第二十二話 カエルレウムの雫
私がカエルレウム様にチピレットを届けて意識を手放してから、私はずっと眠っていたようで、起きたら見慣れた部屋の天井が見えた。
「(ここは…、私の部屋…?あれ…、今までの全部夢…?)」
私は今の状況が飲み込めず、パシパシと目をしばたたかせた。
すると、部屋の扉が開いた。そこには熱いのであろう、鍋を両手で持ってきたパッシアさんがいた。
「あ、夢じゃない。」
「イヴ!!!」
私が呑気なことを言っていると、パッシアさんは私が寝ているベッドの横にある小さめの机に持ってきた鍋を置くと、がばっと私に抱き着いて来た。
「パッシアさん…、痛いです。」
余りにも強い力で抱きしめてくるものだから、腹部の傷が痛む…と思ったところで、私は起き上がって着ていた服をめくった。
「傷が塞がってる…?」
「はぁ…、イヴ、あなた一週間も眠っていたのよ。今カエルレウム様を呼んでくるから。」
「え…、呼んでくるって…?」
確かにパッシアさんはカエルレウム様を呼んでくると言っていた。守護竜が神殿から離れてもいいのだろうか。
「カエルレウム様、イヴが目を覚ましました!」
そういってパッシアさんが部屋に戻ってきたときには両手で水晶を抱えていた。
「わぁ、よかった~。僕もう目覚めないんじゃないかと思ったよ~。神殿の魔力の泉の水を使ってよかった。」
「何から何までありがとうございました。イヴにはしっかり休むように言い付けますから。ほら、イヴ、カエルレウム様と水晶で繋がってるからご挨拶。」
私はベッドで上半身を起こしたまま、パッシアさんが持っている水晶を覗き込んだ。
するとそこには薄らぼんやりとしていたが、水晶の向こう側には青き竜のカエルレウム様がいた。
「あ、本当に映ってる…。カエルレウム様、私の試練の合否は…?」
「それは君の手の中を見てごらん?」
「手の中…?」
私はそこでようやく、自分が何かをぎゅっと握りしめていることに気が付いた。その掌を開けると、そこには深い青に輝く石のようなものがあった。
「あの、これって…!」
「うん、僕の雫だよ。つまりは試練は合格ってことだよ!」
「………。」
「い、イヴ…?」
「はぁ~…、よかった~…」
私がなかなか反応しないから、横にいたパッシアさんも、水晶の向こうのカエルレウム様も心配そうに見てきた。
そんな二人をよそに私は安堵のため息を漏らした。
「血だらけで君が返ってきたときはもう心臓が飛び出るかと思ったよ~!地下迷宮には元々、魔導士になれなかった人やこの国の怨念が集まりやすい場所でね。その怨念がモンスターと化した、ってこと。それでもあまりにも怨念が溜まりすぎたのか、ここ最近の宝石将になりたいっていう魔導士が挑戦して負けて帰ってくる…なんてこともよくあったから。イヴがちゃんと倒したこと、僕は知ってるからね。」
「カエルレウム様…。ありがとうございます。」
「あ、それと試練から帰ってきてから僕とお話しするって約束、もう大丈夫だよ。」
「え…?」
「君が一週間眠って療養している間、ずっとパッシアが僕の話し相手になってくれたんだよ。」
「そんな…パッシアさんが…?あ、でも、どうやって神殿の前で待っていたパッシアさんを呼べたんですか?」
「それは僕、竜だから。半径数十メートルの人には脳内に話しかけることができるんだよ。」
「え、こわ…。」
「そんなこと言わないで~」
私の純粋な反応にカエルレウム様は半泣きになった。
竜のくせに威厳とかないのか、この竜は。と思ったのは内緒。




