表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/53

30.黒王子の意外な顔

王宮で暫く過ごすうちにミラが感じたのは、エドガー王子は随分と気さくな王子様だと言うことだった。


彼は彼方此方で声をかけられるし、こちらからも声を掛ける。

王宮内を一緒に歩いていると、そういう場面のよく出くわすのだ。


例えば年配の明らかに体格の良い老人達に、エドガー王子はよく絡まれた。

詳しい階級は分からないが、軍服にたくさん勲章が付いていたり、やたらに線や星が入っている人が多いので、騎士団とは普段無縁と言っても良いミラにも、彼らがとても偉い人達だと言う事だけは分かる。

それから眼鏡をかけた無表情の文官たちに、呼び止められることもある。

こちらは多少苦々しい顔で苦言を呈したりもするのだが、エドガー王子は気を悪くする様子もなく通常運転で聞き流している。その後は相手も結局言うだけ言って気が済んだのか、仕方がないと肩をすくめて立ち去って行く。特に仲良くしているわけではないのに、そこになんとなく親しい人間だからこそ醸し出されるような雰囲気が漂っていた。

それから王族の世話をする侍従やメイドたちとも。

彼らに対して、エドガー王子は世話をしてもらうたびに、ちょっとした気遣いや手際の良さを褒めたりするのだ。時には軽口を聞いて、場を和ませたりもする。そのたびに、基本表情を崩さない教育を受けている彼らの雰囲気が柔らかくなるのを感じた。

掃除のメイドや厨房の料理人、泥仕事をしている庭師や馬丁まで声を掛けるものだから、彼女は驚いた。マルメロ伯爵家で、ミラ達が使用人に接するのとあまり変わらない態度だからだ。


以前はピンと来なかったが、女学院に通って経験を重ねる中で、彼女はマルメロ伯爵家の常識が世間の常識ではないと知ったのだ。


カレン達の取り巻きが「使用人は家具と一緒だ」とか「平民とは、直接口をききたくない」と言っていたのを耳にしたことがある。

そこまでひどくなくても、使用人とは一線を引いて付き合っている人間が多いのだと、学院内の貴族や平民と接するうちにミラは学んだのだ。実は平民の友人であるアグネスからも、酷い話を聞いたことがある。

必ずしも全てと言うわけではないが、王都に近い領地で、身分が高い人間にそういう傾向が強くなるようだ。これは友人の貿易商を営む裕福な男爵家の娘である、ユミルに聞いた話だ。彼女や彼女の両親は幅広い人脈を持ち、いろんなタイプの人間と顔を合わせているので自然にそういった知識が身についたのだと言う。


だから、この国で一、二を争うほどの高貴な血筋の王子が、貴賤に関わらず気さくに接しているのが本当に意外だった。

更に言うと、それぞれの名前もだいたい覚えているようだ。

ものすごい記憶力だと思う。それに新顔を見掛けると、彼は自分から話しかけて名前を聞いたりもしているようだ。新人の若い文官などは、麗しい高貴な身分の王子に面と向かって名前を尋ねられ、緊張のあまり顔を真っ赤にして口ごもったりしていた。


エドガー王子が半分平民のミラと婚約する、などと言い出した時は、彼女は国家魔術師の描く魔法の、威力のすさまじさにおののいたものだ。

だがどうやら、エドガー王子は元から平民と貴族の垣根に抵抗が少ない人間なのかもしれない……とここにきて、ミラは思い始めていた。




そしてある日のお茶会の時、不敬にもミラはその疑問を直接相手にぶつけたのだ。

すると、こんな回答が返ってきた。


「貴族と平民……? 私から見れば、貴族であろうが平民であろうが、自分より身分が下な事に違いはない」


つまりミラに対して強引な、と言うか傲慢な態度を取るのも、ミラが『半分平民だから』と言うより『自分の方が偉いから』で―――平民だろうが貴族だろうが、エドガー王子にとって相対する人間は皆、自分より下の身分であり違いはないのだと言う。


随分不遜な物言いに聞こえるが、ミラは今までのようにその言葉を『性格が悪い!』と断ずるのを躊躇ってしまう。


だいたいそうは言っても、彼は自分より年上の人間や騎士団の上役のような人物に対しては敬意を含んだ態度を自然と取っているし、王子の目の前で緊張してもたついたり、うっかりミスをしてしまった使用人に対して鷹揚に接しており、苛立ちを露わにすることはない。それを、ミラは目の当たりにしてしまったのだ。


もしかしてお父様は、こういう王子の気質を知っていたのではないかしら?


と、ミラはふと考えた。


だから、エドガー王子の急な縁談の申し込みに対しても、否定的な対応をしなかったのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