第十話 基本的な魔法
私たちがオーロラの手前の検問所に着いた頃には陽が落ち、辺りは薄暗くなっていた。
その所為もあってか検問所の警備が厳しくなっていた。
が、そこは宝石将というある意味職権乱用だが、パッシアさんが通ると、警備員はきりっと敬礼をしてパッシアさんを通していた。
私も一緒になって通ろうとしたら、止められたのだが。
そんな私にパッシアさんは遠くから笑ってみていた。いつか私も顔パスで通りたいものだと思った。
そんなこともありながら、私たちはなんとかオーロラまで戻ってきた。
「もう今日はミーランさんのお店に行くことはできないわね…。どこかで宿でも取ってそこで今日は休みましょう。」
「そうですね。」
私がそういって頷くと、パッシアさんは周りを見渡した。
「ここら辺に宿屋は…っと。あ、あった。あそこにしましょうか。」
パッシアさんが指を指したところはいかにも宿代が高そうな高級宿屋だった。
「ぱ、パッシアさん!あんな高そうな宿、泊まるの勿体ないですよ!それに、私そんなにお金持ってません!」
「あははっ、大丈夫。ここは宝石将の私がついていれば大丈夫よ。」
「ほ、本当ですか…?私はお金払わなくていいんですか?」
「うんうん。宿代とかの支払いは師匠である私の責任だし、払うようにアイリス様にも言わられているのよ。」
「そ、そうなんですね…。アイリス様直々の命令なら…。」
そうやって私が納得してる間にパッシアさんはさっさと宿へと入って行ってしまった。
私は慌てて後を追いかけた。
「はぁ~…、つっかれた~っ」
私は宿の部屋に案内してもらい、そこの部屋に入った途端、ベッドにダイブした。
今日はなんとも濃厚な一日だったからだ。普段雪の大地で氷柱取りをしていた日々に比べたら、今日は私にしてはめちゃくちゃ動いた方だった。
「あはは、今日のイブは大活躍だったものね。よく闇の都市の守護竜から雫をもらえたわね。試練の内容は私の時と変わらないのかしら…。」
「パッシアさんの時の闇の都市の試練はなんだったんですか?」
「ん?ああ、これは言っちゃうとネタバレになっちゃうし、言わないようにしてるんだけど…。他の都市の竜の試練で出てくるかもしれないし…。」
「あ、そうですよね…。答えを聞いてばかりじゃ未熟なままですもんね…。」
「イヴは闇の都市の守護竜に会って、少し変わったわね。」
「そ、そうですか?」
私は照れて頭をぽりぽりと掻いた。ベッドから起き上がった私はもう一度ポーチから自分の武器である鎌の柄を取り出した。
「パッシアさんが言っていましたが、氷属性の魔法って珍しいんですか?」
「ええ。基本的にこの国は四大元素の上に光と闇が存在するからね。氷属性の魔法は四大元素の水と風を掛け合わせた魔法属性なのよ。だから、珍しいの。」
「へぇ…、そうなんですね。これからは私も魔力を持ったので、魔法の勉強もしなくちゃですね…。何かいい魔法の教本とかありますか?」
「イヴは努力家なのね。ミーランさんのお店に置いてあったと思うけど…。魔法のことは座学よりも実践の方が鳴れるものよ。本で読むのも大切かもしれないけど、本で読んだのと実際にやるのでは勝手が違うもの。」
「そうなんですね…。」
私は魔法学校でろくに勉強できなかった分、ここで巻き返そうと思っていたのだが、パッシアさんからの話に私は少し落胆した。
「でも、大丈夫よ。魔法のことは私が教えるから。たまには師匠を頼りなさい?」
「パッシアさん…。ありがとうございます!」
「早速明日、昼間のうちにミーランさんのお店で装備を整えたら、火の都市イグニスまで徒歩で行きましょう。道中にモンスターとかいると思うから、そのモンスター相手で魔法の使い方を教えるわ。」
「は、はい!モンスターなんて雪狼くらいしか出会ったことないんで、少し緊張します…。」
「イヴは今まで雪狼と戦ったことはないの?」
「あ、はい…。いつも短剣は持っていたんですけど、雪狼は縄張りに入ってきた奴だけを追いかけ回すので、縄張りから出さえすれば追ってこないので…。」
「それで私と出会った時も逃げの一手だったのね…。」
「パッシアさんはどうして雪狼相手に魔法を使わなかったんですか?」
「私の魔法、ちょっと魔法の範囲が広いのよね…。森だったし、木を燃やしちゃうかもしれなかったし…。」
「そうなんですか?あ、パッシアさんの魔法属性って…?」
「私の魔法属性は火よ。武器は鞭。色んなところにしならせるから、火が木に燃え移っちゃったら大変でしょう?」
