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花降る街・07

 ベイルさんの術で〈ヒラソール〉の裏庭に戻ると、そこではヒメナさんとテオドロさんが待っていてくれた。私もあちこち怪我していたし、ベイルさんは右腕がひどいことになっている。現れた私たちを見ると、ヒメナさんは泣きそうな顔になってしまった。

「ああもう、やっぱりひどいことになってるじゃない! すぐに手当するから」

「あ、私よりベイルさんの方が」

「人より自分の心配をしろ」

「そうよ、そもそも何でナオが怪我してるのよ! 隊長、護衛役でしょう!? 何してたのよ!」

「まあまあ、それは俺たちがとやかく言うことじゃないよ。準備はしてありますから、とにかく中へ」

 テオドロさんが先頭に立って、一列で裏口へと向かっていく。私も自分で歩こうと思って、下ろしてもらおうとしたのだけど、

「あの、私、歩けます」

「下ろす手間が面倒だ」

「どっちもつまんない意地張ってんじゃないわよ」

 そんな会話の後、私はベイルさんの腕の中からヒメナさんに抱き上げられて、結局自分の足で歩くことのないまま、建物の中へ、そして食堂へと移動することになった。

 食堂の中はしんと静まり返って、誰もいない。大きなテーブルの上には、包帯や薬が山のように積まれていた。私とベイルさんはお互い背中を向けるように、テーブルの両端に座らされ、

「さあ、ナオ! 服を脱ぎなさい!」

「ヒメナ、もう少し穏便にというか、もうちょっと包み隠そうか。いろいろね」

「この状況で穏便も何もあるもんですか!」

 ぷりぷり怒るヒメナさんは、そう言いながらも丁寧に私が服を脱ぐのを手伝ってくれた。血で傷に貼りつきかけていたところを剥がすのなんて、一人だったらかなり痛いことになっていたに違いない。

 ヒメナさんはこうした手当にも慣れているのか、血を拭いて傷を綺麗にして、薬を塗ったり包帯を巻いたりしてくれる手つきも素早かった。

「あら? ナオ、これあなたの故郷の風習か何か? 左手と、左肩と、左胸」

 肌の上に浮かび上がった三つの紋様が、細い指で順番に示される。

「花と、蔦と、茨かしら」

「あ、はい……そんなところです」

 曖昧に打った相槌に「そうなの」と頷くヒメナさんから、新しい服を受け取って着る。

「傷の数は多いけど、幸い深くはないわ。でも、しばらくは安静にしていた方がいいわね」

「分かりました」

「そう言えば、素性をまるで聞いていなかったけど、ナオ、あなた一体これまで何をしてたの? 随分と傷跡が多いわ」

 ヒメナさんが顔をしかめる。私はなんて答えればいいのか分からないまま、また曖昧に笑った。

私が取り戻したのは記憶で、つまりは過去そのものだ。忘れていたことを思い出したのと同じように、見えなくなっていた傷も戻ってきた。

 例えば、右腕のいびつな傷は魔物に噛まれた時のもので、左脇腹の切り傷はナタンさんとの鍛練の最中に受けたもの。そうやって、昨日まではなかった傷が、あちこちに顔を出していた。

「ヒメナ、余計な口を挟むな」

 ヒメナさんは何か言いたそうにしていたけれど、テーブルの向かい側から声が飛んでくると、唇を尖らせて肩をすくめた。分かったわよ、と不満そうに呟く。

「それで、テオ、隊長の方はどう?」

「数は多いし、そこそこ深いけど、まあ問題はないかな。隊長、自分で治しました?」

「直生がやった」

「へえ、そうだったんですか。ナオちゃんは、癒術師でもやっていけるかもしれないね」

 朗らかに掛けられた声に、何だか少しむず痒いような、居心地の悪いような気分になる。

「いえ、そんな、大したことじゃ……」

「なあに? もっと自信を持ちなさいよ」

 ばし、と背中を叩かれた。い、痛い……。

「ヒメナ、乱暴するなよ。それにしても、隊長がこれほどの傷を負うなんて……相当に手強い相手だったんですね」

「それなりにな」

「早く他の護衛の方と合流できればいいですね。――さて、これで全部終わりましたよ」

 そりゃどうも、と答える声に重なって、衣擦れが聞こえる。音が止むと、今度は足音がした。ヒメナさんが「はいはい、邪魔者は退くわよ」と言って、席を立つ。足音は、私のすぐ近くで止まった。

