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虹の魔道士Ⅰ  作者: あず
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第二十三話 療養

カエルレウム様との会話も弾み、いつの間にか外は暗くなってきていた。


「あの、カエルレウム様。私のお腹の傷が治ってるのって…。」


「ああ。言ってなかったね。僕の神殿の魔力の泉に君を漬けたんだよ。」


「漬けた…?」


「そうそう。一定時間魔力の泉に人間を浸していると、魔力が傷を見つけて回復力を高めるんだよ。それで君のお腹の傷は塞がったって訳。」


「魔力の泉にそんな効果が…。」


「まぁ、普段は魔力の回復に当てることが多いし、傷の修復のためにも体を漬けている時間も長くないといけなかったし…。まぁ、途中で君が起きることもなかったから、本気で心配してパッシアが央都まで戻って病院から治療薬を持ってきたくらいだしね。」


「ちょ、カエルレウム様、それは秘密ですって!」


慌てた様子のパッシアさんにカエルレウム様は、”あはは”と軽く笑った。


「でも、本当にパッシアは君のことが心配で、神殿の魔力の泉から離れなかったんだから。」


そういったカエルレウム様に私は隣にいるパッシアさんの方を見た。すると、パッシアさんは照れたように笑った。


「大事な弟子がボロボロになってるのを放っておく師匠もいないでしょ。」


「パッシアさん…。カエルレウム様も、本当にありがとうございました。」


私は水晶の前で頭を下げた。


「顔を上げて、イヴ。僕の試練は辛かったかもしれない。でも、君の力をつけることはできたはずだよ。自分が変われたと思っていいんだよ。」


「私は…強くなれた、ということでしょうか。」


「あの迷宮に巣食っていたモンスターを一人で倒せたんだから、君は十分強くなれたと思うよ。」


「ッ、ありがとう…ございます。」


私はぐっと泣きそうになるのを堪えていたが、隣にいたパッシアさんがえぐえぐと号泣していたので、私の涙も引っ込んでしまった。

逆にパッシアさんの様子に私は緊張がほぐれて、本心から笑った。


「それじゃあ、カエルレウム様。しばらくはここ雪の大地で私は療養します。」


「うん。よく休んでね。またアクアに来たら、僕の話し相手にもなってね。」


「はい!」


私が元気に返事をすると、水晶の向こう側のカエルレウム様の姿が歪み、やがて何も見えなくなり、ただの水晶に戻ってしまった。


「ふぅ…。」


私が溜息を一つ吐くと、隣にいたパッシアさんが心配そうに顔を覗きこんできた。


「イヴ、疲れたなら寝てもいいのよ?」


「その前にパッシアさんが持ってきてくれた料理が冷めてしまったことが心配です。」


「あっ!カエルレウム様との会話ですっかり忘れてたわ…。温めなおしてくるから、少し待ってて!」


そういってパッシアさんはベッド脇の小さな机に置かれた鍋を持って部屋を出て行った。


私は一人になった部屋でばふっとベッドに戻った。

左手に握られたカエルレウム様の雫を部屋の照明に透かして見た。

きらきらと光り輝くそれは水を連想させるように光が揺らめき、私は神秘的な気持ちになった。


「(本当にあの”死神”を倒して。カエルレウム様から雫をもらったんだ…)よかった…。」


私は気付くと、両の瞳から涙を流していた。

今頃になってあの”死神”と対峙したことやお腹を斬られて死にそうになったことが全て恐怖となって襲ってきた。

とても怖い思いをした、と今更ながらに思ったのだ。

静かになった部屋で私の嗚咽だけが響いた。



それからパッシアさんが帰ってきたのは数十分後だった。


「ごめんね、遅くなっちゃって!はい、これリゾット!これならイヴでも食べられるんじゃないかと思って!」


「いえ、大丈夫ですよ。私のためにありがとうございます。」


私は泣き腫らした目を悟られないよう、できるだけ目元は擦らずに涙を垂れ流しにしていたので、パッシアさんには気づかれていないようだった。

熱々の鍋を持ってきたパッシアさんは先ほどと同じようにベッド脇の小さな机に鍋を置くと、蓋をぱかっと開けた。


「うわぁ…、美味しそう…。パッシアさん、料理もできたんですね。」


「一人暮らしの期間があったからね。料理はそこで身に付けたのよ!あ、熱いから気を付けて食べてね。」


「はい、いただきます。」


パッシアさんはそういって話しながら、鍋から小鉢にリゾットを取り分けてくれて、私の目の前に差し出した。

私は、小鉢を貰うとふーふーと自分の息でリゾットを冷ましたが、一向に湯気が消えなかった。

意を決してスプーンでぱくっとリゾットを食べると、熱々のリゾットが口の中に広がり、私は思わずはふはふと口を開けて熱を逃がした。

ようやく飲み込むと、私は”ふぅ…”と一息ついた。


「ど、どう、イヴ?」


「とっても美味しいですよ!パッシアさんの料理は初めて食べましたけど、お店の味並みにおいしいです。」


心配そうにこちらを見てくるパッシアさんがなんだか可愛くて、私は彼女を安心させようと、にっこりと笑顔で料理の評価をした。


それから私は黙々とリゾットをかきこみ、あっという間に鍋にあったリゾットを平らげてしまった。


「それだけ食欲があれば、もう二、三日でここから移動できそうね。次の目的地だけど…。」


「時計回りに行くと…。次は風の都市、ウェントゥスですかね…。」


私は頭の中でこの国の地図を展開して、次に訪れるべき都市を連想した。


「そうよ、次はウェントゥス!風と緑、そしてご飯が何よりも美味しい都市よ!!」


心なしか、今まで行った都市の中でも一番気合が入っているパッシアさんの狙いが垣間見えたが、私は素知らぬフリをすることにした。


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