「た、確かに…。でも、パッシアさんの魔法もいつか見てみたいです!」
私が目を輝かせて言うと、パッシアさんは私の目の輝きに負けたのか、”分かった、分かった”と苦笑いをした。
「さ、宿屋の下の食事処でご飯を食べて、お風呂に入って寝るわよー!明日は忙しいんだから、早めに寝なくちゃね!」
そういってパッシアさんは、ウィンクをした。私はそんなパッシアさんに小さな笑みを溢して。ベッドから立ち上った。
宿屋の一階の食事処で夕飯を済ませ、私は部屋に備え付けてあるお風呂に浸かっていた。
「はぁ…。本当に色々あった…。闇の都市の守護竜は威厳がすごかったな…。他の都市の竜もみんなあんな感じなのかな…。」
私は闇の都市の守護竜、アーテル様のことを思い出して、身震いした。
「(よくあんな大きな竜に出会っても引かなかった私、意外と度胸あるのかも…)」
そんなことを思って私は顔にお湯をばしゃりと掛けた。
私がお風呂から上がると、ベッドがある部屋からパッシアさんの話し声が聞こえてきた。
「(ん…?誰かと話してる…?)」
私はそんな中に入っていく勇気もなく、お風呂の脱衣場でパッシアさんの話が終わるまで、待った。
「――はい。無事に魔結晶も手に入れて、魔力も保有することができました。武器は鎌で刃の部分が氷でできているので、魔法属性は氷だと判明しました。―はい。引き続き見守っていこうと思います。はい。アイリス様もご無理はしないよう。はい、おやすみなさい。」
「(話し相手はアイリス様?あ…、そういえば通信魔法っていうのがあるんだっけ…。私の
ことも最初はパッシアさんがアイリス様に通信魔法で教えていたって言ってたし…。)」
「イヴ~?お風呂あがった?」
私が悶々と考えていると、脱衣場のすぐ目の前の扉の向こうからパッシアさんの声が聞こえた。
「あ、はい!今出ます!」
私はそう言って。脱衣場の扉をバンッと開けると、丁度目の前にいたのか、パッシアさんの顔面に私が開け放った扉が激突した。
「いっつ~ッ」
「ご、ごめんなさい、パッシアさん!まさかこんな目の前にいるなんて思ってなくて…!」
痛みのあまりうずくまってしまったパッシアさんに私は慌てて、しゃがみこんで顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫…。防御魔法でも展開すればよかったわ…。」
「防御魔法…?」
「こうやって自分の周りに防御壁を作り出して物理攻撃や魔法での攻撃から身を守ることができるのよ。」
そういってパッシアさんは痛むのであろうおでこを摩りながら、防御魔法の説明をしてくれた。
パッシアさんの前には透明の壁ができているようで私が手を伸ばすと、その見えない壁に阻まれてそれ以上は進めなかった。
「私にも扱えますか?」
「防御魔法は基本中の基本だからね。明日のモンスター戦のことも考えて今、教えましょうか。」
そういうとパッシアさんは赤みが残るおでこのまま立ち上がり、胸を張った。
「まず、魔法の根源はイメージ力よ。どの魔法もまずはイメージをしてからじゃないと具現化できないの。じゃあ、イヴ。自分の前に壁ができるようにイメージしてみて。」
「は、はい!」
私は一旦お風呂のバスタオルやお風呂のセットをベッドに置きに行くと、再びパッシアさんの目の前に戻った。
そして、目を閉じてイメージした。私の目の前に先ほどパッシアさんが見せてくれたような透明の壁を。
「そうそう、その調子。最後は飛行魔法の時と同じで呪文を唱えれば発動するはずよ。防御魔法の呪文は”ディフェンシオ”よ。」
「はい!」
私は言われた通りに、もっと厚く頑丈な透明の壁をイメージすると、頭の中で呪文を唱えた。
「(“ディフェンシオ”!)」
そっと私は目を開けてみるとそこには先ほど何も変わらない光景が広がっていた。
だが、目の前のパッシアさんはにこにこと笑っている。
私はそっとすぐ目の前の空間に手を伸ばした。
すると、そこには見えない壁が存在してパッシアさんまで手が伸ばせずにいた。
「で、できた…。」
「ほら、簡単でしょ?これからは基本の魔法から教えて行って最終的には戦いにも生かせるようになってもらうわ。」
「はい!よろしくお願いします!」
ゴンッ
私は元気よく返事をすると、お願いするために頭を下げた。が、目の前に見えない壁があることを忘れてて、そのまま壁におでこを激突してしまった。
その様子にパッシアさんは大笑いした。




