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虹の魔道士Ⅰ  作者: あず
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第十一話 過去の傷跡

翌日。私たちは再び宿屋の一階の食事処で朝食を済ませると。ミーランさんのお店まで向かった。


「こんにちは~。ミーランさんいますか?」


「おう、俺はここだぜ。」


そういって店の奥のカウンターの下からひょっこりと顔を出したのは少し強面のミーランさんだった。


「お、ガーネットじゃねーか!それにこの間の嬢ちゃんも!ってことはついに魔結晶を手に入れたんだな!?」


「話が早くて助かるわ。そうよ、その通り。このイヴはなんと、あの闇の都市で竜に出会って認められて魔結晶を授かったのよ!」


「へぇ!そいつはすげぇや!んで、武器は何になったんだ!?」


カウンターから身を乗り出すように私に近付いたミーランさんに私は若干引きつつも、腰のポーチから鎌の柄を取り出した。

鎌の刃の部分は私の意思で氷から創り出される仕様となってあり、私は”展開”と頭の中で唱えた。

すると、氷の刃が”ジャキン!”と音を立てて、鎌の完成形となった。


「おぉ!鎌か!しかも、氷属性と来たか…。こりゃ嬢ちゃんにぴったりだな!」


「あ、ありがとう、ございます…。」


私は照れてススス…とパッシアさんの後ろに隠れた。が、鎌を持っているのでバレバレ。


「それで、これから他の都市の竜に会いに行くからその旅支度がしたくてね。ミーランさん、見繕ってくれる?」


「おう!そういうことなら、お安い御用だ!すぐに準備するから、待ってな!」


そういうとミーランさんはカウンターの奥の部屋へと行ってしまった。

ミーランさんが行ったのを見計らって私はパッシアさんの後ろから出てきて、鎌の柄を握って氷の刃を”シュウ…”と溶けるように解除した。

ちなみに解除するときもパッシアさんに言われた通りにイメージを大事にしてて、展開するときも、解除するときも氷が突き出る、溶ける、といった現象を想像しながら発動していた。


