第二十六話 満腹
私たちは、ウェントゥスに着くと、まずは宿の手配をした。
宿はパッシアさんが以前訪れた際に、お世話になり、とてもサービスのいい宿があるとのことで、もそれに同意してその宿に泊まることにした。
宿は巨大な風車をいくつか通り過ぎた中心街の通りにあり、絶えず人が出入りしている人気のある宿のようだった。
「ここに泊まるんですか?」
「ええ、そうよ。ここは宝石将の女の子の話の中でも出てくる人気店でね。とにかく出てくるご飯が美味しいし、サービスも行き届いているのよ。」
「へぇ…。それは楽しみですね!」
私たちは、まず宿のチェックインをすると、部屋に通された。
「うわぁ…、街が一望できますね!」
通された部屋には大きな窓が付いており、そこからはウェントゥスの街並みが一望できるものだった。
「宝石将の私がいたから、この部屋に通されたものだと思うわ。イヴ、感謝してね。」
ふふん、と反り返るパッシアさんに私も、ははーッとこうべを垂らして敬うポーズを取った。
「「ふふっ」」
そんなやり取りに二人して噴き出すと、私たちはポーチの中身を整理してから、風の都市の守護竜ウィリディス様にお会いしないといけない。
宿屋を後にすると、私たちは早速ウィリディス様が祀られている神殿に行こうとしたのだが…。
「えっと…、ここですか?」
「ええ。そうよ。」
「宿屋の目と鼻の先じゃないですか!」
「言ってなかったっけ?ここの都市はウィリディス様をうんと信仰してて、祀っている神殿を取り囲むように街を作ったとも言われているのよ。ここの街に吹く風もウィリディス様のお力だと信じてね。」
「へぇ…、街によって信仰の違いがあるのも、面白いですね。」
「でしょ。さ、ウィリディス様から試練の内容を聞かないとね。」
「はい!って…、なんだかさっきからいい匂いが…。」
私は神殿の方へ向かおうとしたが、鼻が料理のいい匂いを察知して、身体がそちらに釣られてしまった。
「確かにいい匂いね…。ちょうどお昼くらいだし、何か食べる?」
「えっ、いいんですか?ウィリディス様への挨拶は…。」
「このくらい許してくれるわよ。腹が減ってはなんとやらよ。」
「その適当加減もパッシアさんの良いところだと思いますよ。」
「ふふ、ありがと。」
そういって私たちはいい匂いのする発信源に向かって歩みを進めた。
「ここかな?いい匂いのするお店は…。」
そこは街の中心街の通りに面した料理屋さんのようで、店の前にはちょっとした列ができていた。
列ができているのは、お店の入り口の横で小窓からお持ち帰りの料理の販売をしているようだった。
「あそこで何か販売してるみたいですね。何か買ってみますか?」
「そうね…。小腹も空いてるし、お店の中に入るのも時間かかりそうだから、ここで買っちゃいましょうか。」
「分かりました!」
私とパッシアさんは列の最後尾に並んだ。
数分もすれば自分たちの番が来たのだが、そこで私は驚いた。
なんと、お店の出窓からお客さんを捌いていたのは、小さな女の子だった。イヴと同じ銀髪の髪を頭の上でお団子にしていて、いかにもしっかり者、という印象を受けた。
「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりでしょうか!」
「あ、あの、ここのお店初めてで…。おすすめってなんですか?」
「初めてのお客様なんですね!ご来店ありがとうございます!おすすめは旬のお魚のサンドイッチとポトフのスープセットですね。他にも塩おむすびとみそ汁のセットもありますよ。どちらもお客様に人気のメニューになります!」
ハキハキと分かりやすく喋っている目の前の小さな女の子に感心しながら、私とパッシアさんは、女の子が勧めてくれた、サンドイッチとポトフのセット、それと塩おむすびとみそ汁のセットを頼んだ。
「あの、実物を見ずに頼んじゃったんですけど、”おむすび”と”みそ汁”というのは?」
「直ぐにご用意できますが、おむすびはお米を炊いてそれに軽く塩を振って、手で握ったものになります。手で持って食べるので忙しい方にも根強い人気があるんですよ。」
口と手を忙しなく動かしながら、小さな女の子は丁寧に説明してくれた。
「”みそ汁”の方は…。あ、もうできましたね。お待たせしました!こちらがサンドイッチとポトフのセット、こちらがおむすびとみそ汁のセットになります!イートインスペースはありませんので、近くの公園で休憩されるといいですよ!ありがとうございました!」
“みそ汁”という料理の説明をする前に料理が出来上がったようで、私たちは後ろにもずらりと行列ができていることを理解すると、そのまま次の人に場所を譲り、私たちは小さな女の子にぺこりと頭を下げて、料理屋さんを後にした。
あの小さな女の子に言われた通りに、近くの公園に行くと、同じお店で買ったと思われる、袋を持っている人がちらほらと見受けられた。
私たちも近くのベンチとテーブルがある場所に腰かけ、早速買った料理をいそいそと袋から取り出した。
袋から出すと、スープのいい匂いがふわりと鼻孔をくすぐった。私はおむすびとみそ汁のセット。パッシアさんはサンドイッチとポトフのセットだった。
「「いただきます。」」
二人で手を合わせて軽く頭を下げると、私は早速袋に包まれたおむすびというものに食いついた。
私とパッシアさんはそれぞれおむすびとサンドイッチを、ポトフとみそ汁を、少しずつ交換してお昼を楽しんだ。
料理屋の名前は「満腹」というらしい。




