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私のうたは岩をも砕く  作者: つむつむ
2/4

1.生まれた世界は

出来る限り、火曜と土曜の週2で更新していこうと思います。

よろしくお願いします。

家で歌おうとしたらお母さんに怒られた。うるさいとかじゃなくて、危ないって。


フォルティス王国の小さな町クレス。

そこで私の第二の人生は始まった。

名前はシャリーサ。

父のヴェルラード、母のミレッタ、双子の妹のレディアに可愛がられて育った。前世では家族相手にも心を閉ざしていた私だけど、町の皆に慕われ、家族にも優しく接する父、たまに厳しいけどいつも笑顔で朗らかな母、小さい頃からいつも一緒で、すごく懐いてくれている妹のお陰で、心を開いて毎日を楽しく生きられている。


5歳になったある日、レディアと一緒にお母さんのお手伝いをしていた。私はご機嫌で、鼻歌を歌いながら。包丁が野菜を切るザクザクって音、鍋のお湯が沸騰するボコボコって音。外からは鳥や虫の鳴き声、更には近所の子供達がチャンバラごっこをしている声が聞こえる。そんな音を聞いていると、楽しくなってきて、気付いたら歌を口ずさんでいた。仕方がない。今も昔も、私の心を表現するのは歌だ。気分が高まれば歌いたくもなる。

だけど歌い始めて暫くすると突然、窓ガラスが割れた。

「何やってるの!」

いつも笑顔で優しいお母さんが、血相を変えてこっちに来た。

「怪我したらどうするの、危ないでしょ!というか、誰に教わったの?!」

何を怒られているのか分からない。怪我をする事など、私は何もしていない筈だ。


何も分からないままその場は収まったが、その後も似た様なことが何度かあってようやく気付いた。

どうやら、お母さんは歌を歌う事が危ないのだと言っているらしい。

…意味が分からない。危ない?どこが。少なくとも私の前の私はずっと歌ってたし、そもそも歌手なんて職業があったぐらいだ。

学生なんて暇ならカラオケに行ってたし、人生で一度も歌った事がない人なんてまぁいないだろう。


「歌を歌うのがどうして危ないの?」

ある日、いくら考えても分からないからお母さんに聞いてみた。

しかし、「うた…?シャリー、何を言ってるの?」

と逆に聞き返された。

暫く問答をして、ようやく理由が分かった。どうやら、この世界には【歌】というものが存在しないらしい。そしてお母さんは、私が歌っていたのを魔法の詠唱と勘違いしたようだった。


…どうしてこうなった。

私が望んだのはただ一つ、自分の声で歌を歌う。それだけだった。

しかしこの世界では、少なくとも私の家族が知っている限りでは、歌という概念そのものが無いらしい。それこそ、鼻歌すらも存在しない。言われてみれば確かに、この世界に生まれて一度も誰かが鼻歌を歌っているのを聞いた事がないのに気付いた。


しかしながら、歌の様に言葉を紡ぐ事も無くはないらしい。

それが、魔法の行使だ。

なるほど。そうなると、お母さんから見れば突然娘が魔法を唱え始めたように見えたのか。確かに危なそうだ、うん。


…どうしてこうなった。

これじゃ、自由に歌が歌えないじゃない!

私にとって歌は生活の一部。なんなら前世では生きる意味だった。

昔と違って今は暖かい家族に囲まれて生活に不満はないし、むしろ恵まれていると思う。十分満たされているから、歌で吐き出す必要もない。だけど、歌えないのなら仕方がないと、あっさり割り切れる程度の思い入れではない。どうしたものか、どうすれば歌を歌えるのかを悶々と考え続けた末に辿り着いた結論は。

「魔法使いになれば、歌を歌えるじゃない!」


そう、ここは所謂ファンタジーの世界。一家に一つは剣が置いてあり、生活のあらゆる場面で魔法が使われているらしい(私たち家族が住んでいるクレスでは、魔法が使える人が少ない為魔道具が使われている)。だったら歌云々抜きにしても、将来の為を思って魔法の練習をする事自体は何もおかしくはない。