「調子はどうだ」

「今のところ、大丈夫そうです」

 振り返って答えると、ベイルさんは「そうかい」とだけ口にした。顔についていた血も綺麗に拭われて、もういつも通りの様子に見える。左胸の茨について訊かれるかなと思ったけれど、それもない。

 それを喜んでいいのか悪いのかはともかくとして、少しほっとしてしまったのも確かだった。あれが何なのかは、私にも分からない。質問されたとしても、答えることはできなかっただろうから。

「なら、上に戻るぞ」

 そう言って、ベイルさんが右手を差し出してくる。包帯だらけの、傷ついた手を。

 きょとんとして、その手を見返す。

「一人で立って、歩けるかい」

 そうして投げ掛けられたのは、また冗談なのか本気なのか、ちっとも分からない言葉だった。からかわれているのか、心配してもらっているのか。

 頭の中でいろんな考えがぐるぐる回って、一周する頃には、飛び上がるように立ち上がっていた。傷が痛んだけど、そんなことも気にしていられない。

「だ、大丈夫です!」

「そうかい。まあ、無理はするな」

 手を下ろしたベイルさんは、食堂の出入り口へと歩き出す。私も立ち上がった流れでヒメナさんとテオドロさんにお礼を言って、食堂を出ようとすると、今度はテオドロさんが「隊長」と呼んだ。

 廊下に踏み出していたベイルさんが足を止めて、肩越しに振り向く。何だ、と低い声。

「もうじき夜が明けます。食事はどうなさいます?」

「任せる」

 その返事はどこか放り投げるみたいで、ベイルさんらしくない答え方のように思えた。今まで、そんな風に受け答えしているのを聞いたことがない。

 分かりました、とテオドロさんが答えるのを聞きながら、ベイルさんはまた歩き出す。その後ろにくっついて廊下を進んで、階段を上っていく間も、何か明確におかしなこととか、変わったことが起こった訳じゃなかった。でも、何だか引っ掛かる。

 そんな落ち着かない気持ちのまま、三階の部屋の前に到着してしまった。扉の鍵を開けて中に入って、また鍵を閉め直す。ベイルさんがそうしているのを横で見ながら、私は心を決めて声を上げた。

「あの」

 すぐ傍で、藍色の目が私を見た。言葉はなくて、代わりに小さく首を傾ける仕草が、何だと訊き返しているようだった。

「ベイルさん、やっぱりすごく疲れてますよね? 私は、その、本当にそんな疲れてませんから、しばらく起きていても大丈夫だと思うので」

 言いながら、じわじわ目線が外れていく。生意気なことを言っているのは自分でも分かっていたから、余計に正面から見ていられなかった。

「頼りにならないとは思いますけど、でも、エンデもいるので、そこまで役に立たないってこともないと思うんですけど……。ええと、それで、とにかく、見張ってますから、ゆっくり休んで下さい」

 思い切って言ってみたけれど、返事はなかった。沈黙が気まずい。余計なことを言って、怒らせてしまったかな。それとも、馬鹿なことを言ってるって呆れられた? あれこれ考え始めてしまうと、余計に怖くなった。それでもいつまでも逃げている訳にはいかないから、そうっとベイルさんへ目を戻す。

「!」

 そうして、ぽかんと口が開いた。エンデに『口が開いているぞ』と言われて、慌てて掌で隠す。

驚いた。その一言だけじゃ表現しきれないくらい、びっくりした。だって、私が見た時――ベイルさんは本当に今まで見たこともなければ、想像したこともない顔をしていたのだから。

