だがしかし彼女らの戦いはこれからだ。
西暦3XXX年。
母なる地球を過去に置き去りにし、人類は宇宙の彼方へとその版図を広げていた。
ここに至るまでの過程が順風満帆だったと。そう言ってしまうと、嘘になるだろう。人類は幾度も滅亡の危機に瀕し、そしてその都度それを乗り越えてきたのである。
ある時は敵対的な異星人との戦争、またある時は多元宇宙に君臨する超越者との生存競争。またあるときは……。襲い来る数々の脅威に対して人類は戦い続け、そして勝利を収め続けてきたのである。
今もまた、全人類から選りすぐった強者達で構成された航宙軍の艦隊が、数光年の距離を隔てて“敵”と相対していた。
これより行われようとしているのは、互いに滅亡を懸けた最後の戦い。度重なる和平交渉も、模索された共存への道も虚しく。その全てを嘲笑うかのように、戦いの火蓋は切られようとしている。
しかし、人類側に不安の色は見えない。彼等は確信しているのだ。自分達の、勝利を。
何故ならば、彼等の艦隊の中央にて存在感を示している人類連合軍の総旗艦には。その艦橋には、人類の希望が威風堂々と騎座しているのだから。
──敵艦隊、無量大数。天の光は、全て敵……ね。
「待て待て、いくらなんでもサバの読みすぎじゃないのか?」
──あら? 私の観測データが信用出来ないの? なら、自分で数えてみればいいじゃない。
「日が暮れるわ」
──1秒に4つづつ数えるとして、数え終わるまでに……そうね、803626543209876543209876543209876543209876543209876543209876年ってところかしら。頑張って。
「お前は相変わらずいい性格をしてるよ、キョウカ」
──あら、酷いわね。こんなにも貴方のことを愛しているというのに。
「人類最古にして最高の情報生命体にそこまで言ってもらえるなんて、全く光栄だ。……だがな、少しばかり姉さん女房に過ぎる気がするんだが?」
──何を言っているのかしら? 私は十七歳よ。情報生命体に加齢の概念はないわ。
「へいへい」
「リョウ艦長。これから決戦だというのに、少しばかり気を抜きすぎでは?」
「ああ、すまんな、サワノ」
「付け加えて言うなら。キョウカばかりを構うのは、司令部の士気の維持という面において不都合が大きいかと」
「……あー、なんだ。その髪留め、似合っているぞ」
「ありがとうございます。家宝にします」
「……これだから、下手なこと言えないんだ」
「艦長、キョウカやサワノばかりでなく、この私のことも忘れないで欲しいのだが?」
「いや、マスミはもうお姉さんなんだから、ここは堪えて欲しいと俺は思う」
「そう言うな。さあ、構いたまえ。何だったら、キョウカと立ち位置を交換しても良いのだぞ?」
──残念ね、ここは私の特等席よ。艦長が私にダイヴすることによって、二人は一つとなる。私がリョウの体となるのよ。
「……待て。操縦してるだけなのに、何でそんな卑猥な表現になってるんだよ」
――それにしても、本当に不思議よね。私がここにいるのに、貴方という存在が生まれてくるだなんて。この私にとってすら、因果律には未だ謎が多いわ。
「澤乃井鏡花の件ですか。私があの女傑の生まれ変わりだという。キョウカ、貴方の言葉を疑うつもりではないのですが、やはりにわかには信じがたいものがあります」
――彼女の半身だった私が言うのよ? 何なら、彼女の明かされてない恥ずかしい秘密とか、ここで曝け出して見せましょうか。きっと、貴方にも当てはまるものがあると思うのだけれど。例えば……
「あっ、信じました。今、急に信じられる気持ちになりました」
――そう? 残念だわ。まあ、貴方はまだ一二歳。鏡花が覚醒したのが一七歳だったから、後五年もすればきっと実感が出来ると思うわ。
「でしたら、五年経ったら私もキョウカとマスミに宣戦布告することにします。覚悟しておいてくださいね」
――既に参戦している気もするのだけれど。……でも、また貴方と楽しくやれるだなんて。それは本当に、とても楽しみだわ。
「……なあ、キョウカ」
──何かしら?
「お前、良かったのか? その、この艦のメインコンピュータなんてもんになっちまって」
──……ええ、もちろんよ。人としての体も素晴らしいものだったけれど……
「けれど?」
──やっぱり、私が貴方の隣に立つのなら、この形のほうがしっくり来るわ。貴方がソラにいる限り、私が貴方の翼よ。
「……ほんと、俺なんかにはもったいない良い女だよ、お前は」
──そろそろ射程に入るわ。
「……わかった。主砲、発射準備」
──発射準備完了。
「照準、敵艦隊旗艦」
──照準、良し。……これが、最後の戦いかしらね。
「ああ、多分な。無事に勝利出来たのなら、何処か田舎の星にでも引っ込んで、のんびりと過ごすことにするよ」
──なら、新しい戦いが始まるわけね。
「……キョウカ?」
──これからは、貴方を巡る、女たちの戦いが、ね。
fin.




