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役立たずスキルに人生を注ぎ込み25年、今さら最強の冒険譚  作者: しゅうきち
外伝の章

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一方、その頃 

こちらの時系列は四章で、トールが"白金の焔"と蟻の巣へ遠征中のお話となります。



「ふぅ、すっきりね」


 塵一つない台所を見回して、ユーリルは満足げに頷いた。

 普段から綺麗にしてはいるものの、今回は特に念を入れて掃除したのだ。


 その主な理由となった箇所へ目を向けると、頬が自然と緩んでしまう。

 台所の片隅に鎮座していたのは、昨日、納品されたばかりの新品の焼き窯であった。 

 鉄製の角ばった形状はやや無骨な印象があるものの、両開きの丸い扉がなんとも可愛らしい。

 しかもこの立派な焼き窯には、お邪魔な煙突がついていない。


 なぜなら、魔石を燃料とする魔石窯だからだ。

 あちこちにこびり付く厄介な煤が出ないだけでも上等と言えるのだが、特筆すべきはそこだけではない。

 一番の長所は、魔石の制御により火力が安定したことで温度調整が容易になったという点である。

 従来の薪を使う焼き窯の場合、この辺りの調節が難しく、炎の神ラファリット様に焦がさぬよう怒りをお治めくださいと祈りを捧げても、真っ黒に焼き上がってしまうことが多々あった。

 だがしかし、この新型の魔石窯だとその心配はほぼ皆無となる。


 そんな素晴らしい器具であるが、その分お値段もお高めとなり最低でも金貨一枚からで、これは独り暮らしならぎりぎり一年は過ごせるような額だ。


「ふふ、これもトールさんの後押しのおかげね」


 もともと興味はあったのだが、慎ましやかな暮らしぶりには不釣り合いだと諦めていた品である。

 けれども先日、破れ風の荒野で嵐砂の巨人を討伐した際、多くの金貨を得ることが出来た。

 ただ、それらは本来なら次の探索のための費用となるはずのものだ。


 そう考えていたユーリルへ、トールが提案したのがこの魔石窯の購入である。

 新しい冒険に備えて装具や備品を整えましょうと返したユーリルに、トールは顎の下を掻きながらぼそりと答えてみせた。


「いえ、ユーリルさんの美味しい食事のほうが何倍もやる気が出ますから」


 その会話を思い出すだけで、ますます頬が緩んでしまうユーリルだった。


 このピカピカの魔石窯なら毎朝、焼き立てのパンを提供できるだけでなく、凝った焼き菓子やお腹に詰め物をした鶏の丸焼きさえ出来てしまう。

 ただし、最初に作る料理はもう決まっていた。


 ソラとムーが大好きな甘酸っぱい紅林檎のパイである。

 すでにテーブルにはしっかりと休ませたパイ皮が待ち構えており、レモンやバター、卵も隣で準備済み。

 さらに祭具の氷霜の首鎖も並べておいたので、材料が温まる心配もない。

 後はソラが市場で買ってきてくれる紅く熟れた林檎の到着を待つのみだ。


「そうそう、パイと言えばやっぱり美味しい香茶よね。確か、この辺りに頂き物のとっておきの茶葉が……あら?」


 かかとを持ち上げ戸棚を覗き込むユーリルだが、お目当ての品は見つからなかったようだ。

 

「こっちだったかしら。うーん、ないわねぇ」


 今度は下の棚を探ってみるが、ここにも見当たらないようだ。

 その代わり、予想外の品が見つかる。


「これ、ここにあったのね。完全に忘れていたわ」


 桂皮シナモンの入った壺をテーブルに置いたユーリルは、続いて食器棚の奥へ手を伸ばしまたもや意外な品を探し当ててしまう。

 

