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あの夏の暑さが狂わせた歯車

作者: 落武者様

困った時、僕を助けてくれるのは突然現れるヒーローでもなく、いつも仲間を大事にする少しヤンチャなクラスの人気者でもなく。

母親だった。



夏の時期決まって昼ごはんが食べられなくなる・・・。

世間では夏バテとか言うんだっけ?

お昼を一緒に食べる友達のいない僕には悲しくも丁度いいのが夏の季節だ。


ひとりで食べるご飯が問題では無いのだけど、暑くてダメなんだ・・・とばかりに机に突っ伏してふて寝をキメ込めばいい。

もうそれで別にいい。


帰るか・・・。

授業も終わりほぼ誰もいなくなった教室

寝たフリからのガン寝に変わって誰も起こさずこんな時間


腹減った・・・


今日もほぼ口を開かなかった・・・


寝てるのに先生が起こしもしないってどうなってるんだ!


どんどん愚痴っぽくなる気持ちと空腹が重なって泣いてしまいたくなる。

もういいかな、誰もいないし

死に場所ならぬ泣き場所を探そうと心に決めた時

巻き込まれるのだ。

だから嫌なんだ夏は。




「ハッハッハッハ美食家と書いてグルメと呼ぶ!そうわたくしはグルメビダンシ!」



真っ黒のタキシードに真っ黒のシャツに真っ黒のシルクハットに花柄のステッキ

美少女漫画の主人公!?

と思うレベルの眼球の大きさの少し日焼けしたイケメン感ある輪郭

これが絵だったら良かったのかもしれない。


グルメビダンシは腰をクイクイ動かしながら謎のダンスを踊っている。

大きな目でこちらを凝視しながら。



ヒーローが駆けつけるのは初回無料分だけだ、怪人も初回は手緩いのが来る。

怪人はもちろん欲しいものがあってそのせいで怪人になる。

ヒーローも似たようなものだ、お金が欲しいわけじゃないことにはなってるが現物か現生か。


グルメビダンシはシュタッ!と音を立ててぼくの目の前に跪いた。

「わたくしは欲しています!美食を!世界が壊れるほどの美食を!」


目が怖いので目を合わせないようにしつつカバンを探す。

昼に食べなかった弁当を取り出す。

大きな目がギョロリと弁当の包ごとの弁当箱を見つめる。


「ぼうやはわたくしに挑戦するというのかい?」


なんでもいいから食ったら帰ってくれ。

さすがに声に出したらなにされるかわからないので。

うつむき加減て頷いて見せた。



いそいそと弁当箱を開けるグルメビダンシ

輝いて見えた大きな目が瞬間死んだ目に変わる。


いいんです、無理しないでも。

少しついてきてくれれはコンビニでお菓子買うんで、あ、暑いからアイスにするんで・・・。

どあせならそっち食べません?


僕が発したその言葉にかなり揺らいたと見えるグルメビダンシ

涙目になりながらも怪人の意地を見せるつもりらしい。

「わたくしを侮ってはなりません!超えた先に美食があるのです!!」


かっこんだ。

勢いよくかっこんだ!


鼻をつまむとかじゃなく流し込む感じに。

とこからか取り出した2リットルのペットボトルのお茶で流し込みつつ完食なされた。



僕は心底思った。

グルメビダンシありがとう!!

これで帰ってから母さんが悲しまずに済むよ!!!



綺麗に食べた弁当箱を返してきた。

大きな目だから普通より大粒の涙なんだなぁ。

美食・・・美食・・・

フラフラしながら去っていく。




なんかいい事した気がしながら家路につく。


お弁当を残さず食べたことを嬉しそうに喜ぶ母。

罪悪感は無くはないが、手をつけない罪悪感と誰かが食べたのを黙ってる罪悪感どっちがいいかはなんとも言えない。




今日もやめとこう・・・。

昨日に続きふて寝からの放課後放置されコース。

もうヤダ人間なんて誰も信じない・・・。

弱音も泣き言もそっと沼に沈めてしまおう・・・。


そんな思いででくわす昨日の怪人


少し、少しだけ期待していたりもした。

僕にとってはヒーロー有り得るその人

グルメビダンシ!!!


動揺が見て取れる後悔すらも感じ取れる。


口を開かせる前に差し出す弁当箱

10秒くらいして震える手で受け取る

そして、かっこむ!ながしこむ!



こうして、今日も明日も明後日も僕の平穏はグルメビダンシに守られた。

よく分からないけど時間帯とか場所帰ればいいのに・・・。


2週間続いた頃、最悪の暑さが襲ってきた、更に、教室の冷房がぶっ壊れもうどうしょうもない暑さ。

寝たふりとかそんなのできるレペルでなくもはや気絶してたんじゃないか?

と思うけど結果放置されてる放課後。


もついいわしぬ!俺もう死ぬ!


そんな勢いで弁当箱を引っさげて歩くと

いた!ヒーローいたー!

母さんがニコニコしていられるのはこの人のおかげ!


ザンパンダンシさん!!!


つい声に出る。


「グラメビダンシだ!」


ニコニコの僕から差し出されたやたら温かい弁当を受け取る。

この人、暑さでやられたのかもなぁ・・・。

もはや何故食べるのかわからないが、嗚咽混じりでながしこむ。


差し出す弁当箱


いつも通りの見事な食べっぷり。


少しだけ、足取りがおもくみえた。



今日も嬉しそうな母、残さず食べるなんて偉いぞー!

今日はテンションが高い、抱きしめられたりした。

反抗期じゃないから抵抗しないけど歳を考えてくれよ・・・。



夕方のニュースにはヒーローの活躍も出てたりする。

難攻不落の強敵グルメビダンシ毒殺される!

なかなか、刺激的な字面が並ぶ。


えっ!?

ザンパンさん倒されたの!?


司法解剖の結果、凶悪な暑さでいたんだと思われる何かを食べたからだと推定される。




ドアを叩く音とともにインターホンがなる。

ヒーロー協会のものです!


もしかして!?お弁当食わせ続けた僕が倒したことになるのか!?


ドキドキしながら応接した母を見に行く。


お母さん、貴女は素晴らしい功績を残しました!

あの強敵グルメビダンシを倒したのです!

この功績を称え今この瞬間から貴女はヒーロー


毒殺ママ

必殺技:腐った弁当


と任命します!!!



わー!わー!


賑やかな歓声


暑さが無くなるまで続く毒殺ママの必殺腐った弁当



粗熱とってから閉じてよ・・・


作って熱々で閉じ込めるからこんなことになるんじゃないか!




グルメビダンシを名乗り

いつしか怪人にまでなったのは母のせいだった。

ヒーローになっても腐った弁当を作り続けた母にわからせてやるために!!!

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