第十五話 赤き竜の試練
私とパッシアさんがイグニスの街へ戻ると、灼熱の大地にいた時よりも幾分かイグニスの街の方が涼しく感じた。まだ暑いことには暑いのだが。
私とパッシアさんは前回来た時に泊まった温泉宿にもう一度泊まる手続きをし、部屋に通してもらった。
「それじゃあ、私は試練のために街に出てきますけど、パッシアさんはどうしますか?」
「うーん…、私は温泉を楽しむことにするわ。暗くなる前に帰ってくるのよ?」
「なんだか、パッシアさんが母親になったようですね。大丈夫ですよ、ちゃんと帰ってきますから。じゃあ、行ってきます。」
「はーい、行ってらっしゃい。」
部屋のベッドにゴロンと寝転がって手を振るパッシアさんを尻目に私は宿屋の部屋を後にした。
私がルーフス様から承った試練は、イグニスの街に関わるものだった。
「えっと、確かこの辺りにいたような…。」
私はイグニスの街の中心にある、噴水のある公園へと来ていた。目的は泉に硬貨を投げる青年だった。
「(あ、いた…。)あの…、すみません。あなたがレックスさんですか?あの、私赤き竜の試練を受けているイヴと言います。ルーフス様からあなたの悩みを解決するように言われてきました。」
「あ…、え?ルーフス様が?どうして僕なんかに…。確かに僕がレックスですが…。」
「今から数時間前からここで硬貨を投げて祈祷していますよね?その内容もルーフス様は分かってらっしゃいました。私にも少し手伝わせてください。」
「え…、でも、そんな見ず知らずの人に手伝ってもらうなんて…。」
「受け入れられないのも、無理ないかもしれません…。私もルーフス様に言われてきたので…。」
「………。」
「………。」
私たち二人の間には少し気まずい雰囲気が漂ってしまった。無理もない。いきなり知らない人から祈祷の手伝いをします、なんて言われても困らないはずがない。
「まぁ、お話だけでも聞いてくださるなら…。」
レックスさんはそういうと、「場所を変えましょう。」と言って、噴水のある公園からイグニスの大通りにある、一軒のカフェへと移動した。
「それで、レックスさんが毎日祈祷している理由というのは?」
私は来店してから店員さんに注文したアイスコーヒーを一口飲んでからレックスさんに聞いた。
「えっと…、僕の幼馴染なんですけど…。小さい頃から病弱で、外に出て遊ぶこともできずに部屋で寝たきりが多いんです。そんな彼女の病弱な体が一日でも早く良くなりますようにと、毎日あの噴水で祈っていたんです。」
「その幼馴染さんはいつから寝たきりが多くなったんですか?」
「えっと、ここ最近ですね。一年前くらいからでしょうか。」
「ふむ…。その病状は?」
「極度な悪寒や咳、熱が出たり…ですね。」
「一般的な風邪の症状のようですが…。それが悪化して大きな病気になるといけませんからね…。私にも協力させてください。ここ最近魔法の力を得たばかりなんですが、薬の調合のことなら少しは知恵があるので、私が薬を作ってみます。まずは、その幼馴染さんにもお会いできますか?」
「えっ…、薬を作れるんですか…?あ、そういえばルーフス様からの試練って言っていましたね…。ってことは宝石将を目指して?」
「はい、そうです。今は宝石将になるために各都市の竜を巡っているところです。魔法もついこの間まで使えなかったんです。お恥ずかしい話ですが…。」
「実は私も魔法が使えないんです。イヴさんはどうやって魔法を使えるように?」
私のカミングアウトに同調するかのように、レックスさんも最初の頃のオドオドした感じから少しだけフレンドリーになり、興味津々に私に話しかけてきてくれた。
私はそれが嬉しくて、アーテル様から授かったことを話した。流石に闇の自分と戦うことなどは言わなかったが。
レックスさんとの会話を弾ませていると、陽が沈みかかっていたので、私はレックスさんに幼馴染さんと会う約束を取り付けてから、彼とは別れた。
「ただいま戻りました。」
「あら、お帰り、イヴ。試練の調子はどう?」
「五分五分ってところですかね…。でも、明日には少し進める気がします!」
「そっかそっか。それならよかったわ。さ、イヴも温泉に入ってきなさいな。その後、ご飯を食べに行きましょう。」
「はい!ご飯も温泉も楽しみです!」
私は元気よく返事をして温泉に入る準備をして、部屋に備え付けてある、露天風呂へと向かった。
「はぁ~…。気持ちいい…。」
私は今日あったことを温泉に浸かりながら、思い返した。
ルーフス様には私が宝石将になるのに、未だに不安があることを見抜かれてしまった。
「流石は長い時を生きる竜だなぁ…。私もどもる癖、直さなきゃな…。」
ルーフス様の目の前でどもってしまったのは、私が長い間、雪の大地で一人きりで生きてきたから、人とのコミュニケーションが取れない所為でもあった。
「(でも、まだ私が宝石将になるなんて、信じられない…。魔法もついこの間までなかったし。魔法が無い生活が当たり前だったもんなぁ…。)」
私はごぼごぼと温泉に口元まで浸かり、物思いにふけった。
余りにも長いこと温泉に入ったきり戻ってこないことに心配をかけてしまったパッシアさんに怒られたことはいうまでもない。