「夜食用にこっそり隠していたクッキー! これも忘れてたわ。ちょっと湿気っちゃってるわね」


 肝心の茶葉が見つからず、逆に忘却していた品々が次々と出てくる有様に、ユーリルは小首を傾げながら残念そうに呟いた。


「こんなに見落として、私もすっかりおばあちゃんね」


 そして今の見た目に全くそぐわない発言に気づき、苦笑を漏らすのであった。



              §§§



「おや、ソラちゃん。今日は良い青菜が入ってるわよ」

「いいですね。三束くださいなー。あとその花キャベツも三つ」

「ソラちゃん、ソラちゃん。ちょっとこれ味見してくれねーか」

「前に話してた新作の? うん、おいしぃ! チーズとろとろで最高!」

「なぁ、ソラちゃん、串焼き屋の親父どこに行ったか知らないか? 頼まれた酒が届いてんだよね」

「おじさんはまだ会ってないかなー。見かけたら声かけときますね」


 今日も騒々しい中央広場の屋台を練り歩きながら、ソラは顔馴染の店主たちと次々言葉を交わしていく。

 まだこのダダンの境界街の住人となって半年足らずのソラだが、すでに長年暮らしてきたかのような打ち解けっぷりである。


 もっとも、すぐに人の輪に囲まれてしまうのも無理はない。

 たった数ヶ月で緑樫級(Gランク)から白硬級(Dランク)に四段階も上がった超有望株な新人冒険者な上に、人目を惹きつけてしまう外見。

 その上、気さくで純朴な性格とくれば、人気が集まるのも頷ける。

 

「いらっしゃい、ソラちゃん。今日も何か買ってくかい?」

「うわー、いい匂い! でも我慢、我慢。今日のおやつはユーリルさんのスペシャルパイなんですよ」

「そいつは残念だ、俺もごちそうになりたかったぜ」


 揚げ菓子屋の主人に手を振って、ソラは目的地である果物売りの屋台へ急ぐ。

 ここは誘惑が多すぎなのだ。


 しかし人の波がごった返し、なかなか進むことが叶わない。

 以前、トールに聞いた話だと、内街のお店は売上に税金が掛かるけど外街は場所代だけ払えばお店を開けるらしい。

 だから、その分だけ値段が安くできて、わざわざ内街からもお客さんが来て混み合うんだとか。


 どうしてそんな仕組みかと尋ねると、外街こっちは危ないからなと教えてくれた。

 外壁に押し寄せてきた鎧猪やゴブリンの群れを思い出し、ソラはちょびっとだけ背筋を震わせた。

 まだそれほど時間が経っていないはずなのに、もう何年も前のようにも思える。


「そういえばトールちゃん、ちゃんとごはん食べてるかなー」


 以前なら、ここでついトールの広い背中を探してしまっていただろう。

 けれど、今のソラには遠く離れたトールの身を案ずる余裕さえあった。

 半年前からしっかりと成長しているようだが、本人は意外と気づいていないようだ。


「ソラちゃん!」

「あ、白猫屋のおばさん、こんにちはー」


 考えに耽っていると、またも顔馴染に声を掛けられる。

 今度は行きつけのパン屋の女主人だ。


「うちの仔たち、見なかったかい? さっきから姿が見えないんだけど、まだ幼いから心配でねぇ」

「え、大変じゃないですか!」

「この辺りは隅から隅まで探したんだけ居なくてね。お腹空かしてなきゃ良いけど……」


 急いで周囲を見回すが、人が多すぎてさっぱり分からない。

 女性の顔からは心配が溢れているが、お店が忙しくて離れるわけにはいかないようだ。


「私、ちょっと探してみますね。お名前は?」

「ミィとマァだよ」

「ミーちゃんとマーちゃんですね。ミーちゃん、マーちゃん、返事してー」


 人ごみをかき分けながら、ソラは懸命に子どもを探し始めた。



              §§§



「じゃあ、ばーちゃん、ムーたちもいってくるぞ!」

「ニャ!」

「ニャァ!」


 ぽんと跳びついてきた二匹の猫を背中に掴まらせ、ムーは電気の針を身にまとった。

 とたんに雷獣の革靴が反応し、幼子の体はふわりと地面から浮き上がる。

 軽やかに大地を蹴ったムーは、玄関を飛び出しながら一気に加速した。


 今日の遊び場所は、前にねぐらにしていた路地裏である。

 現在、ユーリルの家近辺を縄張りとする二匹の猫とムーだが、気が向いた時は旧縄張りへ見廻りへ出かけるのだ。

 ただ見廻りと言っても大げさなものではなく、実は猫集会の参加が主な目的となる。

 

 ムーたちが居なくなった路地裏は昼間は日当たりが良いせいか、今日も野良猫たちが多く集まっていた。

 早速、猫たちに混じって近況を会話する。


「みんなげんきしてたかー?」

「ブニャブニャ」

「ニャァ」

「ニャムニャム」


 猫の言葉は半分しか分からないムーだが、みな概ね無事にやっているようだ。

 

「あれ、ぶちねーちゃんは?」

「ブニャニャ」

「お、ひろってもらったのかー」


 鼻が潰れたように低いキジ猫の話によると、二匹の子供と一緒に残飯の美味しい店で世話をしてもらっているらしい。


「ほかにはー?」

「ニャォ!」


 かぎしっぽの黒猫が言うには、トールの代わりに時々、こっそり餌をくれていた若い男が居るらしい。

 

