プロローグ 女神(笑)は致命的に人選を間違えた
この物語は、退魔師の主人公(と仲間)が異世界と地球で無双しまくる(?)お話です。第一ヒロインは獣耳っ娘確定。
拙い文章だとは思いますが、楽しんで頂ければ幸いです。
目を覚ますと、青空に見たことの無い鳥が……
「これは、参ったな……」
空を見上げて呟く俺の名前は、狐宮 悠一、5017歳。職業は学生と……退魔師。分かりやすくいえば、妖怪や悪魔などを祓う者達だ。勿論一般的な職業ではないが、日本だけでなく世界各地に一定数存在する。知られていないだけで。
年齢がおかしいのには深い訳があるのだが……それはまた今度話そう。
そんな俺が今居るこの山は何処か。
それは……
「ギュァァァァア!!」
ちょっと分からないが、少なくとも日本ではないらしい。
「――うるせぇなぁ!」
苛立ちのままに漆黒のドラゴンへ拳を叩き込む。鳴ってはいけない音が聞こえるが、容赦なく追撃の蹴りを入れた。衝撃を余さず伝えたため、ドラゴンは吹き飛ぶこと無く絶命する。
普通の人間であればおかしな威力。自覚もある。しかし、出来るものは仕方ないだろう。
それよりも、だ。割と力を入れたのに、頭の原型が普通に残ってるぞ? さすがだな、ファンタジー……なんて言ってる場合でも無いか。
「聞こえるか千冬。……おい、千冬?」
勘違いしないで欲しいのは、決して独り言ではないという事だ。まあ、現状は返答がないせいで独り言になってるけどな。
……と思っていると、空間に歪みが生じた。
「ただいまなのじゃー!」
突如目の前の空間から現れ、俺に覆いかぶさる白髪の和服少女……千冬と、何故か見知らぬ少女を連れている。攫ったのか?
「お前は、普通に出てこれないのか?」
頭を軽く叩くと、嬉しそうにデレデレし始めた。お前……そんな趣味があったのか。
「久しぶりのスキンシップなんじゃから、もっと構ってくれていいんじゃぞ?」
「ああ、そういう意味――」
「痛くしてくれても問題ないのじゃ!」
「俺には千冬が分からなくなってきたよ」
暫く会ってなかったのが原因だろうか。最後に直接会ったのは数年前だからな……
「って、今はどうやって顕現してるんだ?」
「うむ。ちょちょいっと女神(笑)から力を拝借してきたのじゃ。そっちの娘っ子は召喚者じゃな」
「ツッコミどころが多すぎる」
千冬は九尾と呼ばれる神だ。九尾と言うからには狐の耳も、尻尾もある。尻尾は九本で、触るとさらさら。
色々あって俺と契約しており、その理由の一つは神力(生命力だと思っていい)が少ないからだ。俺に宿ってさえいれば神力の消費はほぼ無いに等しく、俺の膨大な霊力(魔力の別バージョン的な)を吸収する事が出来る。
今は、それが必要無いくらいに神力が潤っている。神力を溜め込んでいた女神(笑)とやらから盗んできたらしいが、これは大変なことになる気がするぞ。
「はぁ……お前はやらかさないと気が済まないのか?」
「うぐ……つ、つい、イラッとしてやってしまったのじゃ」
「イラッとした……?」
「そうなのじゃ。まず、ここが異世界であることは分かっておるよな?」
「ああ。地球にドラゴンが居たら、人類が終わる。それに、異世界がある事自体は知ってたしな」
尚、行ったことは無い模様。異界ならあるぞ。
そこで5000年も殺し合いを……千冬の話を聞こうか。
「でな、この世界に呼び出したのがこの娘っ子なんじゃが、呼び出す対価は命という風に物騒な感じなんじゃよ」
「……いや、世界を渡る程度なら命は必要ないだろ。精々寿命が数年縮むだけだ」
「妾もそれは分かっているのじゃ。女神(笑)は召喚の対価と称して魂を集めておる。何故疑わぬのかと思えば、女神の加護を受けた人間を呼び出すから……呼び出したそれを勇者と言うらしいのじゃが、今回はお主の学校が丸ごと呼び出されておるぞ」
