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虹の魔道士Ⅰ  作者: あず
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第三十一話 ウィリディスの雫

翌日。私とパッシアさんはまず風の都市ウェントゥスの神殿に来ていた。


「それじゃあ、行ってきます。」


「はーい。行ってらっしゃい。」


例のごとく、パッシアさんを神殿の前で待たせて、私は神殿の奥へと足を踏み入れた。

少しだけひんやりした空気に身も心も引き締まる感覚になりながら、私は神殿の二階にやってきた。

私が部屋に入ると、松明が順々に点灯していき、やがてその部屋の主である竜、ウィリディス様を映し出した。


「お久しぶりです。ウィリディス様。」


「わたくしは待っていましたわ。それでは試練の合否をお教えしましょう。」


私はごくりと生唾を飲み込んで次に続く、ウィリディス様の言葉を待った。


「……合格です!よく親身になってあの姉妹を幸せにできましたね。私は見ていましたよ。あなたがペチナに飛ぶ方法を真摯に教える姿を。人に教えるという難しさを実感したと思います。どうでしたか?」


「確かに、教えるのはとても難しかったです。自分は飛行魔法を習得するのに、そう時間はかかりませんでしたから、余計どうやって教えたらいいか分からないところがありました。でも、私の師匠でもあるパッシアさんからヒントをもらいました。あの姉妹にとっての飛行魔法の思い方を変えることができてよかったです。」


「はい、よくできました。それではわたくしの雫を授けましょう。」


そういうとウィリディス様はぐぐっと体を上げると、ゆっくりと私の方に身体を倒した。

ぽたりという音と共に私の両手にウィリディス様の雫が落ちた。両手に収まる深緑色に光るそれを見て私はやっと四つ目の雫が手に入ったことが嬉しく感じた。


「次は土の都市、テッラですか?」


「はい。時計回りに回ってきたので、次はテッラですかね…。」


「あそこの竜はわたくしは好まないのですが…。危険な試練を与えてくるかもしれませんので、お気をつけください。」


「ありがとうございます。身を引き締めて頑張りますね。ウィリディス様、ありがとうございました!」


「あなたの旅路に光がありますよう。」


ウィリディス様のその言葉を聞いて私は竜の間を後にした。

私が神殿から出ると、パッシアさんが駆け寄ってきた。


「イヴ、どうだった?」


「パッシアさん。勿論、合格を貰えましたよ。ちゃんと雫もいただきました。」


「やったじゃない!これで雫も四つ目ね!」


「はい!次の都市はテッラでしたよね?ウィリディス様があそこの試練は危険を伴う可能性がある、みたいな言い方をしていたので…。」


「あー…、確かにあそこの試練は難しいかもしれないわ。試練の内容が変わっていなければだけど、あそこの試練は私も参加しないと厳しいかもしれないわ。」


「パッシアさんが参加してもいいんですか?」


「試練の内容によっては、ね。」


「なんだか、今から不安になってきました…。」


「まぁ、そうよね…。」


苦笑いを溢すパッシアさんに私は更に顔を青くした。


それから、お世話になった「満腹」に訪れた。お昼時ともあって、店は繁盛していた。

私たちがやってくると。出窓からテイクアウトのお客さんを捌いていたペチナちゃんが気付いた。


「あっ、イヴさん!」


今対応していたお客さんの会計を済ませると、ペチナちゃんは出窓から顔を出した。


「二人とも、中にお入りください!プチナが予約席まで案内してくれますから!ほら、プチナ、出番だよ。」


「は、はい!お客様、こちらになります。」


私たちがペチナちゃんに誘導されてお店の中に入ると、入り口でペチナちゃんの妹、プチナちゃんがお姉ちゃんと同じタイプの支給服に身を包んで、出迎えてくれた。


とことこと歩くプチナちゃんに私はほっこりとしながら、案内された席に着くと、プチナちゃんがぐらぐらと揺れながらお盆にお水が入ったコップを乗せて持ってきた。


「ぷ、プチナちゃん、大丈夫?」


「だ、大丈夫です!私も早くお姉ちゃんみたいになりたいので!」


逞しくなったなぁ…、と感慨深く見ていたら、目の前にメニューが差し出された。


「プチナ、もう大丈夫から裏で休んでて。あとはお姉ちゃんが引き継くから。」


「あ、ありがとう、お姉ちゃん!」


そういうと、プチナちゃんは私たちにぺこりとお辞儀をすると、お店の奥へと消えて行った。


「プチナの接客はどうでしたか?何か阻喪とかしてませんか?」


「大丈夫だよ。ちゃんとお水も運んでこれたし、席への案内もできてたから。」


「そうですか、よかったです。少しずつですが、プチナにもお店の手伝いをさせようかと父と話していたので…。今回私が空を飛べるようになってから、プチナがより一層”お姉ちゃんみたいになる!”と言いだしてしまって…。」


「あはは。お姉ちゃんの背中を追いたいんだよ。プチナちゃんは。」


「そうなんですかね…。しっかりした姉として見てもらえたってことですかね。」


「多分、そうだと思うよ。じゃなきゃ、お姉ちゃんにみたいになりたいなんて言わないよ。」


「ありがとうございます、イヴさん。あ、料理はもう決まりましたか?」


「あっ、会話に夢中で決めてなかった…。パッシアさんは決まりましたか?」


「私はここの名物のハンバーグセットにするって決めてたのよ!」


「早いですね…。私は…えーっと…。ポークチャップセットで!」


「はい、かしこまりました。ハンバーグセットが一つ、ポークチャップセットが一つですね。少々お待ちください。」


そういってペチナちゃんは笑顔を見せると、お店の厨房の方へ向かって行った。

彼女の笑顔は前よりも随分晴れやかだった。


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