「へー、よかったなー」

「ニャニャニャ」


 でも、こないだ若い女に見つかって怒られたらしい。


「そっかー」

「ニャブゥ」


 年寄りの三毛猫が続きを補足してくれたが、その後、二人で連れ立って来てみんなのうんちとか綺麗に掃除してくれたのだとか。

 それから何回か餌を持ってきて片付けするようになり、なので猫たちは二人を下僕として認定したらしい。


「ふーん、なんてなまえ?」

「ニャ」

「なんとかゴンと、エンなんとかかー。うーん、わかんないや」


 片方は確実に知り合いなのだが、全く気づかないムーであった。


「ほかに困ってることは?」

「ニャッニャッ!」


 最近、黒い犬が流れ着いてうるさく吠えてくるらしい。


「よし、ムーが見かけたらバリバリしておどろかせてやるぞ!」

「ナーオ」

「お、かゆいのか? まかせろー」


 早速、<電棘>を発動する幼子。

 たちまち周囲の猫たちの毛皮の間から、焦げたノミがぽろぽろとこぼれ落ちる。

 ただこの時、ムーは気づいてなかったが、頭に乗せていた受雷の小冠のおかげで魔技の範囲はかなり広がっていたようだ。



              §§§



 一方、その頃、ユーリルは大きな鏡の前で、新しい服に着替えポーズを取っていた。

 外見に合わせて、少し若い服装をしてみてはと思い立ったのだ。

 

「ちょっと……、いえ、かなり際どいかしら」


 一見、普通の白いワンピースなのだが、肩の部分が細い紐だけになっているため胸元から上の真っ白な肌が露わになってしまっている。

 振り向くと背中も大きく見えており、つい気恥ずかしさを覚えてしまう。


「これ、人前に出るのは勇気がいるかも」


 その場でくるりと回ってみるが、風をはらんで広がるスカートと細いウエストの対比がくっきりでこれもまた恥ずかしい。

 胸回りもやや窮屈そうに迫り出してしまい、どうにも体のラインが隠しきれない。


「でも、この家の中だけなら……。慣れるのも大事なことよね、うん」


 前髪を少し持ち上げつつ、まじまじと鏡に映る己の姿を観察するユーリル。

 少しばかり熱中していたせいか、玄関からの物音に気づくのが遅れてしまう。


「おーい、居ないのかい? ユーリル」

「え?」

「鍵も閉めないで不用心だね。少しお邪魔するよ」

「オ、オードル!?」


 不意に訪ねてきた親友のオーリンドールに狼狽えるユーリルだが、手遅れであったようだ。

 その上、自室の扉を閉め忘れていたのも致命的だった。


「なんだ、こっちに居たのか……い……」


 振り向いたワンピース姿の友人を、オーリンドールは目を丸くしてまじまじと見つめた。


「ち、違うの。す、少しイメージを変えてみようかなって」

「ほう」

「なによ?」

「いいね!」

「そ、そう?」


 嬉しそうな笑みを浮かべたオーリンドールの言葉には、からかうような響きはない。

 少し用心しつつ、ユーリルは感想を尋ねてみる。 


「変じゃない?」

「いいや、よく似合ってるよ」

「よかった。それじゃあ、出ていってくれるかしら。あ、扉は忘れず閉めてね」

「なぜ?」

「なぜって着替えたいからよ」

「彼にこれから見せるんじゃ?」

「それはいいの!」


 頬を赤くして急に大きな声を上げたユーリルに、オーリンドールは片目を閉じながら扉を閉めた。

 しばらくすると衣擦れ音が響き、ユーリルが扉越しに質問してくる。


「それはそうと、今日はどうしたの?」

「どうしたのって、こないだお気に入りの茶葉が切れたから、持ってきて欲しいって言ってたじゃない」

「あっ! ああ……そうだったわね」

「台所に置いておけば良い? 何か作りかけのようだったけど」

「久しぶりにパイを焼くの。よかったら食べていく?」

「それは是非とも」


 静かに唇の両端を持ち上げたオーリンドールは、扉の向こうの友人に聞こえないよう小声で呟いた。


「しかし自由な風を楽しんで欲しいとは言ったものの、あのユーリルがあんなに大胆になるとはねぇ……」



              §§§



 一方、その頃、ソラは迷子たちを探して中央広場を離れ、細い路地に入り込んでしまっていた。

 