爆弾発言どうも。(笑)を付ける理由は何となく分かった。それと、俺だけ別な理由も分かっている。飛ばされる直前に千冬が干渉したのが原因だろう。
だが、ある意味良かったかもしれない。死ぬのを分かっていて召喚させたのなら、相当腐っているのは間違いないからだ。少なくとも、信用は出来ない。
「で、お前はいつまで引っ付いているんだ?」
「……力が入らないのじゃ」
なるほど、だいぶ無理をしたのか。
「それなら暫く戻ってろ。聞きたい事はあるが、この子が起きるまでは移動も出来ない」
「それも、そうじゃな……」
そう呟くと、光になって俺の体に吸い込まれていく。正確には千冬から入って来たのだが、傍から見れば吸収しているようにしか見えない。
「……この子も狐か」
千冬はさらさらしているが、こっちはふわふわな毛だ。……勝手に触るのはあれだし、あくまで見た目の話だ。赤みのある金髪、と言えば分かるだろうか? 服は上等な物を着ているし、顔立ちも良い。歳は……13か14程度だな。
そうして少し観察していると、もぞもぞと動き出した。目を開けで暫くぼーっとしたかと思えば、手をかざして目を見開く。
「え……ルウ、なんで生きて……」
「どこぞの女神(笑)から奪って来た」
「っ!? だ、だれ……?」
「狐宮 悠一。君が呼び出した人間の一人。少なくとも敵ではないから安心してくれ」
まあ、無理だろうけどな。
初対面の相手に「安心してくれ」なんて言われても困るだろう。それ以外に言う事が思いつかなかったからな、仕方ないよな? ……うむ。
「……ルウは、ルウ。ゆーいち、ごめんなさい。ルウのせいで、こんな事に……」
……予想を裏切ってあっさり信じた。
「その様子だとやりたくてやった訳じゃないんだろ? 駄目じゃないなら話して貰えないか?」
「……うん、わかった」
この子の名前はルウ、名字は無い……というか、捨てたらしい。どうしてなのか聞いてみると、勇者召喚の件はやはり強制された物だった。死ぬと知っていながら、姉一人と実の父以外は賛成。
何故そうなったのか?
それは、ルウの国が実力主義だったから。
ルウを含めて六人居る姉妹の内、ルウが一番弱い。魔法、イメージと詠唱だけで使えるおかしなものがあり、ルウの適正は回復だけだった。暴力を好まない事もあってそうなったと。
これが普通の家庭ならば、『だからどうした』と笑い飛ばせる話なのだ。だが、ルウはエアフォルク帝国の皇女。皇位継承権やら勇者召喚が皇族にしか使えない等の不幸が重なった訳である。
すると、悔しいのか……あるいは悲しさからか、ぽつりぽつりと話していたルウは涙を流す。
「怖かった……けどっ……ルウの事が嫌いだってっ! ……みんな、そう言ってて……」
自分が弱いから扱いに関しては諦めていた。だけど、本当は皆優しいんだ。……そう思いたかったんだろうな。それが間違いだと知った時はどれだけ辛かったんだろうか。
何も知らない俺には、何一つ理解してやれない。
だから、そっと抱き締めてやろう。
家族の代わりにはなれない。
他人にこんな事をされても困るだろう。
それでも、何かしてやりたかった。
「よく頑張ったな。もう、我慢しなくていい。泣きたいだけ泣いていいから」
「うぅ……あぁぁぁっ――」
顔を押し付けて、今まで耐えてきた分の悲しみを溢れさせる。俺に今出来るのはこうしていることだけ。……少しでも楽になってくれればいい。
――泣きじゃくるこの子を、放っておけない。
女帝なので逆ハーレム状態なんですよね。
名字を捨てたっていうのは、あんな人達は家族じゃないっていう心境からだったり。
次回から始まる一章は、ルウをメインにしたお話です。勇者側も書かないとですね……