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祝勝パレード


 際限のない瘴気を生み出す"昏き大穴"が存在する東の地へ、冒険者を送り出す門は外門という呼び名だ。

 対して街の反対側、南北に伸びる街道へ向けて開かれる門は、正門と呼ばれていた。


 たかが呼称の問題だが、正門の向こうにひしめき合う人の群れに、トールは皮肉を感じて少しだけ口元を緩めた。

 今から馬車が向かうのは、内街の中央にある街庁舎前の広場である。

 そこで大々的に、今回のボッサリア奪還成功の件を発表をするらしい。


 行列の露払いを務めるのは、衛士隊から選抜された一級衛士たちだ。

 白く眩い真銀の鎧に身を包み帯剣した彼らは、整然と並んで黙々と先頭を歩いていく。

 大通りの両側に群れなす人々は、普段は外街まで行かないと見る機会の少ない武装集団の姿に大きな声援を送った。


 しかし次に現れた者を目撃したとたん、次々と静寂が広がり始める。

 そして眼の前を通り過ぎる信じがたい光景に、疑問の声を口々に漏らした。


「……な、なんで、子どもが?」

「えっ、何に乗っているんだ? あれ、どうやって動いている?」

「間違って紛れ込んだ……とかじゃないよな?」


 ゆうゆうとソリに乗って道の真中を進むのは、小さな冠をかぶり赤いケープをなびかせた紫眼族の子どもであった。

 魔石によって浮かんではいるが、ソリを引っ張る存在は何も見当たらない。

 しかし赤い三角旗を立てた銀色のソリは、滑らかに宙を進んでいく。


 その後姿を見送った人々は、動力のからくりに気づき唖然と口を開けた。

 ソリの後部に付けられていたのは、巨大な嵐晶石であった。

 子どもがそれに触れる度に、風が吹き出しソリを前に押し出しているのだ。

 あり得ないほど贅沢な魔晶石の使い方に、観客は言葉を失ったまま見送るしかなかった。


 次いで現れたのは、幌のついていない四人乗りの儀装馬車であった。

 前の座席に腰掛けているのは、この街が誇る金剛級の剣士"最強の剣にして盾"ストラッチア。

 その隣にはストラッチアの婚約者にして、"幻炎の使い手"として名高いニネッサ。

 後部席には、若き天才地使いとして知られるクガセが座っている。


 誰もが知る英雄たちの登場に、群衆は一気に盛り上がり歓迎の声を張り上げた。

 加熱する声援は、次の馬車の乗客によっていっそう高まった。


 前の席から澄ました顔で手をふるのは、信奉者の多さで有名なラムメルラだ。

 一般受けの良い施療神殿の顔として住民全般に人気があり、密かに"癒やし姫"という呼称さえある。

 

 しかしながら人々が思わず声を漏らしたのは、その隣に座る美しい女性の姿であった。

 日に当たると透けるような輝きを放つ銀の髪に、高い鼻筋と落ち着いた灰色の眼差し。

 左右に突き出した耳も含め、その整った顔立ちは衆目を否応なしに惹き付けてしまっていた。


 さらに完璧な雪の結晶を思わせる冷たい美貌が、笑みを浮かべた瞬間、うららかな日差しを浴びた花のように変化を遂げるのだ。

 見慣れないその美人に、人だかりはたちまち熱狂的な歓声を叫んだ。


 最初は前の二人に注目していた周りだが、後部席の少女も負けず劣らず可愛いことに気づき驚きの声が上がる。

 同じく見慣れない白いローブ姿の乙女は、元気よく人垣に手を振って瞳を輝かせていた。

 

「うわー、すっごい人気ですね。ラムさんとユーリルさん」

「ふふ、ソラさんも歓迎されていますよ」

「ええ、みんなソラのほうもよく見てるわよ」


 視線を周囲に向けたまま仲良く会話する三人。

 それを隣で聞きながら、トールは心配な点を尋ねる。


「ユーリルさん、日差しがかなりきついですが大丈夫ですか?」

「はい、今日は日焼け止めを塗ってきてますので」

「そうですか。ところで、これずいぶんと進むの遅くないか?」

「トール様たちのお披露目ですからね。たっぷりお時間かけるみたいですよ」

「ほら、トールちゃん、笑顔だよ、笑顔」


 通りを埋める群衆の顔には、それぞれ楽しそうな表情が浮かんでいる。

 悪くはないなと思いつつも、どこか居心地の悪さを感じたトールは苦笑を浮かべてみせた。


 ラムメルラの言葉通り、じっくり通りを練り歩いた馬車は、十五分もかけてようやく大広場に到着した。

 ダダンの銅像がある辺りに大きな壇が設えてあり、馬車が近づくと紫の法衣を纏った神官たちが出迎えてくれる。

 その先頭に立っていたのは、珍しく白い制服をきっちりと着込んだダダンであった。


 いつもの適当な姿しか見たことがないソラが、馬車から降りながらこっそりトールに耳打ちして尋ねてくる。


「え、あれ、似てるけどダダンさんかな?」

「ああ、おそらく師匠だな」

「こら、聞こえとるぞ、お前ら」


 そのままダダンを先頭に、一行は横にある階段を登って壇上へと並ぶ。

 そこに広がっていたのは、眼下を埋め尽くす大勢の人の姿だった。

 

 ダダンが一歩前に進むと、大きな歓声が湧き上がり、その手が持ち上がるとピタリと止んだ。

 ゆっくりと聴衆を見渡した大柄な老人は、老いを感じさせない声を高らかに放った。

 

「さて、今日のこの日、私は集まってくださった皆様に、どうしても一つやりたいことがある」


 息を溜めたダダンは、こぶしを天にまっすぐ突き上げながら叫ぶ。


「それは勝利を宣言することだ! 見よ、この八人の手でボッサリアの地が、再び我らの手に戻ってきた!」


 広場に響き渡った声が消えると同時に、雷神を信奉する神官たちがいっせいに足を踏み鳴らし勝利の咆哮を叫ぶ。

 そして間を置かずして、凄まじいほどの歓声が巻き起こった。



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