↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
役立たずスキルに人生を注ぎ込み25年、今さら最強の冒険譚  作者: しゅうきち
真銀の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/334

思わぬ依頼


「で、最後のこれが、あんたらの一番読みたい物だろうな。ほれ、冒険者の探索と戦闘の記録だ」


 オレンが机の引き出しの鍵を開けて取り出したのは、黄ばんだ紙の束だった。


 今からおよそ三十年以上前、大瘴穴が生み出した迷宮"悍(おぞ)ましき蛇穴"を制覇した英傑がいた。

 その人物の名を取った街が、ここダダンの境界街である。


 この街を拠点に、冒険者たちはもっと奥地へと探索を始める。

 モンスターと戦いながら森を切り拓いて道を作り、血の如く赤く濁った流れの岸辺に停留施設を設ける。

 さらに砂まみれとなって荒野を渡り、獣鬼(オーク)たちと激しく刃を交わした。

 

 順調に次の大瘴穴を目指して進む冒険者たちだが、それも荒野を抜けた先までであった。

 そこで待ち受けていたのは、果てしなく広がる黒い沼と、より凶悪さを増したモンスターどもだ。

 

 それでも何とか泥をかき分け進む彼らの前に立ち塞がったのは、その体を蝕む白い霧だった。

 さらに濃霧の向こうにそそり立つ巨大なモンスターの姿に、冒険者たちは声を失い立ちすくむ。

 そしてその老婆そっくりの影像に、思わず口をついて出た言葉が一つだけあった。


「…………魔女?」


 ――妖かしの沼の魔女の呼称が生まれた瞬間である。

 もっともこの恐ろしい怪物の実態を明かすことはできないため、その言葉だけが境界街に広まってしまったが。


 呼び名がなんであれ、魔女が強大な障害物であることは間違いない。

 意を決した当時の英傑候補たちが、勢い込んでモンスターへと挑んだ。

 だが戻ってきたのは、たった一人であった。

 そこから沼地の魔女の噂は実態とはかけ離れ、人をさらう存在として拡散していくこととなる。


「そんな経緯があったのか」

「だから、具体的な魔女らしき逸話が存在しなかったのですね」


 その後、対策を練りつつ先達の冒険者たちが挑んだ戦闘回数は三度。 

 勝敗の結果は、魔女がいまだに健在の時点で言うまでもない。


「そうなった点のいくつかだが、挙げるべきはまず畏怖の特性だな」

「いふ?」

「強い恐怖を抱かせるという意味だ。記録によると魔女を近くで直視するだけで、手足の力が抜け震えが止まらなくなったとあるな」


 思い当たる節があったトールとソラは、無言で本棚を見上げる子どもへ振り返る。

 いつもであればとっくによじ登って怒られている頃合いだが、今日はあまりにも静かすぎた。

 

 おそらく幼いうえに、人一倍に敏感なせいで影響が大きかったのだろう。

 手を差し出すと子どもは黙ったまま近寄ってきて、ギュッと握り返してきた。

 そのまま抱き上げてやると、トールの首元に顔を埋めてくる。 


「次は腐蝕霧だな。高い濃度で浴びると、全身が腐り落ちたとの記述がある。そのため闇技(あんぎ)ではないかと推論されているようだ」

「闇技!?」


 闇技とは、邪神の洗礼を受けた亜人たちが使う技である。

 その点からも、ただの精霊系でないのは明らかだ。 


「……厄介というレベルを通り越しているな」

「他にも大きな杖を振り回したり、巨人や邪霊を呼び寄せたなども書かれているな。しかも、それだけじゃない」

「まだ、あるのか?」

「いや、ない。正確には目撃例がない、だがな」

「どういう意味ですか?」


 首をかしげるユーリルに、少しだけ眉を持ち上げながらオレンは種明かしをする。


「三回の戦闘全てだが、狂乱相が確認されていない」


 思わぬ一言に、トールも眉を持ち上げた。

 強い個体であれば、ある程度の損傷を受けると、形態を変え凶暴性を増大させる狂乱相へと変化するはずだ。

 それを見せていないということは――。


「底なしの体力か、もしくは嫌ってほど再生力があるかだな」

「泥毒の巨人の特性を踏まえるに、後者だとは思うがね」

「その巨人でさえ、そう簡単に倒せないとなると、これはもうどうしようもないな」


 巨人を倒さねば、金剛級に上がることができない。

 かといって、何も考えずに倒してしまうと魔女の報復が来る。

 完全な手詰まり状態であった。


 黙り込んでしまったトールへ、資料室の主は言葉を続ける。


「分かってくれたようで何よりだ。若者の無謀をいさめるのがここの役目でな。悪く思わんでくれ」

「いや、いろいろと助かったよ。ありがとう」


 礼を述べたトールたちは、本棚だらけの部屋を後にする。

 扉の外に出たとたん、待ち構えていたシエッカが寄ってきた。


「あまり良いとはいえないご様子ですね、トール様」

「察しが早くて助かる。今は打つ手なしというのが本音だ」

「では、耳寄りなお話を一ついかがでしょうか?」


 タイミングを狙い澄ましたかのような申し出に、トールの目元がわずかに動く。

 それに気づいたシエッカは、慌てた声で疑念を打ち消した。

 

「いえいえ、誤解なさらずに。これはトール様が資料室から出ておいでの際に、持ちかけるように言われておりましたので」


 さらに怪しくなった言葉に、トールは鋭く問いかける。


「誰に言われたんだ?」

「それはもちろん、トール様もよくご存知の私の元上司です」


 となると、心当たりは一人だけである。

 頼りにはなるが会うとなると腰が重くなる、とある人物を思い浮かべながら、トールは仕方なしに耳を傾けることにした。


「どうやらお聞きいただけるようですね。では――」


 数分後、話を聞き終えたトールたちは、冒険者局を出て外門へと向かった。

 門の脇に停めてある馬車に近づくと、まだトールの首にしがみついていたムーが小さく尋ねてきた。


「なー、トーちゃん」

「どうした?」

「また、あのどろだらけのとこいくの?」

「ふむ、どうかしたか?」

「えっと、そうだったら、ムーはちょっとおやすみしたいかも」


 上目遣いで見つめてくる子どもに、トールはしっかりと頷いた。

 その金色の巻き毛を優しく撫でながら答える。


「すまなかったな、ムー。次はちゃんと、トーちゃんが気づいてやるからな。あと安心しろ。沼地は当分休みだ」


 その言葉通り、馬たちが走り出した先は、瘴地へ向かう東ではなく北の方角であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズついに160万部!!】
i00000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。