「ミーちゃん、マーちゃん、どこかなー? いたらお返事してー」

「くそ、こっち来んな!」

「グゥウウ」


 だが、聞こえてきたのは子どもの声ではなく、焦った成人男性と低く唸る犬の声であった。


「あれ? おじさん、何してるんですか」

「ソ、ソラちゃん、良いところに!」

「グルルゥ」


 見ると路地裏の奥に居たのは、顔馴染の串焼き屋の店主だった。

 その手前には大きな黒犬が牙を剥き出し、今にも襲いかかろうとしている。


「むむ、こらー!」


 追い払おうと大声を上げたソラに、黒犬は向きを変え姿勢を低くする。

 そして弱そうな相手だと判断したのか、躊躇なく飛び掛かってきた。


 おそらく、ソラを見た目通りの普通の少女だと侮ったのだろう。

 通常、犬の体格からすれば、大怪我を追わせることなど容易い相手だ。


 だがしかし、半年足らずとはいえその経験はソラに冒険者としての姿勢をしっかり植え付けていた。

 さらに小鬼の洞窟で得た様々な特性もある。


 焦ることなく片足を引き腰を落としたソラは、野菜が詰め込まれた買い物かごを力一杯振り回した。

 花キャベツ三個分の重量が、宙に浮く犬の横っ面へ容赦なく叩きつけられる。


「ギャン!」


 バチンと何かが弾けるような音がして、黒犬の体を紫色の電流が棘のように覆う。

 殴打された犬は無様に地面に転がって、泡を吹きながら四肢を小刻みに痙攣させた。


「今のうちに!」

「お、おう!」


 へたり込んでいた男性は立ち上がると、慌てて駆け出す。

 狭い路地から無事に脱出できた二人は、大きく安堵の息を吐いた。


「はぁはぁ、さすが冒険者様だ。細っこいのに、はぁはぁ、強いねぇ」

「あんなところで何してたんですか?」

「ああ、こいつらが襲われてたんで思わずな」


 そう言って串焼き屋の主人が懐から取り出したのは、愛らしい斑模様の二匹の仔猫であった。

 ニィニィァと舌足らずに鳴いて、男の指に無邪気に爪を立てている。


「痛たたた!」

「ふふ、お腹空いてるのかな」


 詳しく聞いてみると、昨夜呑みすぎた男性は酔っ払ったまま路地裏の奥で寝こけてしまったらしい。

 で、騒ぐ音がして目が覚めたら、この仔猫たちが犬に追いかけられて逃げてきたところに出くわしたとのことだ。

 とっさに懐に匿ってみたが、それ以上は打つ手がなく必死に威嚇していたら、ソラが颯爽と駆けつけてくれたと。


「いやぁ、本当に助かったよ」

「間に合って良かったです」

「で、ソラちゃんはなんであんなところに居たんだ?」

「あ、そうだった! 白猫屋のおばさんの子どもたちが迷子になったって聞いて、探してたんです」

「はぁ? 白猫屋んとこにちぃせえ子どもなんて居ねーぞ」

「えっ!?」

「確か内街でパン屋をやってる息子が一人居るだけのはずだぜ」

「ええええ!」



              §§§



 一方、その頃、ムーは斑模様の雌猫を抱きかかえて塀の上をすいすいと走っていた。


「このへんー?」

「ニャ!」

「あ、犬だ」

「ニャニャ!」


 路地裏で伸びていた黒犬を見つけたムーは、地面に降り立ってつんつんと突いてみる。

 またも紫色の電気の棘に覆われた犬は、激しい鳴き声を放った。


「キャンキャウン!」


 必死に起き上がると、ほうほうの体で逃げ出してしまう。

 後日、猫集会で聞いたところ、それっきり姿は見えなくなってしまったらしい。


「どっか行っちゃったなー」


 そう呟きながらムーがぶち猫を地面に降ろすと、くんくんと匂いを嗅いで一目散に駆け出す。

 その後を追いかけて路地を抜け広場に出ると、そこに居たのは顎に手を当てて考え込む大人たちであった。


「ソラねーちゃんだ。なーにしてんの?」

「今ね、白猫屋さんの謎の迷子事件について考えてるの」

「ニャニャニャ!」

「ニィニィ」

「マォマォ」

「お、チビたち見つかった? よかったなー」

 

