氷の雨!!」
次の瞬間、私たちの周りのモンスターに氷柱の雨が降り注いだ。
「これで、一掃できましたね。」
「イヴ、だいぶ成長したわね。これならあの試練もクリアできるんじゃないかしら?」
「ふふ、そういうなら今日中に挑戦してみる?」
「う…、今日はもう疲れた!明日にしよ!」
そういってパッシアさんは鞭をポーチにしまった。グローブを外したマティさんにからかわれたパッシアさんはそそくさと洞窟内を進んだ。
そんなパッシアさんの後姿に私とマティさんは顔を見合わせて笑った。




