第二十九話 人に教えるということ
その翌々日。ようやくペチナちゃんはお父さんからお店のお手伝いの時間を削ることの許しが出たようで、翌々日になってしまったが、これで飛行魔法の練習ができるようになった。
私はお店の近くの公園でペチナちゃんのことを待った。
「お待たせしました!」
「ううん、大丈夫だよ。お仕事お疲れ様。さてと、練習しようか!」
はぁはぁ、と息を上がらせながらやってきたペチナちゃんに私は、労いの言葉を掛けた。
今日パッシアさんは宿で休息している。これは私の試練なので、パッシアさんの出番ではないのだ。
まずは、箒に跨ってもらい、どの程度飛行魔法ができないのか確認するところから始めた。
ペチナちゃんは緊張しているようで、箒をぐっと掴んで力んでいた。
ふわりとペチナちゃんの片足が浮いたかと思うと、ドスンとペチナちゃんは地面に尻餅をついて落ちてしまった。
「大丈夫!?ペチナちゃん!」
「えへへ…、大丈夫です。いつもこのくらいしか上がらなくて…。」
「ふむ…。飛べるイメージはしてる?」
「イメージ…ですか?」
「うん。私も飛行魔法を初めて経験した時も、教えてくれたあの赤髪のお姉さんにイメージ力が大事だって言われたの。」
「そうなんですね…。」
「まずは、飛ぶってというよりも”浮かぶ”ってことを意識してみたら、どうかな?」
「分かりました!」
そういってからペチナちゃんは何度もトライしてみるが、結果はどれも一緒で片足が浮いたかと思うと、バランスを崩して尻餅をついてしまう。
段々と暗くなってきて。少し冷えてきたところで今日の練習は終わりにすることにした。
「あっ、イヴさん、待っててください。」
「ん?」
私が首を傾げて待っていると、ペチナちゃんは「満腹」に戻っていき、しばらくすると戻ってきた。
「今日の日替わりスープです。お昼の分が余ってたので、赤髪のお姉さんと一緒に飲んでください。飛行魔法の練習に付き合っていただいているお礼です。何かお礼をあげろとお父さんから言われたので…。」
「そんな悪いよ!私は試練でペチナちゃんに飛行魔法を教えてるわけだし…。」
「ウィリディス様も許してくれますよ。ぜひ貰ってください。」
「う…。じゃあ、貰うね。ありがとう、ペチナちゃん。明日も頑張ろうね。」
「はい!」
そういってペチナちゃんは自分の家である、「満腹」に帰って行った。
私は宿に戻って、パッシアさんとペチナちゃんからもらった日替わりスープを飲みながら、何故ペチナちゃんは飛ぶどころか浮かぶこともできないのか、考えた。
「あの、パッシアさんが初めて飛行魔法を使った時はどんな感じでしたか?」
「私のとき?うーん、どうだったかな…。あ、私も最初は両脚が浮いただけで喜んじゃって気を緩めちゃって、落っこちたことあるわよ。」
「ペチナちゃんも両脚ではないですけど、片足浮いただけで落ちてしまって…。」
「そう…。私の場合はずっと反復練習とイメージ力の問題だったかな…。」
「やっぱり反復練習なんですかね…。」
「イヴは、センスがあったのよ。直ぐに飛べるようになったし。」
「パッシアさんの教え方が上手かったんですよ。はぁ…、こんなに教えるのが難しいとは思っていませんでした…。」
「だからって投げ出さないでしょ?」
「当たり前です!」
私はがたんっと座っていた椅子から立ち上がった。その反動で椅子を後ろに倒してしまったが。
「ペチナちゃんにも”飛ぶ”ことに何か抵抗があるのかもしれないわよ?誰もが最初から飛べるわけじゃないんだもの。」
「そうですよね…。明日ペチナちゃんに聞いてみます。」
そんなこんなで私のペチナちゃんへの指導一日目は終了した。
翌日の夕方も例の公園で待ち合わせをして、早速練習に移ろうとするペチナちゃんに私は練習前に聞きたいことがあると言って、近くのベンチに並んで腰かけた。
「あの、聞きたいことって…?」
「あのね、ペチナちゃん。”飛ぶ”ことに何か抵抗を感じてない?何か過去に”飛ぶ”ことへの抵抗を生み出した出来事とか…。」
「………。」
私がそう聞くと、ペチナちゃんは黙り込んでしまった。顔色を窺うようにペチナちゃんの傍に寄って顔を覗き込んだ。
すると、ペチナちゃんの目には涙が溜まっていた。
「ぺ、ペチナちゃん?ご、ごめんね!急に変なこと聞いて…!」
「……あの、ぐすっ、聞いてくれますか?」
「う、うん。なんでも話して?」
「…ありがとうございます。あの、私のお母さん、飛行魔法の途中で衝突事故に巻き込まれて亡くなったんです。私も、私の妹も小さい頃に…。」
「そう、だったんだ…。」
「私はお母さんを亡くしてから、仕事に没頭するようになったお父さんの手伝いになれば、と学院を卒業してからは魔導士として活動するんじゃなくて、お店の手伝いをすることを選んだんです。妹のプチナの面倒も私が見るようにしてますし…。」
「それじゃないかな。ペチナちゃんが飛べない理由。」
「えっ…?」
「お母さんを奪った飛行魔法。そう考えちゃってるんじゃないかな?確かにペチナちゃんのお母さんは飛行魔法の事故で亡くなってしまった。その事実は変わらない。でも、ペチナちゃんが負い目を感じることはないんだよ。お店の手伝いをするのも、飛行魔法が必ず必要って訳じゃないよね?無理して飛ぶことに恐怖を覚えなくていいんじゃないかな。」
「でも…。」
「あっ!いいこと思いついた!」
「??」
私が急にベンチから立ち上がるとペチナちゃんは不思議そうに私を見上げた。
「こう思えば、ペチナちゃんは少し成長できるかもしれない!」
「それってどういう…?」
未だに困惑しているペチナちゃんに私はごにょごにょと耳元で囁いた。
囁く必要もなかったが、ここは雰囲気が大事だ。
私の提案に、ペチナちゃんはすぐさま目を輝かせた。




