第二十五話 風の都市ウェントゥス
ガキィンと先ほどよりも重く鈍い音がした。
そこにはパッシアさんを守るように鎌を構えるイヴと、パッシアさんに向けた剣の刃がパキンと折れた盗賊の姿があった。
私はそこで畳みかけるように、鎌をくるりと振って柄で盗賊の鳩尾を結構な力で突いた。
「うっ…!」
「まずは一人!」
鳩尾に重い一撃を食らった盗賊はお腹を押さえてうずくまった。
私は次にもう一人の盗賊に目を向けた。
が、しかし、私が感知した盗賊の数は五人。まだあと三人はどこかに隠れていることになる。
余計な体力を使わないように、私は最小限の動きでくるくると鎌を振り回して。残りの一人を行動不能にした。
「イヴ、上手くできたわね。さ、まだまだ盗賊はいるみたいよ。」
「分かってます。パッシアさんも油断しないでくださいね。」
私とパッシアさんは背中合わせになると、他の三人が出てくるのを待った。
私は目を閉じて、微量な魔力の動きを感知するように、集中した。
すると、ゆらりと一つの魔力の動きが感じられた。
「そこッ!」
私は鎌を地面に突き刺して地面から氷柱を隆起させた。
「ぐあッ!」
上手いこと私の作った氷柱がほんの少し動いただけで狙われてしまった盗賊にクリーンヒットし、一人が行動不能となった。
「(これで後二人…。多分連絡係は戦闘には参加しないはず…。あまり動かないほうを狙った方がいいか…?)」
私が悶々と考えつつも、周囲の警戒を続けていると、僅かに魔力の動きがあった。
それはまっすぐパッシアさんの方に向かって行った。
「パッシアさん!」
私は急いでパッシアさんへと距離を詰めたが、コンマ数秒遅かったようで、盗賊の剣がパッシアさんに届こうとしていた。
守れなかった、とぎゅっと目を瞑っていたが、直後盗賊と思われる男の嗚咽が聞こえた。
「はぁ…、宝石将を甘く見ないでくれる?」
そこには愛用の鞭をパチンと地面にしならせて当てるパッシアさんがいた。
「すみません、パッシアさん!お怪我は!?」
「大丈夫よ、イヴ。イヴも油断してた訳じゃないから。でしょ?」
「…はい。でも、私の力が足りなくて、パッシアさんのお力を借りることに…。」
「そんな重く受け止めなくていいから。ほら、最後の一人をどうにかしないと。」
「あっ、そうですね!」
私は残るもう一人の感知を始めた。岩陰に隠れているのが最後の盗賊の一人だろう。
「さてと…、これで最後ですね…!」
岩陰に隠れていた盗賊が意を決したように飛び出してきたのを見計らって、私は地面に鎌を突き刺して氷柱を繰り出した。
「ぐあっ!」
「ふぅ…、これで全員ですかね。この人達どうします?」
「そうね、縄で縛ってイヴが見張り、私がウェントゥスの検問所に報告した方が解決の道が速いでしょう。じゃ、直ぐに戻ってくるから、イヴは盗賊たちを縛り上げておいて。」
「はい、分かりました。いってらっしゃいませ。」
私が送り出すと、パッシアさんは箒に跨ってふわりと浮かんだかと思えば、ぎゅんっと物凄いスピードで、ウェントゥスの街の方角まで飛んで行った。
「パッシアさんの本気ってどんなんだろう…。」
私はぼーっと突っ立ってる暇などない、と自分に鞭打ち、ばらばらに散らばってお腹を押さえて倒れている盗賊たちを一か所に集めて、持っていたポーチの中から縄を取り出して、ぐるぐるに縛り上げた。
「ふぅ。これでいいでしょ。」
私が一仕事終えると、それを見計らったようにパッシアさんともう一人の人がやってきた。
「お待たせ~!ちゃんと縛り上げておいてくれたのね。ありがとう、イヴ。」
「いえ。それで、この人が検問所の?」
「はい。ウェントゥス検問所の警備員です。今回は盗賊の討伐、ありがとうございました。身柄はこちらで確保しますので、お二人はこのままウェントゥスへとお入りください。検問所での検査はスルー出来るように話はつけてきましたので。」
「ありがとうございます。じゃ、イヴ。行こうか。」
「はい!」
盗賊に襲われるという経験は私の魔力の新たな使い方を教えてくれるいい機会だった。
これで私も少しは成長できたのだろうか。
私とパッシアさんは盗賊の身柄を検問所の警備員さんに引き渡し、早速ウェントゥスへと向かうことにした。
箒に乗ってほんの僅かな時間でウェントゥスの検問所が見えてきた。
確か警備員さんの話では直ぐに通れるよう、話をつけてあると言っていたが…。
私とパッシアさんは箒から降りて、ポーチに箒をしまいながら検問所を通ると、他の警備員さんがビシッと敬礼をしながら通行を許してくれた。
「うわぁ~!」
街に入るとそこらかしこに、巨大な風車が点在し、時折吹く風でくるりくるりと、その風車の羽を回していた。
初めて見る光景に私は興奮したようにきょろきょろと辺りを見渡してしまった。
「あっ…、す、すみません、取り乱して…。まず先に宿屋に泊まる手配をしましょうか。」
一人ではしゃいでいたことが今更ながらに恥ずかしくなって私は話を逸らして、宿屋はどこかと探した。
そんな私の様子にパッシアさんはくすくすと笑っていたが。




