表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
270/333

新結成、クロシマ隊


「攻略一階分の達成で、最低五年は譲れないわね」

「うわー、このお菓子、皮がすごくサクサクしてるよ! トールちゃん」

「なークソガキ、なんで虫かごなんか持ち歩いてんだ?」

「お茶のおかわりはいかがですか? みなさん」

「む! トーちゃんのおやつ、ムーよりおおきいきがしない?」


 てんで勝手に話し続けるお茶会のメンバーの様子を眺めていたトールは、顎の下を掻きながらボソリと呟いた。


「……バラバラすぎるな」


 そして唯一、無言を保っていた蒼鱗族の男性へ視線を向ける。

 カップを静かに傾けていたモルダモは、トールの眼差しに小さく頷いてみせた。

 だが、反応はそれだけだ。

 どうやら助け船を出す気はないようである。


「探索の費用は当然、そちら持ちね。その代わり、素材の売却益は頭割りで譲歩してあげるわ」

「あれ? よく見たら皮しかない……。でも、おいしい! これ、どうやって作るんだろ」

「お、かぶと虫か。ガキのころよく捕ったな」

「トールさん、冒険者局の方からご連絡がありましたよ。頼んでいた品が明日には届くそうです」

「ムーやさしいから、こーかんしたげるぞ。ちょっとたべかけだけど」

  

 かしましい女性たちの会話にトールが入り込めないでいると、不意に四人の瞳がいっせいに向けられた。


「聞いているの? 貴方」

「トールちゃん、これ内街のお店で売ってるんだってー。今度いっしょに買いに行かない?」

「どうかされました? トールさん」

「はい。トーちゃん、どーぞ」


 おのおのの顔を眺めたトールは、大きく息を吐いてから言葉を返す。


「よし、一つずつ片付けていくか。まずはキキリリだな」

「何よ、急に」

「報酬の件だが、一階を攻略して五年だと五層で二十五年だぞ。赤ん坊にでも戻る気か?」

「おバカね。一度に頼むわけないでしょ。当然、もっと歳をとってからの話よ」

「そんな先のことか。それまで俺が、生きてるかどうか分からんぞ」

「ええ、だから貴方には死んでもらっちゃ困るし、死なせないよう私たちも気をつけるわ」

「それはありがたいな」


 当たり前のように話が進んでいるが、紫眼族の双子やモルダモと協力関係になることはすでに決定事項であった。

 その理由は彼女たちが所有する青い髑髏である。


 チタたちが腐屍の龍を浄化させて旅立つまでの数日間、トールたちも無駄に過ごしてきたわけではない。

 面倒な連獄を通り抜けて四色の柱の鍵であるモンスターを倒し、十五層への鉄格子を開いて確認してきたのだ。

 結果はやはり新たな迷宮主は発生しておらず、瘴穴らしきものも見当たらないという残念な事実が分かっただけであった。


 ユーリルの推測が正しければ、今後、数ヶ月から数年はこの状態であるらしい。

 それは言い換えると、トールたちの探索が行き詰まったということでもある。


 そんな打つ手がないところへ接触してきたのが、次の階層へ進む鍵を握るキキリリら三人であったというわけだ。

 ゾルダマーグが消え去った後に奥の壁のところに落ちていたのを、ちゃっかり回収しておいたとのことらしい。

 

 彼女たちが言い出したのは、トールたちとの合同探索だった。

 それは青い髑髏を入手する手段が絶たれた現状、受け入れざるを得ない提案でもあった。


 もっとも最初は圧倒的有利な立場から色々と条件を押し付ける予定の双子たちであったが、それもトールのある行為を目撃したことで大きく変わる。

 翠羽族の兄妹が目の前で別人のように若返ったのを見て、高圧的な態度を一気に軟化させたのだ。

 そして何度か話し合った結果、本日のお茶会のような感じに落ち着いたといったわけである。


 それはそうと、<復元>はモンスターとの関わりが生まれた時点までしか作用しないので、赤子まで巻き戻すのは不可能である。

 だが若返りだと思わせておいたほうが便利なので、あえて二人にはその点を隠してあった。


「費用も食事に関してはこちらで受け持つ。ただし味については文句は言うなよ。ソラもそれでいいか?」

「うん、まっかせてー。腕によりをかけちゃうよ」

「味って、どうせシナシナになった黄金樹の実とかでしょ。まあ、乳臭い粥よりはマシなら文句はないわ」

「さあ、どうかな。あとは素材を売った金の分配も了解した。ただし欲しい物があった時は売り払わずに、その分だけ金を渡すやり方でいいか?」

「それで結構よ」

「よし、条件はそんなものだな。じゃあ、道案内はしっかり頼むぞ」


 トールがキキリリたちとの協力を承諾したのは、青い髑髏の鍵の件だけではない。

 彼女たちが次の階層にすでに行ったことがあるという利点を有していたからだ。

 正直、冥境の階層の連獄で痛い目をみたトールとしては、情報を提供してくれる存在は何よりもありがたい。

 