 子どもたちに無事出会えたぶち猫は短く鳴いて挨拶を済ませると、すたすたと歩き出した。

 その後ろに二匹の仔猫たちも大人しくついていく。


「おっと、どこに行くんだ?」

「おうちにかえるって」

「飼い猫だったのか。どこんちの猫なんだ」

「なんかパンがいっぱいあるところだって」

「へ?」

「えっ?」


 ムーの言葉に、ソラと串焼き屋の店主は顔を見合わせる。


「ムーちゃん、この子たちと知り合いなの?」

「うん」

「ちょっと詳しく教えてくれるかな」


 ムーの話をかいつまむと、猫集会の話を母親のぶちねーさんに聞いた仔猫たちが、自分たちも参加しようと思いついたらしい。

 が、場所をが分からずあちこちで遊び回っていたら、黒犬に見つかって逃げ出し、串焼き屋のおじさんに助けられる。

 一方、その頃、仔猫たちを探していたぶちねーさんがその現場を目撃し、ムーに助けを求める。

 それですぐに駆けつけると、ちびたちはソラねーちゃんたちと一緒に居たと。


「あ、着いた」

「やっぱり白猫屋さんだ!」

「ミィちゃん、マァちゃん、どこ行ってたんだい! 心配したんだよ」


 白猫屋のおばさんに優しく抱きしめられた二匹の仔猫は、くすぐったそうに髭を震わせた。


「なるほど、迷子だったのは仔猫だったんですね」

「って、白猫屋なのにぶち猫飼ってるのかよ。ややこしいな!」

「めでたしめでたしかー?」

「うん、一件落着だね」

「じゃ、おやつのじかんだし、かえろー」

「そうだねって、ああああっ」

「どうした? ソラちゃん」

「何? どうしたんだい?」

「紅林檎、まだ買ってなかった! い、急がないと」

「ありゃ、さっき果物売りの子が来て、今日はもう全部売れたって……」


 おばさんの言葉に、がっくりと項垂れるソラ。

 その様子に大人の二人は目を合わせ、無言で頷きあった。



              §§§



「いただきまーす! うまい!」

「美味しー!」

「おお、これはいけるね」


 焼き立てのパイを頬張る三人の様子に、ユーリルは満足げに頷いた。


「なんかサクサクするなー」

「うー、甘酸っぱい!」

「いい香りだね。うん、絶品だ」


 早速、ユーリルも一口食べて頬を綻ばせる。

 薄く焼き上がった生地はパリパリな上、底に引いておいた砕いだクッキーのおかげで程よい食感が生まれている。

 紅林檎の風味は少し弱いが、そこは追加した桂皮シナモンがばっちり補ってくれていた。

 流石に果肉の歯ごたえはないが、代わりに滑らかさと凝縮した深い甘みが舌の上に広がっていく。


 ゆっくりと味わってから、香茶を一口。

 そして嘆息。


「ふふ、りんごジャムのパイも美味しいわね」


 結局、ソラたちは紅林檎が買えなかったのだが、ちゃんと代わりの品を手に入れてくれていた。

 それが白猫屋でも愛用している紅林檎のジャムである。

 仔猫を探してくれたお礼と黒犬から助けてもらったお礼で譲ってもらったらしく、これは後でぜひともお礼しなければと思うユーリルであった。

 

「で、迷子が実は仔猫だったって話、もっと詳しく聞かせてくれるかい」

「ええ、ほんとびっくりしました。いきなり子どもが消えちゃって、謎が謎を呼ぶ展開に」

「ユーばーちゃん、お茶おかわり!」

「はい、火傷しないよう気をつけてくださいね」


 女性たちの昼下がりのお茶会は、美味しく賑やかに続いていく。


 一方、その頃、トールは薄暗い地の底でしなびた黄金樹の実をもそもそと食していた。

 そしてソラの屈託のない笑顔と、ユーリルの手の込んだ美味しい食事と、眠る時のムーの温もりを恋しく思い返していた。



今回はトールが居ない間の女性陣の様子です。

コミカライズ本編で出番が少なく物足りないなーという方は、どうぞこちらで補ってくださいませ。


本日、コミカライズ11巻発売です。

クセの強い"白金の焔"の面々と、トールとのやり取りや戦闘が余すことなく詰め込まれております。

それと今巻は、ありがとうという言葉では足りないくらいガンテツ先生が蟻をいっぱい描いてくださりました。

帯のアオリも非常に魅力的です。


ぜひ、その迫力をお手元で楽しんでください。


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【コミカライズついに160万部!!】
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― 新着の感想 ―
投稿ありがとうございます! やっぱりこの作品が大好きです!
だから、宣伝じゃなくて小説の更新をして欲しいんだけど。何も更新してない期間がもうかなり長くなってるぞ。そろそろ書けなくなるのでは?
投稿ありがとうございます\(^-^)/
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