 驚いたような、困ったような、複雑そうで何とも言えない表情。そんな顔で藍色の目を緩く見開かせて、私を無言で見下ろしている。

「その、変なことを言ってすみません……」

 もしかしたら、生意気とか馬鹿なこととかいうレベルじゃなくて、それよりももっと、物凄くおかしなことを言ってしまったのかもしれない。

 がっくりと肩を落として言うと、

「……いや。こっちこそ、悪かった。護衛対象に心配されるようじゃ、世話がねえな」

 大きく息を吐いて、ベイルさんは左手で髪を掻き上げた。何だかやつれて見える気がするのも、もしかしたら気のせいなんかじゃないのかもしれない。

「ああなると、少し消耗が大きくてな」

「どこか痛かったり、苦しかったりしますか?」

「いや、それはねえ」

 ベイルさんは首を横に振る。きっぱりと、それ以上の質問を拒むみたいに。

「少し休めば回復する。だから、お前も休め」

 言い終わると、ベイルさんはベッドの方へ歩き出した。その足取りは確かで、私の心配なんて杞憂だったんじゃないかと思えてくるくらい。

 ……でも、最初の質問について、ベイルさんは否定しなかった。それはやっぱり、すごく疲れているということなのだと思う。それを「どうして」なんて言ったりはしない。理由なんて分かりきってる。

「あの姿」になったから。まるで人間じゃないみたいな、あの。思い出すだけで、ぞわりと背筋に嫌な感じが蘇る。本当に、何だったんだろう。

『ナオ、そなたももう休め』

 悶々とした思考を断ち切るように、エンデが言った。

『うん、そうする。――そっちは、大丈夫?』

『そなたの対処が素早かった上に、地竜の助けもあったのでな。事なきを得たぞ、心配はいらぬ』

 そっか、と答えて、私もベッドへ向かう。お互いに話したいことがあるのは分かっていたけれど、今はぐっすり眠りたかった。



「風が、止む?」

 パンをちぎりながら声を上げると、早くも食べ終わって新聞を広げていたベイルさんが小さく頷いた。

 ナタンさんとエジードさんと戦ってから、今日で二日が経った。怪我の経過も良好で、テーブルの向かいに座るベイルさんの顔色も、一昨日と比べるとすっかり良くなっていた。ただ、念の為に大事を取って、部屋でご飯を食べる日が続いている。

「ナタンの奴が散々魔力を引き出した影響だろうな。予定よりかなり早く、街の外へも出られるようになるそうだ。領主はどうしてそうなったかの事情を知りやしねえから、何の天変地異かって大騒ぎしてるらしいが。――それでも、とりあえず祭りは予定通りの期間で行うことに変わりはねえらしい」

「あれ、そうなんですか」

「今更予定を変えるってのも、方々で障りが出るんだろうよ」

「じゃ、じゃあ、ちょっと見に行くことも――」

「傷が良くなったらな。早くても明後日」

「うっ……。了解……です……」

「物分かりが良くて、大変結構」

「でも、もうあんまり痛くないので、大丈夫かなー、なんて」

 などと言ってはみるものの、即答で「却下」の二文字が返ってきただけだった。厳しい。

 部屋の中にいても、お祭りの気配は届いてくる。窓を開ければ、明るくてテンポのいい音楽が聞こえてくるし、どこかで撒き散らされた紙吹雪が風に乗って吹き込んでくることまであった。極め付けが、屋台で売られているらしいお菓子の甘い匂い!

 これまでも何度かアンジェリカやジョージナさんがお土産を持ってきてくれてはいたのだけど、やっぱり自分で行ってみたいという気持ちは抑えきれない。

 そわそわしながら、ちぎったパンを食べる。ふかふかのパンは美味しいけれど、やっぱり外のことが気になってしまう。どんなお菓子があるんだろう。

「退屈だろうが、明後日までのことだ。大人しくしてろ」

「はい。あ、いえ! 退屈はしてないですけど」

 そう答えた途端、ベイルさんが新聞を読んでいた目を上げて私を見るので、疑われている訳でもないだろうけど、「ほんとですよ」と重ねた。

「いろいろ教えてもらってますし」

 この二日間はお祭りを見に行くことができないどころか、怪我をすごく心配してくれているヒメナさんの目が光っていて、ほとんど部屋の外にも出られずにいた。部屋の外にも出られないとなると、さすがに時間の使い方に困ってしまう。