さっそく両親に頼んで、魔法の本を買ってもらった。小さな町だから1冊だけ、しかも超初級魔法の詠唱と、申し訳程度に魔法の基礎について書かれているだけだが。

それを持って、魔法を使っても危なくない川のほとりで毎日朝から夕方まで魔法の練習に励んだ。


2年が経ち、私は少しだけ魔法が使えるようになった。暖炉に火をつけたり花に水をあげる程度だが。それにしても、思っていたより魔法を使うのは難しい。

本によると、魔法は頭でイメージした事を声に出す事によって、より具体的に想像・アウトプットする。そこに魔力を乗せて形成されるらしい。

そのイメージに気を取られて歌を歌うへの意識が疎かになったり、その逆もあったりで苦戦している。

その時の気分で歌ってたから、決まった呪文があるっていうのにもなかなか慣れないし。

因みに、イメージが強固で声無しに魔力をアウトプット出来るなら、無詠唱で魔法を使うことも可能だとか。イマイチ理解が出来てない私には無理だろうけど。私に比べてレディアは、私の練習について来てたまに一緒に練習しただけなのに、私よりも魔法がうまく使えるようになった。今では本に載っている殆どの魔法を使う事が出来る。一度コツがあるのか聞いてみたら「火の魔法の時はグワーっていうか、ボーってイメージしたらやりやすいよ!」との事。超感覚派みたい。まぁ私も歌う時は理屈とか抜きに、歌いたい様に感情のままに歌ってたからそっち寄りなんだと思うけど。

しかし、自分より魔法が使えない姉を見ても馬鹿にしたりせずに慕ってくれて、本当に良い妹を持ったと思う。


日が暮れてきたから今日の練習を終え、レディアとともに帰路に着く。

家の近くまで来ると、お父さんとお母さん、それから知らない声が外まで聞こえてきた。家の外まで聞こえるくらいだ、随分盛り上がっているのだろう。

「おお、おかえり。シャリー、レディ。」

「おかえりなさい。」

家に入るとドアの開く音で気付いたのか、いつものようにお父さんとお母さんが迎えてくれる。

それにつられて、2人と話していた男性もこちらを向く。

お父さんとお母さんと同い年くらい、30手前くらいだろうか。身長はお父さんよりも少し高い。やや垂れた目からは優しげな印象を受ける。


「2人がヴェルとミレッタの娘さんか。

どうも初めまして。俺はカイル、お父さんとお母さんの古い友人だよ」

柔和な表情で自己紹介をされた。普段は人見知りで(というか前世を引きずって)警戒してしまうが、この人は大丈夫だと思わせるような、そんな独特な雰囲気を持っている。

「はじめまして、シャリーサです」

「レディアです」

お陰で、私もレディアもすんなりと挨拶が出来た。

「ちゃんと挨拶が出来て偉いね。お前の子供とは思えないな、ヴェル!

さてはミレッタの方に似たのか?」

お父さんの肩をバンバン叩いて、すごく楽しそうに言う。

「うるさいな、俺だって成長したんだよ!

なぁミリィ、なんとか言ってやってくれよ」

「そうね、2人とも私がしっかり育ててますから!それはそうと2人とも、手を洗って来なさいな、終わったらご飯の用意を手伝って頂戴」

「「はーい」」

返事をして、台所に向かう。

後ろからは、いじけるお父さんの声とカイルさんの笑い声が聞こえて来た。


「お前たち、学校に行ってみたいか?」

「学校?」

夕食が始まって暫くして、お父さんが突然聞いて来た。

「そう、学校だ。実はこのおじさんは学校の先生でな。もしお前たちが入学したいなら、連れて行ってくれるらしい。」

「学校ってなにー?」

レディアが聞く。そう言えば、この世界に来てから学校の事を初めて聞いたな。

私たちより少し歳上の村の人達もみんな親の手伝いをしているから、この世界には無いんだと無意識に思ってたけど。

レディアの質問に、カイルさんが答える。

「学校っていうのはね、君たちくらいの年齢の子供たちに、この世界の事や歴史、野営のやり方、魔法や剣の使い方なんかを教える場所だよ。

もし大きくなって騎士や魔法使いになりたかったり、王都で働きたかったら学校を卒業した方がいいかな。もちろん、この町で働くにしても、通っておいて損はないと思うよ。」

学校か。前世だとあまり良い記憶は無い。何なら途中から不登校だったし。

けど、魔法を教えてくれるのか。独学だと行き詰まってるし、少し興味はあるかなぁ。

「私は少し興味あります。レディアはどう?」

「うーん、分かんないけどお姉ちゃんが行くなら行くー!」

「そうかそうか、分かった。歓迎するよ。

この2人の子供だし、もうその歳で2人とも魔法を使えるって聞いてるから楽しみだ。

3日後に出発するから、準備は済ませておいてくれ。

あぁ、それと入学式の前日にクラス分けの試験があるから、そのつもりで」


すんなりと入学が決まった。

それにしても、準備って何がいるのかな?

この辺には学校は無いし、もしかして結構遠い?それに試験って何をするんだろ。

その辺を聞こうとしたが、気付いたらカイルさんは夕食を食べ終え、長居しては悪いと取った宿に帰る事になってしまった。

聞きそびれたけど、まぁいっか。どうせその時になれば分かることだし。


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