私が鎌の柄をポーチにしまうと、ミーランさんは奥の部屋から戻って来た。旅に必要な寝袋や短剣などがカウンターに並べられた。


「あいよ、旅の準備はこれでいいかと思うが…、何か付け足すものでもあるか?」


「えっと…、ふむふむ…。これでいいかな。あ、あと、イヴ用の箒も用意しなきゃね!ミーランさん、ありがとう!私たちはもう行くわ!」


「おう!また寄ってくれよな!」


パッシアさんはカウンターに広げていた旅の道具をガッと集めると私に押し付けた。

さっさとミーランさんのお店を出ていくパッシアさんの後を追うように私はぺこりとミーランさんにお辞儀をしてから店を出た。


「えっと、確か箒屋さんは…。」


店を出るとパッシアさんは街並みをきょろきょろと見渡しながら、箒屋さんを探していた。

私は先ほどパッシアさんに押し付けられた旅の道具を一つずつ確認しながら腰のポーチへと入れていった。

ちなみに私の腰のポーチは不思議なものでまだボレームスさんがご存命の時に一緒にオーロラの街までやってきたときに買ってくださったもので、なんでもしまえる代物らしい。


「(ありがとうございます、ボレームスさん…)」


私は心の中でボレームスさんにお礼を言いながら、道具を仕舞終えた。


「イヴ、道具はしまった?確かこっちの通りに箒屋さんがあった気がするから、行ってみましょ!」


「あ、はい!」


私が道具をしまうのを待っていたかのようにパッシアさんはナイスタイミングで話しかけてきて、オーロラの街の通りを指差しながらウキウキしていた。


「(どうしてパッシアさんがウキウキしてるんだろう…)」


私がそう思っていることも露知らず、パッシアさんはスキップまでして、箒屋さんまで向かった。



「そうよ、ここよ!ディペット箒店!」


「ここの人とも知り合いなんですか?」


「ええ。まぁね。同じ火の都市出身で私の箒もここで買ってもらったものなのよ!」


「へぇ、そうなんですね。」


「さ、中に入ってイヴだけの箒を見つけてもらいましょ!」


私はパッシアさんにぐいぐいと背中を押されながら入店した。


「いらっしゃいませー!って、パッシアじゃない!」


満面の笑みで私たちを出迎えてくれたのはパッシアさんの髪よりもちょっとオレンジがかった赤色の髪の毛をウルフカットにしている人だった。

しかも、パッシアさんの言ってた通り、仲が良いようでパッシアさんの本名まで知っていた。

普段宝石将はその宝石の名前で呼ばれることが多いため、私は少し驚いた。


「きゃー!ディペット久しぶり!元気だった?」


パッシアさんはあ箒屋の主人であろうディペットさんと感動の再会を果たしている間、私はお店の中をきょろきょろと見渡した。


「(壁にも天井からも箒がぶら下がってる…。すごい数…)」


物珍しそうに見ていた私が気になったのか、ディペットさんはパッシアさんに話題を振った。


「ねぇ、パッシア。あの子は?」


「ああ。紹介しなくちゃね。ほら、イヴ、こっち。」


「あ、はい…!」


私はパッシアさんに手招きされてパッシアさんの隣に並んだ。


「この子は私が見込んだ次の宝石将よ!名前はイヴ。アクアの雪の大地にいたところを助けてもらったりしたのよ。」


「まぁ!ってことは弟子ってことね!?パッシアもついに師匠か~!」


「は、初めまして。イヴと言います…。」


私はパッシアさんに紹介されて、一歩前に出るとディペットさんに挨拶した。


「まぁ、可愛い!この白髪も雪の大地から来たって感じで儚くて可愛いわぁ!」


そういうとディペットさんは私に抱き着いて来た。

うりうりと頭を撫でられて私はなんだがくすぐったい気持ちになった。人に撫でられるなど何年ぶりだろうか。悪い気はしなかった。


「あ、あのパッシアさん、本題を…」


私はまだディペットさんに撫でられながらも、本題を言うようにパッシアさんに促した。


「あ、そうだった!ねぇ、ディペット。この子に箒を与えてくれないかしら?」


「この子の箒?あら、小さい頃に貰わなかったのかしら…」


「あの…、私数日前まで魔力が無くて…。この間やっと魔力っていうか魔法を扱えるようになったので…。それで箒を見繕ってもらいたいんです。」


私はパッシアさんが言う前にそういった。なんだが人に言わせるのも、申し訳なかったからだ。


「あら、そうだったの?ってことは魔結晶を使ったのね?」


「は、はい。」


ディペットさんはそういうとじろじろと私のことを見てきた。


「ふむふむ…。そうねぇ…、この子に合う箒は…。」


私のことを見終わると、壁に飾ってある箒をがさごそと漁った。

私自身、箒を持つのは二回目だが、いい思い出はない。だから、どんな箒を見繕ってもらえるのか少し不安だった。


「(貧相なものだったら、どうしよ…)」


「これなんてどうかしら!」


私が不安気な面持ちで待っていると、ディペットさんはいつの間にか飛行魔法を使ってふよふよと浮かんだまま天井からぶら下がっている箒を手に取っていた。

そのまま飛行魔法を使って私の目の前まで下りてくると、私の手に箒を差し出した。


「どう?触ってみて。」


「あ、はい…」


私はそっとディペットさんの手から自分の手で箒を持つと、意外とその箒は軽く、ひょいっと持ち上げられた。


「それはね、軽い素材が売りでね。箒の柄の部分は軽くて丈夫、毛先も綺麗に整えられているのが特徴よ。」


「確かに…、毛先が綺麗…。」


私が思い出すのは無残にもついばまれた毛先の箒だった。あれはたらい回しにされた親戚の中でも一番私の面倒をよく見てくれた家の者が私のためにと買ってきてくれたものだった。それもアクアの店で一位二位を争うような大人気商品だったらしい。そんないいものをもらったのに私は恩を仇で返してしまったのだ。

そんな過去を思い出して俯いていると、私の機嫌が良くないのかと心配したパッシアさんとディペットさんが私の顔を覗き込んでいた。


「わっ、ご、ごめんなさい!この箒、とってもいいですね!」


私はパッと顔を上げてディペットさんに箒のことを褒めた。


「無理して笑わなくていいのよ。何か箒にいい思い出がないのね…。思い出させてしまってごめんなさい…。」


「あ、いえ、大丈夫ですよ!気を使わせてしまってすみません…。過去のことですし、もう自分の中で折り合いはつけてるので。」


「パッシア…、この子はなんて強いのかしら…。きっと良い宝石将になるわ!」


私はまたしてもディペットさんに抱き締められた。


その後、ディペットさんから勧められた箒を購入することにし、またしてもパッシアさん持ちで箒の支払いを済ませて、私たちはディペット箒店を出た。


「パッシアさん、箒を買ってくれてありがとうございました。これ、大切にしますね。」


「イヴも過去に色々あったことはアイリス様からも聞いてたけど、ちょっと配慮が足りなかったわね。ごめんなさい。」


「大丈夫ですってば。アイリス様の夢で私のことが出ていたのなら、もう何を知ってても驚きませんよ。」


「イヴ…。ディペットも言ってたけど、イヴは本当強いわ…。大丈夫、私もこれからフォローするから。」


「ありがとうございます。さ、火の都市イグニスまで徒歩で行くんですよね?モンスターとの戦い方も教えてくれるとか…」


「あ、そういえばそうね。じゃあ、行きましょう!」


私たちはそういってオーロラの街を出た。


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