 そこで、ベイルさんによる魔術講義が始まったのだった。昨日は精神感応魔術を教えてもらった。

「ところで、ベイルさんは具合、どうですか?」

「お前よりはいくらか長引くが、問題はねえ」

 傷以外は万全だ、とだけ付け足して、言葉は途切れる。それ以上の答えはなく、つまりは訊いて欲しくないということなのかもしれない。そう思うと、更に重ねて質問するのもどうかという気がしてしまう。

「それなら、よかったです」

 結局、そう答えることしかできなかった。



 傷が治ったという診断が出たのは、ベイルさんの予想通りに戦いから四日目のことだった。朝一番でヒメナさんとテオドロさんが様子を見に来てくれて、これならもう大丈夫、と太鼓判を押してくれた。

 私も包帯を取る時に見てみたのだけど、傷はすっかり塞がって、もう薄く跡が残っているだけだった。ヒメナさんが何度も治癒魔術をかけてくれたお陰だと思うけど、それにしてもこんなに早く綺麗に治るなんて驚きだ。逆に、ニーノイエにいた頃の、ちゃんと手当もできなかった頃の跡の方が目立つくらい。

 ベイルさんの方も無事に治っていたみたいで、テオドロさんとヒメナさんは私たちの回復を自分のことみたいに喜んでくれた。そうして、せっかくだから、と四日ぶりに食堂で皆とご飯を食べることになった。

「あ、こら! 独り占めしないの!」

「姉ちゃん、それ取ってー」

「それってどれ? これ?」

「ちょっと! 嫌いなもん人の皿に入れんなよ!」

 朝の食堂も、お昼や夜と同じで賑やかだ。

 カサノーバ家の子供は七人で、女子が四人、男子が三人。ジョージナさんを始めとして女の子たちとはよく話をするけれど、男の子たちとはほとんど関わりがない。一度だけ長男で同い年のコーディ君と喋って、それきりだ。人見知りなのかもしれない。

 そんなことを考えながらパンを食べていると、右隣に座っているジョージナさんに「ナオ」と呼ばれた。

「もう今日から外出できるのよね?」

「あ、はい」

 ヒメナさんが大丈夫だと言ってくれたので、一応、そのはずだった。口の中のパンを飲み込んでから頷くと、ジョージナさんは私を見てにっこりと笑い、

「それは良かったわ! 母さん、準備できてる?」

「当然じゃないの。この日の為に、抜かりはないわ。あ、先に言っておくけど、隊長の分もちゃんと用意してあるから。逃げないでよね」

「……訊きたくねえが、何をだ」

 低く、重々しく問う声はジョージナさんとは逆の、左隣から。ちらりと見上げると、ベイルさんの眉間には、深々とした皺が刻まれていた。ひええ。

「分かってるじゃない。今日は〈花降(はなふり)〉なのよ」

 にんまり、ヒメナさんが明らかに何か企んでいるようにしか見えない顔で笑う。ジョージナさんも同じ顔で笑っていた。さすが親子……なんて言ってる場合じゃない。なんかこわい。

「ええと、その、〈花降〉というのは」

「アランシオーネは、花降る街。その異名の所以たる行事よ」

「花が降るんですか? この季節に?」

「そうよお。祭りの初日に収穫したものをケラソスに奉納するのだけど、その返礼ってことね」

 ケラソスさんは、街の中心にある大樹に宿る竜だ。その木に花を咲かせて降らせるとか、そういうことなのかな……?