「それと、前にも言ったけど私たちは強くなりたいわけじゃないの。当然、厄介なモンスターはそっちへ任すわよ」

「俺を死なせたくないんじゃなかったのか?」

「その程度でくたばるタマでもないでしょ」


 新たな深層からは一度に現れるモンスターの数が増しており、苛烈な戦いが予定済みのようだ。

 そのためあらかじめ多めの人数で潜り、手分けして対処するやり方が比較的良いらしい。


「モルダモは何か付け加えることはないのか?」

「いえ、ありませんね」


 物静かな水使いの男性がトールたちとの協力関係で一つだけつけた条件は、真の迷宮主との戦いへの同行であった。

 もっとも戦闘に参加するつもりはなく、見学だけさせてほしいというやや変わった申し出だったが。


「次はユーリルさん、言付けありがとうございます。やっと出来上がったか」


 待ちに待った新装備が、ようやく到着するようである。


「じゃあそっちは明日、みんなで受け取りに行きますか。その後は菓子でも買いに行くか?」

「ほんと! いいの、トールちゃん?」

「ああ、俺も少しは食ってみたいしな」


 ムーが勝手に交換したトールの皿には、パラパラになった薄皮の破片しか残っていなかった。

 自分の皿を丹念に舐めていた子どもは、目を丸くしてトールを見上げる。


「トーちゃん、こんなにおいしーのになんで食べなかったの!?」

「ああ、なんでだろうな」


 トールが子どもの鼻先を掴んで左右に揺らすと、ムーは楽しげにくぐもった笑い声を放った。


「じゃあ最後は俺からだ。まだ互いに気心のしれない相手だが、危険な場所へ同行する以上、気持ちを一つに――」

「ちょっと待って」

「うん。どうした?」


 いい感じの言葉で締めくくろうとしていたトールへ、いきなり口を挟んできたのは黙々と虫かごをいじっていたネネミミだった。

 皆の注目が集まった瞬間、頬を少し赤らめた双子の妹だが、無理やり吐き出すように言葉を続ける。


「名前。まだ決まってない」

「名前?」

「新しいパーティ。名前、変えないと」

「ああ、それか。泥漁り隊のままじゃ駄目なのか?」

「嫌よ。何それ、ダサすぎて頭がおかしくなるわ」

「それほどか?」


 トールが意見を求めて皆の顔を見回すと、口々に声が上がった。


「雷光同盟なんてどうかしら」

「俺たちの要素が皆無なんだが」

「トールちゃん一家はどう?」

「家族にまでなった覚えはないわよ」

「氷結の教え隊はいかがですか?」

「意味不明ね」

「ムーはむーむーたい!」

「馬鹿みたいだし却下ね」


 たちまち先ほどと同様に、テーブルは混沌の状態へと戻っていく。

 助けを求めてトールが再びモルダモへ視線を送るが、さり気なく目をそらされてしまう。

 このままでは永遠に決まりそうにもないと思えたその時、言い出しっぺのネネミミが不意に傍らの子どもへ縞猫を持ち上げながら尋ねる。


「なあ、クソガキ。こいつの名前なんていうんだ?」

「シマだぞ。そっちはクロ!」

「あ、なんかよく見たら二人に似てますね」


 ソラの指摘通り双子と二匹の猫は、黒髪に紫が交じる見た目だけでなく、どことなく雰囲気まで似通っている。

 猫とそっくりだと言われた姉妹は目を合わせると、なぜか嬉しそうに笑った。


「リリ、どう?」

「うん、分かりやすくて良いわね。気に入ったわ」


 結局、そういうことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズついに145万部!!】
i00000
― 新着の感想 ―
くそガキと言っているのどちらかが分からないと思った。文章の流れ的にはネネミミなんだけど、セリフ的にはキキリリなんだよね。
[気になる点] >最低五年は譲れないわね 価値観がおかしいんでないかと。重傷や欠損を元に戻すならまだしも、若返りにはそれらすべて含まれて+αでしょ。そんな目立つことすれば、仲間が拐われて脅迫なんてのも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