「で? お前は何を企んでる」

「企んでるなんて、人聞きの悪い」

「あー……隊長、〈花降〉の日は、街を挙げて舞踏会が開かれるんです」

「――テオ!」

「話をこじらせても仕方ないだろ? まあ、実際には街中で音楽を流して、あちこちで好きに踊るってだけなんですが」

 取り成すようにテオドロさんが説明するものの、ベイルさんの眉間の皺は消えない。

「生憎と、俺も直生も、この国の文化に詳しくねえ」

「別に問題ないわよ。あっちこっちの国から楽師が呼ばれてるんだから。踊れる奴で踊れば良いわ」

 そうは言われましても、私はこちらの世界のダンスを全く知らないんですけれども――と、言えればいいんだけどなあ……。言えないよね……。

「それに、もう〈花降〉用の衣装は用意しちゃったのよねえ。飛び入りの長期宿泊を特別に受け入れたんだから、これくらいの我が儘、聞いてもらっても良いと思うんだけど?」

「断らせる気なんざ端からねえくせに、よく言うな」

 ベイルさんがため息を吐くと、ヒメナさんはにっこりと満面の笑みを浮かべて見せた。してやったり、みたいな。

「仕方がねえ。直生、付き合ってやれ」

「や、その、でも――」

「あ、大丈夫よ? 着つけも化粧も、私がするから」

 何も心配はいらないわ、とジョージナさんがきっぱり言う。それは確かに頼もしいですけど、でも、それ全くフォローになっていないんですよう! ……ど、どうしよう! ダンスなんて無理!

「で? 踊るにしても、一人じゃ踊りようがねえだろう」

「何言ってんのよ、隊長の分も用意してあるって言ったでしょ。一人だけ蚊帳の外にいようだなんて、許さないわよ」

「知るか。俺は盛装の類が嫌いだ」

「知ってるわよ。だからそこまでゴチャゴチャさせたりしないし、そもそも着るのは昔ながらの伝統衣装って奴だもの。まあ、少しひらひらはするけど」

「戦闘の邪魔になるような服装は御免蒙る」

 相変わらず、ベイルさんはばっさりと切り捨てる。ヒメナさんがため息を吐いて、肩をすくめた。

「本っ当に、強情ねえ。第一、ウチの子じゃまだエスコートは無理よ。隊長なら、ダンスだって無駄にいろいろ知ってるでしょ?」

「無駄な知識はさっさと捨てる主義でな」

「ダンスが無駄だとは一言も言ってないわよ」

「有意義だという意見にも賛同しかねる」

 またもベイルさんがきっぱり言い切ると、重苦しい沈黙が落ちた。二人して一歩も譲らないので、あれだけ賑やかだった子供たちでさえ、いつの間にか静まり返っている。ど、どうしてこんなことに……!

 頭を抱えたいくらい居心地の悪い気分になっていると、不意にヒメナさんと目が合った。その瞬間、私は蛇に睨まれた蛙の気持ちを理解したと思った。理解できてしまったと確信した。

 もちろん、ヒメナさんは笑顔を崩していない。それなのに、こう、何か物凄い威圧感というか、とにかくなんかもうやばいのである。

 ぎらりとした眼光が告げるのは、ただ一つ――説得しろ。

 もういっそ、気絶できるものならしたいくらいだった。私にそんなことができるはずがない。けれど、何もしないでいるのも怖――じゃなくて、良くない気がする。一応、私にも関わる話なのだし。

「……あの、ベイルさん」

 恐る恐る呼びかけると、ベイルさんはこっちをちらりとも見ないまま、「何だ」と言った。

「護衛、してもらえるんですよね、お祭りでも」

「そのつもりだが」

「だったら、ヒメナさんの言う通りにした方がいいんじゃないかなって、思うんですけど。周りに紛れ込めるかもですし、ほら、郷に入っては郷に従えって」

 言うじゃないですか……。

 とりあえず喋りだしてはみたけれど、説得できる自信も、喋っていることに対する自信も、これっぽっちもない。最後の一言は、ほとんど口の中でモゴモゴ言ってるくらいの調子になってしまった。

それでも、ヒメナさんのお役には立てたのか、あの怖い笑顔はもう怖くなくなっていた。

「ほら、ナオだってこう言ってるじゃない。いい加減諦めなさいよ」

 にやりと笑ったヒメナさんが、更に一押し。

 短い間の後、ベイルさんは深い、とても深いため息を吐いた。……拒絶は、もうなかった。

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